前回の、清少納言「枕草子」の中で書いた一文から生まれたことわざについてはこちらから。
あの清少納言も恋に悩んでいた!? 「遠くて近きは男女の仲」~日本のことわざ 恋愛編 その1
■「鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」の意味は?
これは、「ミーンミンミンと激しく鳴く蝉と違って、蛍は鳴くことができないけれど、それだけに身に秘めた激しい思いで身を焦がすように光っているんだよ」という意味のことわざです。つまり口に出してあれこれ言う人よりも、口に出さずに内に秘めている思いの方が切実なのだ、ということをたとえで言っていることわざです。
蝉の部分を省いて、「鳴かぬ蛍が身を焦がす」と言われることも多々あります。
■このことわざの語源は都々逸なの?
このことわざは、「恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」という都々逸から来ているという説があります。
都々逸というのは、江戸時代末期に完成された、七・七・七・五の音数律から成る口語定型詩です。恋愛をテーマに、寄席などの舞台の上で三味線などに合わせて歌われていました。
「鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」ということわざ、果たしてこの都々逸から生まれたものなのでしょうか?
この言葉、歌舞伎や人形浄瑠璃にも使われているのですよね。それを考えると、このことわざ、どうも都々逸以外のものからきていると考えた方がよさそうです。
■何と、発祥は平安時代だった…!
実は、このことわざの発祥と考えられる歌が後拾遺和歌集の中にあるというのです。後拾遺和歌集は、平安時代後期に白河天皇の命によって勅撰された和歌集ですが、その中に収められている次の歌がもとになっているというのです。
「音もせで 思ひに燃ゆる蛍こそ 鳴く虫よりも あわれなりけれ」
これは、「声にも出さず、内なる思いに燃えて飛ぶ蛍こそ、鳴く虫よりも感慨深いものがあるなあ」と言っている一首ですが、なるほど、そう言われてみれば、まさしく、この歌からきているという説にうなずけるような気がします。

身を焦がす蛍
命のはかなさを象徴する蛍と蝉 蛍は卵から成虫になるまで約1年、そして成虫になってからは3~7日しか生きられません。
蛍は卵で生まれたときから死ぬまで光りつづけ、蝉は地上に出てから死ぬまで鳴きつづけます。どちらも命を燃やしている姿だと思うと、もののあはれを感じずにはおれませんね。
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan