「明かりは見え始めていますーー」

8月25日の記者会見で菅義偉首相はパンデミック収束への道筋をこう語ったが、真に受けた国民ははたしてどれだけいただろうか?

厚生労働省の発表によると、10代以下の新型コロナウイルス感染者が、1週間(8月18~25日)で3万427人に。これはおよそ1カ月前の3,450人(7月14~21日)から、じつに約8.8倍に増加しているのだ。

なぜ、未成年の感染者がこれほどまでに急増したのか。日本小児科学会の理事で、子どもの感染症に詳しい長崎大学病院教授の森内浩幸先生は次のように解説する。

「若年者へのワクチン接種は進んでおらず、12歳未満はまだ接種の対象になっていません。つまり子どもたちは免疫ができていない集団です。そこに感染力が強いデルタ株が主流となったことが大きな要因です。従来株では大人から子どもへ感染しても、そこからさらに広がるケースは多くありませんでした。ところが、強い感染力をもつデルタ株によって、子ども同士、さらには子どもから大人への感染が増えてきたということが考えられます。ただし、子どもがとくに感染しやすくなったわけではありません。今でも子どもの感染の多くは周囲の大人からうつっています。大人が子どもに移さないことが重要です」

そんななか、この9月から多くの学校で新学期が始まる。子ども同士の接触の機会が増えることで校内クラスターが発生し、猛威を振るっているデルタ株が家庭に持ち込まれてしまう心配もある。

それを受けて、特に緊急事態宣言が発出されている自治体の学校のなかには、夏休みを延長したり、休校したりなどの措置を取っているところもあるがーー。

「学校閉鎖や休校をする小中学校があるのと同時に、感染を恐れて子どもを登校させないという保護者の方もいるようですが、学校に行かないことで生じるさまざまな影響を懸念しています」

そう話すのは、福島県医師会でコロナ担当を務める星北斗副会長。

「東日本大震災による原発事故で、放射能を過度に恐れるあまり、子どもを家から出さない、学校にも行かせない、という保護者が多くいました。その後、ストレスや運動不足などにより子どもたちの健康指標が極端に悪化したことがあります。デルタ株はたしかに感染力が強いですが、子どもが重症化することは極めてまれです。そして、各学校では感染対策について、大きな教室を使う、アクリル板を多用する、時間差登校を行うなど工夫をしていて、先生方も子どもたちのマスク着用や行動に気を配っています。子どもたちにとって大切な場である学校に行くメリットのほうが大きいと考えています」(星先生)

■課外活動は学校ほど感染対策が徹底されず

森内先生も休校によるリスクを次のように語る。

「親が安心して仕事を休むことができ、なおかつ経済的な補填(ほてん)があるなどの態勢が整っていれば、学校閉鎖をして感染拡大を抑える効果があるでしょう。しかし、学校が休みになっても、親が経済的に困窮することから会社を休めないような今の実情では、子どもは朝から夕方までやっている学習塾や学童保育に行くことになります。そこは学校とは違い、密になりやすく換気も悪い環境であることが多く、しかも大人の目が届きにくい。そこから感染が広がる恐れがあるのです」

森内先生はさらにこう続ける。

「たとえば学校では、児童・生徒も教員も毎朝体調チェックを行い、気になる変化があれば休むことができます。それによりクラスターの発生をある程度抑えることが可能です。

ところが学習塾の場合は学生のアルバイトも多いなど、症状があったとしても、休まずに子どもの前に出てきてしまう例もありました。学校がない夏休み中に集団感染が発生したのは、主に学童保育や学習塾。学校よりも、放課後のクラスターが危惧されるのです」

8月中に起こった、学習塾や学童保育での主なクラスターは次のとおり。子どもの感染者が増加するなか、いっそうの警戒が求められる。

【学童保育、学習塾で発生したクラスターの事例】

■報道・発表日:8月4日/所在地:兵庫県加東市/施設:学童保育/児童・生徒の感染者数:21人
■報道・発表日:8月4日/所在地:静岡県浜松市/施設:学習塾/児童・生徒の感染者数:17人
■報道・発表日:8月7日/所在地:千葉県船橋市/施設:学習塾/児童・生徒の感染者数:96人
■報道・発表日:8月17日/所在地:熊本県熊本市/施設:学童保育/児童・生徒の感染者数:10人
■報道・発表日:8月18日/所在地:千葉県松戸市/施設:学童保育/児童・生徒の感染者数:13人
■報道・発表日:8月25日/所在地:鹿児島県薩摩川内市/施設:学童保育/児童・生徒の感染者数:12人
■報道・発表日:8月26日/所在地:三重県伊賀市/施設:学童保育/児童・生徒の感染者数:11人

また、子どもが感染した場合、症状が出ることが少ないから注意が必要だ。

■子どもが発症したら家族全員感染の可能性が

「仮に子どもが発症していたら、その前日にはすでに家族間で感染している可能性があります。特にデルタ株では、いったん家庭に持ち込まれてしまったら、感染拡大を防ぐのは困難。家族全員が感染してしまうケースは少なくないでしょう」(森内先生)

8月17日には、東京都で家庭内感染により一家3人が陽性となり、40代の母親が亡くなった痛ましい出来事があったばかり。親世代の40~50代へのワクチン接種が政府の想定どおりに進んでいない現状では、家庭内で感染した親が重症化することも十分考えられる。

“放課後クラスター”のリスクを軽減するためにできることは何なのだろうか。星先生が語る。

「子どもには、正しい手洗い、正しいマスクの着用を行わせたうえで、学習塾や学童保育で、換気がしっかり行われているか、子どもと接する大人のワクチン接種が済んでいるか、などを確認しておくようにしましょう。

また、スポーツなどのクラブ活動でも、ロッカールームの感染リスクが指摘されています。どのような状況でリスクが高いのか、それを回避するために指導者と話し合いをして対策を練っていくことが大切です」

子どもの感染拡大を防ぐのは、大人の責務。十分すぎる対策を取りたいところだ。

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