江戸時代に盛んになった「判じ絵」または「判じ物」という遊びをご存知ですか?
描かれた絵で名前を当てる「謎々」のようなものです。当時はただ単に「なぞ」と呼ばれていたようです。


いつ頃から存在していたのかはっきりとはわかっていません。発祥という決め手の版元の詳しい資料やというのが見つかっておらず、また、解答の刷りも残存している物が少ないので答えの分からない判じ絵も存在するようです。

似たような遊びが平安時代にありましたが、それは和歌が詠まれた情景を描いた絵から本歌を推測するが「歌絵」や、文字を絵に隠して描き、そこから和歌を連想する「葦手絵(あしでえ)」など、和歌や古典文学に精通している貴族ならではの遊びでした。庶民が手軽に駄洒落を楽しむような判じ絵というのは、町人文化が花開いてからなのでしょう。

値段もはっきりとはわかりませんが、一枚かけそば一杯ぐらいの値段で、現代でいうと300~400円程度だったと推測されています。

なかには勧進聖といって出家姿で物乞いをする生業があり、朝に勝手に人の家に判じ絵帳を投げ入れて、夕方になると答えを売り歩くという商売もあったのです。
解いてみたものの答えがわからないんじゃあ気になってしょうがないですよね。

この判じ絵。読み解くのにいくつかコツがあります。

■固定の読ませ方をする絵

・琴柱…そのままの漢字ですと「ことじ」とよみますが、これは「じ」と読ませるようです。ちなみに琴柱とは琴および箏(そう)で、弦を支え、その位置によって音の高低を調節するものです。
・天狗などの魔物…これは「ま」と読ませるようです。


■一部分が消えてる絵

消えてる部分に相応する部分を読まない。例えば川の絵の下半分が消えていたら「か」と読む。

では江戸時代の謎々にいざ挑戦してみましょう!(答えも掲載しました)

■えどめいしょはんじもの(歌川重宣)

まずは江戸の名所です。東京出身でないと分かりづらい地名もあると思いますが、観光名所も多いので、がんばって解いてみて!

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お正月は福笑いじゃなく「判じ物」で初笑い!地名から動物名までまったり解いてみて


答え 1 目黒(目が黒いから「め・ぐろ」)
2 浅草(「あ」の字の屁が「さ」で、それが臭いから「あ・さ・くさ」)
3 入谷(矢を煎る様子で「いり・や」)
4 日暮里(火が憎い=ひにくらしい=ひくらし)※にっぽりが「ひくらし」と読めるため
5 梅若(梅の紋、輪、蚊で「うめ・わ・か」)
6 四谷(四本の矢で「よつ・や」)
7 芝(四枚の葉に濁点で「し・ば」)
8 金杉(ひらがなで「すぎ」の字だから「かな・すぎ」)
9 王子(大きな琴柱〈ことじ〉で「おお・じ」)
10 赤坂(傘に「あ」と「か」の字で「あ・かさ・か」)
11 上野(鵜と絵の具の看板上部で「う・えの」)
12 隅田川(蜘蛛の巣と阿弥陀様がふるいの側に立つから「す・みだ・がわ」)
13 本郷(本と鵜が碁をうつから「ほん・ご・う」)
14 高輪(鷹が縄をくわえているため「たか・なわ」)
15 築地(上半分の鶴と雉で「つ・きじ」)
16 本所(本を読む錠で「ほん・じょう」)
17 番町(火の番をする帳面で「ばん・ちょう」)

個人的には隅田川が無理矢理だなあと。
阿弥陀様、そばに立つと言うより、たらいの中に入っちゃってませんか?

■東海道五三次はんじ物(一鵬斎芳藤〈いちほうさいよしふじ〉

お次は東海道五十三次。宿場順に並んでいるわけではないので気を付けて!

