現代韓国の若者と聞いて何を思い浮かべますか? 日本では外交上の軋轢ばかり注目されますが、流行語大賞にも選ばれた『愛の不時着』など韓流ドラマで活躍する俳優たちや、米ビルボードで首位を獲得したBTSなど、華やかな世界での成功者が数多くいる印象も強いのではないでしょうか。
しかし、ごく一部のそうした上澄み以外の、市井の若者たちの実態は「非常にシビア」。
安宿緑氏に、若者たちが抱える「生きづらさ」について、日韓の比較を交えて教えてもらいました。
■サムソンは例外中の例外!? 超少ない韓国の大企業
――世界市場で存在感を増す韓国のサムスンに対し、NECや富士通がスマホ事業から撤退するなど、日本企業が世界的競争力をおいて韓国企業に負けていると指摘されるニュースをよく耳にします。韓国の就活事情はどうなっているのでしょうか。
「韓国の大企業比率は0.1%に満たず、OECD加盟国のなかでも最下位圏。また日本で言う中企業の層も非常に薄いため、極めて就職口は少ないです」
――氷河期なんでしょうか。
「構造的な問題ですね。韓国は、大企業比率が最下位圏なのに対し、大卒割合は約7割でOECDのなかでもトップと、ねじれが生まれてしまっています。極めて少ない就職口を、極めて多い大卒者が奪い合う状況です」
■ハイスペ人材が飽和する就活戦線
――厳しい就活戦線のなか、韓国の学生はどのような対策で乗り切っているのでしょうか。
「日本の新卒採用は世界的にもめずらしい教育志向ですが、韓国は即戦力重視の採用。学生も勝ち抜くべく多くのスキルを身につけています。
韓国の学生の多くは、幼少期から勉強漬けの日々を経て、やっとの思いで大学に入学。
学位は二つ取り、TOEICは900点、それにくわえてMOS(Microsoft Office Specialist)資格といった情報処理系の資格も複数取得、といったスペックはザラなんです」
――パイは少なく、ライバルも手強い。そんななか、希望の大企業に受からなかった場合、待遇にどれほどの差がでるのでしょうか。
「大手だと30代で1,000万円くらいの年収にもなるのですが、それ以外の企業だと200~300万円ほど。賃金格差が日本以上にひどいのが実情です。
一次労働市場と二次労働市場という、日本でいうところの正規・非正規雇用の格差も存在しています。産業構造の硬直化のせいで、こちらも日本以上に二次から脱し一次へ移ることが困難ですね」
――そういった背景も、若者たちの大手志向に拍車をかけていそうですね。
■大企業40代定年説とワーキングプア
「若者たち自身の問題も韓国国内では指摘されています。高いプライドを捨てきれない点です。
大学まで出たのに、とブルーカラーの仕事などは嫌がりますね。といっても働かないわけにもいかず、どうにか得た仕事が月13万円とか、いわゆるワープア状態に陥った大卒貧困者は多いです」
――大企業に入れば実際に将来は安泰なんでしょうか。
「大手にも大手のデメリットがあるんです。
こうした状況から一部の若者の間では、仕事の持続性ややりがい、またスキルアップを重視した働き方を望む人たちも現れているとのことです。といってもプライドの存在はやはり大きく、仕事の選り好みの傾向も。
日本の比でない、企業規模次第の賃金・待遇格差によって、“学力エリート”な若者たちの受難の日々は続いていくのでしょう。