「再度の接種がいずれにしても必要になってくるーー」

8月19日の記者会見で、加藤勝信官房長官は、新型コロナウイルスワクチンの“ブースター接種”に関して、唐突にこう言及した。

国民の約4割が2回目のワクチン接種を済ませた日本で、ブースター接種、すなわち“3回目の接種”の議論が急騰している。

その背景にあるのが、ワクチン先進国イスラエルの動向だ。イスラエルでは今年5月上旬までに、16歳以上の国民の6割超が2回目のワクチン接種を済ませた。すると6月に入り1日の新規感染者数が10人以下にまで激減。ところが、その後再び感染者が増えはじめている。それを受け、イスラエル政府は今月から50歳以上の人を対象に3回目のワクチン接種を開始した。

一方で、WHO(世界保健機関)は「科学的根拠なし」と3回目の接種について否定的だが……。

「日本でも、2回目の接種を済ませた人も、その後半年から1年おきのワクチン再接種が必要であると考えています」

と語るのは、国立病院機構宇都宮病院の杉山公美弥副院長だ。

「今年2~3月に新型コロナウイルスのワクチンを接種した当病院の職員378人を対象に、2回目接種から3カ月後の時点における新型コロナウイルスの抗体価を調査しました。その結果、年齢が上がるほど抗体価が下がる傾向があることがわかったのです」(杉山先生・以下同)

体に入ったウイルス(抗原)に対して、攻撃する抗体の量や強さを示すのが抗体価だ。“血液1ミリリットルあたりのユニット数”で抗体価は測定される。この数値が高いほど、感染予防や重症化を防ぐ効果が高くなる。

高齢者と喫煙者は抗体過価が減少しやすい傾向に

「2回目接種後、3カ月経過した抗体価は、20代の抗体価が約1,050ユニットだったのに対し、40代で779ユニット、50代で619ユニット、60歳以上で491ユニットになっています。

その要因はわかっていませんが、高齢者ほどかぜや感染症にかかりやすいのと同様に、加齢による免疫機能の低下が関係していると考えられます。同時にこの研究では、『喫煙者』の抗体価の減少が著しいことが判明しました。高齢者や喫煙者は、ワクチンを接種しても抗体価が減少しやすく、感染や重症化のリスクが高くなることがわかりました」

この研究はファイザー製ワクチンを接種したケースでの結果だが、モデルナ製のワクチンでも同様の結果が予想されるという。国内におけるワクチン接種後の抗体価についての研究は少なく、今後のワクチンの評価をするためにも参考になるところが多いようだ。

とりわけ興味深いのが、51~64歳の病院職員6人の抗体価の推移(国立病院機構 宇都宮病院の発表資料)。

「1回目のワクチン接種から3週間後に50~245ユニットだった抗体価が、2回目の接種によって、1,160~2,750ユニットまで急上昇しています。これは最初の接種を終えた後、抗体を作る『B細胞』という細胞が、体内でコロナウイルスに対する抗体の作成方法を覚える作業を行い、次の接種を経て抗体を大量に生産しているためです」

■体内の“抗体工場”をより強固にするために

気になるのは、2回目の接種の3カ月後に、220~858ユニットと、3分の1から5分の1まで激減している点だ。せっかくつらい副反応を乗り越えたのに……という人も多いだろう。

「抗体価は低下していますが、新型コロナウイルスの抗原を一度覚えた『メモリーB細胞』は、次に感染した際、その抗原の刺激により、抗体を短期間に増産します。ワクチンを2回接種することで、年齢に関係なく、抗体価を急上昇させて新型コロナウイルスの増殖を抑える態勢が確保できるのです」

ワクチン接種は、ウイルスの攻撃を迎え撃つための“抗体工場”ができるようなもの。ブースター接種は、その工場をさらに強化させ、感染や重症化の予防効果を高める目的があるのだという。

「日本でも2回のワクチン接種をした人の感染者が少しずつ出てきていますが、ある一定以上の抗体価を維持しなければ、感染を十分に予防することはできません。

2回目の接種後、高齢者は半年経過した段階で3回目の接種を行い、抗体価を再び上昇させることが安全策になるのです。現在の感染拡大の状況を考えると、高齢者だけでなく、感染予防効果を維持するためにも、40~50代の人も半年から1年おきなど定期的にワクチン接種をして、抗体価を上げておく必要があると考えます」

■ワクチン3回目接種の副反応は?

国内ではデルタ株が猛威をふるい、さらにラムダ株という変異株の脅威も迫っている。読者世代でも3回目の接種は不可避といえるのだ。

そこで気がかりなのが副反応。1回目よりも2回目のほうが強く出るという統計もあるが、3回目はどうなってしまうのか……。

「ブースター接種を先行しているイスラエルの60歳以上のデータでは、88%の人が、2回目の接種時の副反応よりも『少ない』『軽度』と答えています。2回目の接種よりも、副反応は軽くなる傾向が予想されます。国としても、ワクチンの接種率を高める働きかけを続けながら、3回目接種のためにワクチンの必要量を確保するなど準備しておくことが重要です」

ワクチンという強力な味方を活用しつつ、一人ひとりが感染対策を徹底する心がけよう。

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