「最初はインターネットの掲示板を使って被害にあった数人ぐらいで情報交換をしていたんです。それで『あの男を呼び出してこらしめてやろう』と、考えていたのですが、どんどん“私もだまされた”という女性が増えてきて……。
本誌にそう語るのはシングルマザーのAさん(47)。
彼女がかつて“交際”していた宮川隆史容疑者(39)が逮捕されたのは4月20日。詐欺容疑だった。彼はなんと数十人もの女性と同時に交際していたという。
Aさんが宮川容疑者と出会ったのは’20年1月。きっかけは結婚を前提としたマッチングアプリで、顔写真や趣味などを登録すると、気になる異性と連絡を取り合うことができるサービスだった。
「当時の彼は38歳。私よりかなり年下なので間違いかと思ったのですが、『年齢は気にしないから』と。何回かやり取りをした後、(大阪の)梅田で待ち合わせをして、カフェで話をしました」
2回目のデートは4日後。容疑者はAさんにキスをしてきた。
「私は『2回しか会っていない人とそういうこと(キス)をしたくない。一生一緒にいられる人じゃないとイヤなんです』と、言いました。
詐欺や悪質商法に詳しいジャーナリストの多田文明さんは次のように解説する。
「コロナ禍で人と会う機会が激減しているなか、マッチングアプリを始める人が増えています。そのいっぽうで、詐欺師たちの狩り場にもなっているのです。プロフィールは自己申告制ですが、真剣に結婚を望む女性ほど性格・年収・趣味などの自分の情報を真面目に書いてしまいます。それで詐欺師は女性に合わせたキャラクターを演じたり、話を合わせたりしやすくなるのです」
Aさんは宮川容疑者のどんな部分に引かれたのだろうか?
「中小企業診断士の資格など20~30の資格を持っているという話をした後で、『象の調教師(の資格も)持ってんねん』と……、思わず笑ってしまうんです。
映画や旅行の話とか、たわいのない話をするのも上手でしたし、人を飽きさせませんでした。それに『スタイルがいいね』『肌がキレイだね』とか、女性が言ってほしいと思う言葉を、恥ずかしがらずにサラっと言うんです」
実は「象の調教師~」は宮川容疑者の“鉄板ネタ”だったという。
Aさんと交際を始めて2カ月後、容疑者はこんな話を切り出してきた。
「『俺が6歳のときに母は死んでいる。
■「つむじ見当たらない」被害者語る“カツラ疑惑”の裏側
結婚前提の交際のはずなのに、会えるのは月に1回か2回、それも2時間程度。“怪しいのではないか”という友人の指摘もあったが、Aさんは信じきれずにいた。
「ただ、インターネットの書き込みに彼と似た特徴を持つ男性の書き込みもあって、疑惑は膨らんでいったのですが、まさかな……という思いでした」
だがAさんは決定的な現場を目撃する。
「昨年10月に宮川がほかの女性と車に乗り込んでいき、その姿を動画で撮影したんです。2人が帰ってきたときに女性に話を聞くと、私の2回目のデートのときと同じ言動や似たようなドライブコースでした。それで彼の裏切りを確信できたのです」
容疑者と決別した後、Aさんはネット上で被害を訴えていた人たちと連絡をとるようになった。
「話を突き合わせると、経歴も誕生日さえも彼の話は嘘ばかりでした。カツラ疑惑? そうですね、つむじは見当たらないですし、ほかの被害者によれば、泊まるときも頭にタオルを巻いたままだったり、ナイトキャップをずっとかぶったりしていたそうです。
掲示板に次々と女性たちが集まってきました。そこで弁護士さんと相談して刑事告訴に踏み切ったのです。被害女性は逮捕されたときは35人で、みんな私と交際時期がかぶっていました。
いま(※4月23日)は45人。
結婚詐欺師を見分ける方法はあるのだろうか。新都心法律事務所の野島梨恵弁護士によれば、
「詐欺師は自分の両親に会わせようとしません。『ご実家に行って挨拶を』と言っても嫌がります。あとはささいなことでも話に矛盾があるなと思ったら、それを忘れずに気をつけておくことです」
実は被害女性たちも容疑者の実家を訪れていたというが、留守を見計らって呼んだようで、誰も家族に会うことはできなかったという。
Aさんは最後にこう語った。
「女性たちはみんな優しく、素直で人を疑わない人ばかりでした。それだけに容疑者は許せません。これ以上女性たちが、私たちのような目に遭わないように祈るばかりです」
「女性自身」2021年5月11日・18日合併号 掲載