「コロナ対策と(総裁選の)選挙活動はやはり両立はできない。どちらかに選択すべきである。
9月3日、総理官邸での会見で一方的にこう語り、その場を去った菅義偉首相(72)。報道陣からはさらなる説明を求める声が飛んだが、足を止めることはなかった。
これまでの発言から一転、自民党総裁選からの“撤退”を決めた菅首相だが、背景にあるのは20%台という低い内閣支持率だ。
ここまで国民からの支持を失った一因は「菅さんの“対話力”の低さにある」と言うのは、ジャーナリストの江川紹子さん(63)だ。
「菅さんの印象を一言で言えば『聞きたい内容が伝わってこない、誠意がない』というもの。歴代首相より会見の機会は明らかに多かったのですが……」
緊急事態宣言を出すたびに会見を開催。官邸のロビーや視察先などで行われる、いわゆる“ぶら下がり会見”を除いても、今年だけで15回以上も記者会見を行った。
しかし、ネットをのぞけば、《原稿、棒読みじゃん》《質問にまったく答えていない》など、首相への落胆の声ばかり。
長年、首相会見に通い、菅首相とも“直接対決”してきた江川さんに菅首相の“敗因”を聞いた。
■「具体的に」と聞いても具体的に答えない
「記者会見というのは、首相自身の言葉で、国民に思いや考えを伝える場です。記者というのは、そこに介在する存在にすぎません」
江川さんはそう言い切る。自身もその思いを抱えて、首相への質問を重ねてきた。
「たとえば、東京都など4都府県に緊急事態宣言が出た4月23日の会見では、国民の最大の関心事のひとつだった東京五輪について、『中止がやむを得ないと判断される場合の基準があるのか、あるとしたら何か』と聞きました」
しかし、菅首相は正面から答えることはなかった。
「日本が誘致していましたから、開催する方向で動いています」
そんな原則論を言うばかりで、“基準”の有無は語らず。
「7月30日の首相会見では『人流抑制の具体的な目標』を聞きましたが、こちらについても明確な答えはいただけませんでした。しかし、質問の答えがはぐらかされるというのは、私の質問に限ったことではありません」
この日の会見では、「予防措置を講ずると述べたが、感染者は過去最高を記録。総理の責任の所在は?」や「(五輪開催の前提だった)国民の命と健康は守られているのか?」などの厳しい質問も出た。
だが、菅首相は「感染者数の増加の要因はデルタ株」と自らの責任については言及せず、“守られているか?”の質問も無視した。
「菅さんには、カメラの向こうに国民がいるという意識が希薄だったと思います。目の前の記者とやりとりだけすればいい、官僚が用意した公式答弁さえすればいい、と対話にならないんです」
質問に正面から答えてこなかった菅首相。結果として、国民にそっぽを向かれることになったのだ。
【PROFILE】
江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。オウム真理教の取材などで知られる。