「新型コロナウイルスは、回復後に後遺症が残るケースが全世界で報告されています。肺へのダメージや血栓を引き起こす症例が知られていましたが、記憶障害の症例も伝えられるようになってきました」(医療ジャーナリスト)
連日増え続ける新型コロナウイルスの感染者。
「3月に新型コロナウイルスに感染し、髄膜炎を発症した山梨県内の20代男性が退院後、直近1~2年間の記憶を失っていることが判明しています。また、4月初旬に感染した埼玉県内の60代男性は多臓器不全となり、人工心肺装置・ECMOによる治療の結果、1カ月後に奇跡的に回復。しかしながら、この男性もせん妄(意識障害)の後遺症を起こしていました」(全国紙記者)
ウイルス学に詳しい日本医科大学の北村義浩特任教授はこう語る。
「新型コロナウイルスで脳炎となり、記憶障害が起きた事例が見られています。脳炎の後遺症には手足のまひや言語障害といった症状もあるので、記憶障害だけというのも、多様な症状が出る新型コロナの特徴かもしれません」
なぜ記憶障害が起きたのか――。
「山梨県の症例では、病院側が鼻の奥の嗅神経から脳にウイルスが侵入したことを推察しています。侵入した場所が記憶をつかさどる脳細胞に近いため、記憶に影響が出たのではないかと考えられます。今後、新型コロナで神経や脳が損傷を受けるケースがまとめて報告されることになるでしょう」(北村教授)
パークサイド脳神経外科クリニックの近藤新院長は言う。
「脳炎は脳自体がダメージを受けてしまうので、消えて欠落した記憶が戻ることはないと思います」
金町駅前脳神経内科の内野勝行院長もこう語る。
「インフルエンザでもインフルエンザ脳症が問題になります。
感染者に限らず、コロナ禍以前から認知症だった人の症状が悪化している現象も見られるという。
「新型コロナウイルスの流行によって外出が減り、身体的、社会的活動が大きく制限されているのが実情です。そのため認知機能や生活機能が低下し、妄想や暴言・暴力などの認知症の症状が悪化する恐れがあるんです」(前出・医療ジャーナリスト)
実際、前出・内野院長の病院には、外出自粛やデイサービスに行かなくなったことで「症状が悪くなった」と駆け込んでくる認知症患者が一気に増えたという。
「介護施設でも、家族の面会が禁止されてしまうなどして、認知症の悪化がエスカレートしています。さらに、コロナに感染した場合、それまで認知症ではなかった人も脳炎などによって認知症を発症することはありえます。認知症自体は、病気ではなく認知機能が落ちた状態のことをいいますが、脳炎によって認知症が重くなることも十分ありえます。
また、コロナに感染した場合の隔離生活や、感染していなくても長引く自粛生活によって、人に会わないなどの生活が続く場合、これまで認知症を発症していなかった人が、それを機に発症してしまう可能性もあるんです」
コロナによる脳炎で認知症になってしまうケースもあれば、長期間の“巣ごもり”で認知症を発症、または悪化させてしまうケースもあるというのだ。
現在、すでに認知症の症状が出ている人はさらに困難な状況に置かれていると内野院長は危惧する。
「短期の記憶を忘れてしまう認知症患者は、新型コロナのこと自体を認識できないこともありえます。隔離されれば監獄に入れられていると錯覚を起こすかもしれません。
認知症がひどくなると、短期の記憶が覚えられなくなります。繰り返し同じことを話したり、アルツハイマーの人なら怒りっぽくなったり、脳梗塞が原因の人なら鬱っぽく無気力になるなど、症状もさまざまです。幼児返りをすることもあります。閉鎖空間のストレスにより、感覚が失われ幼児返りをしてしまうのです。善悪の区別がつかなくなったりもします。
これはコロナ感染者だけにいえることではなく、長い自粛生活で人に会わなくなった認知症の人も同じです」
では、認知症を悪化させないためには、どうすればいいのだろう。
「デイサービスの利用を再開したり、外に出て何かアクティビティをして、以前の生活を取り戻すようにしてください。当院では、旅館の映像を見せて疑似旅行体験をしてもらったり、タブレットでオンライン会話することなどを勧めています。
認知症によっては、改善するものも改善しないものもあります。ただ、一度悪化しても人と会うようにすれば、たとえば脳梗塞によるような認知症でしたら、よくなることもあります。改善しないにしても、しゃべらなくなってしまった方が人と接することで明るくなったということも。
未知のことが多い新型コロナウイルス。全国的に自粛解除が緩和されているとはいえ、報告されている後遺症からは、慎重な日常が求められていることは明白だ。
「女性自身」2020年6月23・30日号 掲載