「高齢者はたとえばインフルエンザワクチンを接種しても、予防効果が一般的な成人と比べて低いといわれています。理由は、加齢とともに免疫細胞が弱まっているから。
新型コロナのワクチンでも同じです。免疫細胞が弱ったままだと、ウイルスに対抗する強い抗体を作ることができません。しっかりとワクチンの効果を出すためにも、今から免疫力を高めておくことが重要といえるでしょう」
こう語るのは国産ワクチン開発の第一人者でもある、大阪大学大学院の森下竜一寄付講座教授だ。
2月17日から国内でも新型コロナウイルスのワクチン接種が始まった。まずは医療従事者から接種が始まり、4月からは65歳以上の高齢者が対象となる。
そんななか、森下教授は「ワクチンの効果を高めるためにも、高齢な方々は特に今のうちから免疫力を高めておくべき」だと訴えたいという。
そもそも、免疫力とは何なのか。教授はこう解説する。
「簡単に言うと、体内にある免疫細胞たちの力です。
免疫には自然免疫と獲得免疫があります。自然免疫には、NK細胞などと呼ばれるものがあります。
しかし先ほど申し上げたとおり、体を守ってくれる免疫細胞たちは年齢とともに弱まっていきます。そうして、体の免疫力も落ちてしまうんです」
■免疫力は40歳でピーク時の半分ほどに
実は、免疫力のピークは18歳前後。働き盛りの40歳でも、免疫力はピーク時の半分ほどになっているというのだ。
厚労省が発表した昨年7月時点での新型コロナウイルスによる年齢別死亡率を見ても、60代から急激に高くなっている。
ワクチンの効果を高めるためにも、重要な免疫力。それを高めるカギは、「ミトコンドリアを活性化させること」だという。森下教授が続ける。
「ミトコンドリアとはいわば、細胞の中にあるエンジン。細胞を動かす原動力です。
ヒトは、およそ37兆個の細胞でできています。その細胞に必要なエネルギーの90%以上を、ミトコンドリアが作り出しています。さらに、免疫反応全体のバランスをとる司令塔でもあります。
ですからミトコンドリアを活性化させると、細胞が元気になります。そして免疫力アップにつながるというわけです」
では、ミトコンドリアを活性化させるにはどうすればいいのだろうか。教授は7つのポイントを語ってくれた。
「まず1つ目は、運動をすることです。体を動かすことで、細胞が活性化されます。ただ、やりすぎは禁物。細胞を活性化させるためには、適度な運動であることが重要です。軽いジョギングや20分程度の散歩、家でできる簡単なエクササイズなどで十分です。
2つ目は、十分な睡眠をとること。
■笑うことは、非常にいいこと
さらに、食事の重要性についてもこう指摘する。
「4つ目は、食生活の見直しです。体を作るのは、なんといっても食事。できるだけ、バランスのよい食事を心がけるようにしましょう。栄養面はもちろん、食べすぎないようにも注意してください。
そして5つ目は、コエンザイムQ10を取ること。ミトコンドリアが細胞のエンジンなら、コエンザイムQ10は細胞のエンジンオイル。ミトコンドリアの機能をスムーズにしてくれます。イワシや豚肉や牛肉、ブロッコリーやオリーブ油などに多く含まれています。ただ食事から摂取できる量は限られているので、サプリメントを取り入れてもよいでしょう」
また意外にも、精神面の影響が大きいようだ。森下教授は次のように明かす。
「6つ目は、笑うことです。細菌に感染した細胞を死滅させる、NK細胞というものがあります。それが笑うことで活性化され、免疫力アップにつながるという報告があるのです。また、セロトニンという心の安定を保つホルモンも分泌されます。だから笑うことは、非常にいいことなんです。
そして最後の7つ目は、ストレスをためないことです。慢性的なストレスは体や心の疲労につながり、不眠を引き起こします。そうした悪循環に陥り、どんどん免疫力が落ちてしまうのです。最近は“コロナうつ”も増えているといいますからね。ワクチンの効果を高める意味でも、精神的に安定できる生活を心がけましょう」
■接種の直前に頑張っても難しい
ちなみに、免疫力は季節の変わり目に低下しやすいという。
「冬より夏場のほうが、要注意といわれています。夏バテで体力も落ち込みがちですからね。ワクチン接種の時期とかぶる方は、いっそう気をつけてください」
そして最後に、森下教授はこう結ぶ。
「高齢者は新型コロナウイルスにかかった場合のリスクも高いので、順番がきたらワクチンを打ったほうがいいと思います。ただし免疫力を高めておかないと十分な効果が出ない可能性もあると、理解しておくべきです。
ワクチンを接種する直前に頑張ったところで、すぐに免疫力をアップさせるのは難しい。だから接種前の今こそ、体作りを始めましょう」
いざ接種するときに慌てないためにも、早めの準備が重要といえそうだ。
「女性自身」2021年3月9日号 掲載