11月以降、新型コロナウイルスの感染者数が爆発的に増加し、自衛隊も派遣される事態となった北海道・旭川市。旭川厚生病院や慶友会吉田病院では、200人越えの「院内クラスター」事例が報告されている。
その背景には、温度や湿度だけでなく「エアロゾル感染」も影響しているのではと指摘するのは、感染制御学を専門とする、愛知県立大学の清水宣明教授だ。
「クラスターの発生が止まりません。これが第3波の特徴です。その理由を理解しないと、医療崩壊が進んでしまいます。エアロゾル感染、つまりウイルスが漂った空気を吸い込んで感染するということを政府はハッキリとは認めたがりません。
しかし、専門家会議は2月の段階でエアロゾル感染の可能性を認識していたようです。議事録にも“N95(防護マスク)が足りない。空気感染があると言うと病院や一般の人を混乱させる”といった趣旨の記録が残っています。厚労省も9月の『新型コロナウイルス感染症 診療の手引き第3版』で、エアロゾル感染について“さりげなく”触れています」
病院でも、ウイルスの漂う空気を吸った感染者が増えている可能性が高いという。
「今回のクラスターは、飛沫や接触だけではとても説明できない。エアロゾル感染で起きていると思います。旭川の病院でまず必要なのは、院内の中央空調の“再循環ダンパ(風量調整装置)”を閉じることではないでしょうか」
つまり、“暖房効率を上げるために室内の空気を再循環させるシステム”が、感染拡大の要因になりうるというのだ。
「船内の空調は、中央ですべての冷暖房をコントロールする仕組みで、3割は新鮮な外気、7割は古い空気を再循環させるものでした。この7割にウイルスを含むエアロゾルが乗ると、再循環によってどんどんウイルスが蓄積され濃くなってしまいます。患者数が急増した船内では結局、途中からダンパを閉じたといいますが、“時すでに遅し”だったのでしょう」
乗客乗員3千711人のうち712人の患者が確認された同号の船内で治療にあたった、のぞみクリニックの筋野恵介院長は言う。
「あの客船の場合は、感染者がみんな同じ空間にいたことがポイントだと思います。その場合、ウイルスの濃度が高くなっていくので感染リスクはあるでしょう。病院も同じで、感染病棟はそこに感染者を集めているので、そういう場所で循環すれば感染リスクはあると思います」
冒頭の吉田病院では、当初6階だけだった感染は数日の間に1~7階の全階に広がった。
前出・清水教授は続ける。
「冬場は乾燥によってウイルスが飛びやすく、寒いため閉鎖空間になりがちです。すると、室内の空気がウイルス汚染され、それを吸ったことで大規模なクラスターが起きている可能性が高いと思います。これからますます寒くなりますし、病院では特に窓を開けることも難しい。燃料費はかかりますが、再循環を絞って外気の比率を上げるなど、“空気感染する”という意識を常に持って、対策すべきです。
室内が十分、換気されているか確かめる方法はあるのだろうか。
「換気に関しては、窓を開けるだけでなく、サーキュレーターなども使い、ゆるく肌に感じる程度に常に空気が動いているかをチェックしてください。ウイルスを含むエアロゾルは、たばこを吸っている人のたばこの煙と思えばわかりやすいです。まず近くに濃く漂い、それから徐々に部屋中に拡散していく。たばこの煙の粒子とウイルス粒子はほぼ同じ大きさです。
つまりウイルスの煙が漂うというイメージで、それを吹き払う。狭い閉鎖空間で感染が起きるには30分もあれば十分です。とにかく、換気対策が肝心です。クラスターはコロナ医療にとっては爆弾。発生すれば、一気に医療がパンクしてしまうのです」
今冬の病院内はとりわけ、積極的な換気を心がけたいーー。
「女性自身」2020年12月29日号 掲載