お正月は福笑いじゃなく「判じ物」で初笑い!地名から動物名までまったり解いてみて


お正月は福笑いじゃなく「判じ物」で初笑い!地名から動物名までまったり解いてみて

答え 1 神奈川(頭のない魚と竹皮で「かな・がわ」
2 原/蒲原(原を指す「はら」/手に鐶〈かん〉を持っているから「かん・ばら」)
3 箱根(歯、逆さの猫で「は・こね」)
4 興津(起きる鶴の下半分がないから「おき・つ」
5 小田原(尾、俵に濁点で「お・だわら」)
6 江尻(絵、尻に濁点で「え・じり」
7 藤沢(船の前半分、琴柱が騒いでいるから「ふ・じ・さわ」
8 品川(熨斗の下半分、菜、傘の上半分、輪で「し・な・が・わ」)
9 沼津(「ぬ」の字が拙〈まず〉いので「ぬ・まづ)
10 由井(銭湯へ行く格好をした女性が「どちらへ」と呼びかけられていて、返事が「湯へ=ゆへ=ゆ・い」)
11 日本橋(二冊の本に「ば」の字が四つで「に・ほん・ば・し」
12 岡部(尾、「か」の字、屁に濁点で「お・か・べ」)
13 府中(文の上半分、ネズミの鳴き声で「ふ・ちゅう」)
14 蒲原(上半身の関羽、腹に濁点で「かん・ばら」)
15 保土ヶ谷(帆、「ど」、下のない逆さの薬缶で「ほ・ど・がや」
16 川崎(竹皮を裂くから「かわ・さき」
17 戸塚(戸、柄で「と・つか」)
18 平塚(上半身の白井権八、尾のない逆さまの鯉で「ひら(しら)・つか」
19 大磯(足がない大急ぎの飛脚)
20 丸子(鞠の子供で「まる・こ」)

白井権八は歌舞伎で有名な登場人物。
若くてハンサムで殺人を犯した役です。関羽は三国志で有名な武将ですね。

当時流行っていた演劇なども知らないとわかりづらいものがありますね。しかし鵜を多用するのはちょっと芸がないかも!?

■けだものはんじもの「けだものはんじもの」(歌川国盛)

お次はけだもの(獣)です。中には架空の動物もいますので、想像力を駆使して当ててみて。

お正月は福笑いじゃなく「判じ物」で初笑い!地名から動物名までまったり解いてみて
お正月は福笑いじゃなく「判じ物」で初笑い!地名から動物名までまったり解いてみて


答え 1 豚(濁点のついた「歩」の駒が田圃に立っているから「ぶ・た」
2 虎(砥石、蔵の下部で「と・ら」)
3 鼠(眠れない箕だから「ねず・み」)
4 獅子(武士が四の字を書いているから「し・し」)
5 熊(熊坂長範の上半身で「くま」)※熊坂は牛若丸に討たれた大泥棒
6 狸(田圃から抜いているので「た・ぬき」)
7 羊(櫃〈ひつ〉の中にある琴柱で「ひつ・じ」)
8 猿(離縁状を渡して去っていくから「さる」)
9 猫(寝ている子供で「ね・こ」)
10 狼(芋を噛む様子で「お・を・かみ」)
11 狐(杵の間に「つ」の字で「き・つ・ね」)
12 鹿(静御前の中央がないことから「し・か」)
13 狆〈ちん〉(鼻をかむ擬音が「ちん」だから)
14 麒麟(木、鈴で(き・りん」)
15 馬(鵜の魔物なので「う・ま」)
16 兎(鵜、鷺で「う・さぎ」)
17 鼬〈いたち〉(井戸に太刀で「い・たち」)
18 狢〈むじな〉(六つの品の字に濁点で「む・じな」)
19 犬(縫い取りをする人が逆さまになっっているので「いぬ」)
20 猪(井戸に子供が小便で「「い・(の)・しし」
※幼児語でおしっこしたいということを「しーしー」というから)

熊坂長範は謡曲の主題にもなっている平安時代の伝説上の盗賊ですが、現代人でこの絵を見てピンとくる人は少ないでしょう。
静御前は、源義経の前で舞う巫女の舞装束のイメージが強いのですが、つづらを持ったただのお姫さまに見えますよね…。

ただ、獣に関しては全体的に地名よりも腑に落ちる答えが多い気もします。

さてあなたは難問解けましたか?今なら親父ギャグと一笑されてしまいそうですが、人間って今も昔も変わらないんだなあとほっこりしませんか?

参考文献:いろは判じ絵 —江戸のエスプリ・なぞなぞ絵解き、江戸の判じ絵 これを判じてごろうじろ
画像:国立国会図書館より

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