ご近所付き合いは避けて通れないものだ。
引っ越し先の慣習に従い、半ば仕方なく自治会へ加入した相良美緒さん(仮名)。
やがて自宅アパートの目の前がゴミ収集場所となり、カラスによってゴミが散乱する事態に見舞われた。ところが、問題解決のために立ち上がったのは、当初「付き合いづらそう」と感じていた自治会の老人たちだった。ゴミ収集場所をめぐる騒動を通して見えてきた、地域社会を動かす意外な力とは——。

アパートの目の前がゴミ収集場所に…

「自治会には入りたくなかった」住民が考えを改めたワケ。アパー...の画像はこちら >>
その場所に暮らすということは、地域社会のルールの中に入ることでもある。

相良美緒さん(仮名)が、夫と子どもと共に現在のアパートへ引っ越してきた際、避けて通れなかったのが自治会や子ども会への加入だった。積極的に活動へ参加したいわけではなかったが、子どもを持つ家庭は入るのが当然という空気があり、断るという選択肢はほとんどなかった。

「小学生の子どもを持つ親が自治会に入るのは、30年以上続く地域の慣習です。新参者には馴染みにくいことでも、その土地で暮らしてきた人たちがいる限り、抗うことはできないんです」

相良さんの夫も乗り気でなかったが、腹をくくって集会を訪れると、自治会長からある相談をされた。

「ごみ収集場所の変更を市から通達されたそうで……。アパートの前をゴミ収集場所にさせてほしいと言われたんです」

とはいえ、ゴミ収集場所は玄関を出てほぼ目の前。正直に言えば、気持ちのよい話ではない。自治会側は、時間厳守の見回りとブルー網による散乱防止を約束してくれたので、最悪の場合は変えてもらえばいいかと思い、相良さんは了承したのだった。

カラスという想定外の強敵が出現

最初の1か月は、むしろ快適だった。ゴミ捨てが玄関前で済む。
それをラッキーとさえ思っていたという。だが、慣れというものは人を油断させる。

ある朝、相良さんはゴミ収集場所の惨状に言葉を失った。

「生ゴミ、プラスチック、紙、袋。あらゆるものが散乱し、風が吹くたびにさらに広がっていく。匂いも当然ひどい。犯人は、カラスです」

ブルーの網には重しがついており、簡単にはめくれないはずだった。しかしゴミの量が多い日は網が全体を覆いきれず、その隙間をカラスは見逃さなかった。生ごみが特に多い袋を器用に引っ張り出し、嘴で破いて中身をぶちまける。賢い生き物とは、つくづく恐ろしい。

要するに、アパート前は「カラスの餌場」になってしまったのだ。

これが予想外の事態だったのは、相良さんだけではない。
自治会の面々も頭を抱えた。

なにより地域の小学生の子どもたちがカラスを怖がっていた。そこで相良さんは、こう言った。

「カラス対策ができず、このままの状態が続くようなら、ゴミ収集場所を変えてもらうしかありません。厳しそうなら私は引っ越しも視野に入れています」

問題の根底はカラスではなく「ルールを守らない人間」

「自治会には入りたくなかった」住民が考えを改めたワケ。アパート前が“カラスの餌場”になった危機を救った老人たちの行動
※写真はイメージです(画像生成にAIを利用しています)
そこから老人たちの動きは早かった。

ブルー網を新品で2倍の大きさのものにした。ブルー網のふちは鎖で、重しは大人でも重いと感じる鉄の棒。ふた付きの大型ゴミ箱の設置案も出たが、時間と費用がかかる。「手作業で、迅速に」という方針のもと、4~5人の老人が総出で数時間の作業を終えた。

そして彼らはそこから1か月間、ゴミ収集車が来るまで見張りを続けたのである。

見張りを続けた老人たちが気づいたのは、さらに別の問題だった。

「そもそも、ブルー網の中にきちんとゴミを入れていない人間がいたんです。外国人の住民を含め、ルールを把握していない者も少なくなかったです。
老人たちは警察のように取り締まりを行い、厳重注意を重ねました。分別できていない袋を持つ住民には、手取り足取り教えて……」

その結果、どうなったか。ゴミの量が減り、カラスは一切来なくなった。

カラスを追い払ったのは、重い鉄の棒でも、大きなブルー網でもない。最終的には、ゴミを出す人間の意識だったのだ。

地域社会を動かす原動力

事の顛末をこの地域にもともと住んでいる親戚に話した相良さんは、興味深いことを聞いた。ここの老人たちは、子どもたちの「元気な挨拶」がなによりも好きで、子どもたちへの愛が、迅速な対応への原動力なのだとか。

「地域社会を動かすのは、制度や補助金よりも積み重ねてきた関係性と、子どもの無垢な愛嬌。これが自治会の老人たちには最も大事なのだなと感じた事件でした」

<取材・文/日刊SPA!編集部、藤山ムツキ>

【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。
X(旧Twitter):@gold_gogogo
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