毎年4月の中旬に開催される「鎌倉まつり」では、その最終日を彩るイベントの一つとして、鶴岡八幡宮で流鏑馬(やぶさめ)が奉納されます。

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的中の瞬間、観客から歓声が沸き上がる。


古式ゆかしき武田流の礼法にのっとって執り行われた勇壮な騎射(きしゃ。馬に騎乗しながら矢を射ること)が観客を沸かせ、坂東に誇る「武家の古都」の面目を示しています。

ところで、流鏑馬がこの漢字で「やぶさめ」と呼ばれるようになったのはどうしてなのでしょうか。

そこで今回は、流鏑馬の語源などについて紹介したいと思います。

■矢馳馬が「やぶさめ」に

流鏑馬の語源は「矢馳馬(やばせめ)」すなわち騎射を表わす言葉が、時代と共にこなれて「やぶさめ」になっていったものと考えられています。

一方の漢字表記については「走りながら(流)鏑矢を射る(鏑)馬術(馬)」というニュアンスの当て字であり、読み方と直接的な関係は薄いようです。

しかしこうした言葉に漢字を当てる昔の人のセンスは絶妙で、日本語は話すだけでなく、書く美しさも兼ね備えていることを実感します。

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鏑矢の先端に雁叉の鏃がついている。

余談ながら、鏑矢(かぶらや)とは先端に蕪(かぶら。かぶの古称)のように丸いパーツ(鏑)をつけた矢で、射放つと笛のように音が鳴る仕掛けや、鏑の先端に鏃(やじり。矢尻)を取り付けたものなど、様々なバリエーションがあります。

■豆知識:流鏑馬に携わる「所役」あれこれ

さて、流鏑馬を執り行うには騎手だけでなく、様々なサポート(所役)を要しますが、「鎌倉まつり」ではその一部を公募市民が担当させてもらえます。


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馬場へ入場する所役たち。騎手の先導を務める。

筆者も一度体験する機会に与れたので、どんなことをしたのか紹介したいと思います。

公募市民による所役は以下の通りです。
一、 的目付
一、 的立
一、 幣振
一、 矢取
一、 扇役
一、 旗持
一、 太鼓

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的中の瞬間を見届ける所役たち。奥から的目付(太刀を佩いている)、幣振り、矢取り。そして門人(朱の陣笠)。

的目付(まとめつけ) 定員:3名(一の的から三の的まで、各的に1名ずつ配置)
文字通り的の管理人(目付)で、主に射られた矢の的中判定を担当します。
実際には武田流の門人の方がついてサポートしてくれました。

的立(まとたて)
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的立。身長があると作業が楽。

定員:3名(各的に1名ずつ配置)
文字通り的を立てる(セットする)役で、筆者の参加時は的目付と兼任でした。

的目付は基本的に座りっ放しなので、程よく身体を動かせていい感じです。

幣振(へいふり) 定員:3名(各的に1名ずつ配置)
的奉行の傍に控えて、矢が的中すると、進み出て手に持った幣(へい。ぬさ)を上下に振って本陣(運営本部)に的中を知らせます。

矢取(やとり) 定員:3名(各的に1名ずつ配置)
騎手の射放った矢を回し、騎手にそれを渡す役目です。
一見地味ですが、騎手は馬上から矢を受けとるため「馬が好きなので、近づけて嬉しかった」と好評の声が主に女性陣から多く出ていました。

扇役(おうぎやく)
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幣、扇、陣太鼓。使い込まれて年季が入っている。

定員:2名(馬場のスタートとゴールに1名ずつ配置)
スタート地点から「出走するぞ」と扇で合図を送り、ゴール地点で「コース(馬場)に異常なし」と扇で合図を返す役です。
大きな扇を舞わす(回す)優美な仕草は、流鏑馬における見どころの一つとなっています。

旗持(はたもち) 定員:2名(本陣に控える)
陣中に威儀を示す紅白の旗を奉持(ほうじ。奉げ持つ)する役で、とてもカッコいいため、所役における花形の一つです。
ただし、流鏑馬の最中は立ちっぱなしなので、少し退屈に感じるかも知れません。


太鼓(たいこ) 定員:1名(本陣に控える)
文字通り、合図の太鼓を規定通りに打ち鳴らす役です。
張りのある太鼓の音が響くたび、次の騎射に期待が寄せられ、これもカッコいい人気の役どころでした。

■終わりに

当日、教育係の方より「一般の方にはボランティアの皆さんも『武田流の門人』として見られ、私たちもそのように扱いますので、今日この場限りとは言え『武田流の門人』としての自覚と誇りを以て臨んで下さい」という指導を受けたのが印象的でした。

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穴八幡宮蔵『流鏑馬絵巻』より。

往時の鎌倉武士たちも栄誉とした流鏑馬が、坂東武者の心意気を伝える武家文化として、今後も末永く継承されていくことを願っています。

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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