地域や学校によって、休校やリモート授業が続いている。この影響を強く受けているのが貧困家庭だ。

こうした状況の今こそ、改めて知ってほしい両陛下のお気持ち――。

「貧困家庭の子どもたちがコロナ禍による休校で学びが停滞し、給食がないため食事に苦しむ現状をお話しいたしました。すると、雅子さまはご心痛の表情で『子どもたちやお母さまのようすはどうですか?』とおっしゃって……」

こう語るのは、貧困家庭の子どもたちの学習支援をする「NPO法人キッズドア」理事長の渡辺由美子さんだ。

コロナ禍において、もっとも深刻な影響を受けたのが、子どものいる貧困家庭だ。非正規雇用であることが多い保護者が雇い止めにあったり、家庭内で十分な学習場所を確保するのが難しく、リモート授業や在宅学習にうまく対応できない場合も多いという。

現在も、地域や学校によっては、休校やリモート授業が続いており、教育格差の拡大が懸念されている。

そんな境遇の子どもたちに、心を寄せられているのが雅子さまだと、皇室ジャーナリストの近重幸哉さんが言う。

「皇太子妃時代から、福祉施設を訪問され子どもたちと触れ合ったり、クリスマスカードを送られたり、児童福祉施設文化祭に何度もお忍びで出席されています。コロナ禍であっても“子どもたちのために、何かできることはないのか”という、強い思いをお持ちのはずです」

だからこそ昨年6月、内閣府の担当者から渡辺さんの元に「両陛下が、コロナ禍で貧困に苦しむ子どもたちを心配されています。現場の人たちに、直接話を伺いたいそうです」と連絡があったのだろう。

「両陛下は即位の際、『子供の未来応援基金』に5,000万円もご寄付されました。私どもはこの基金からの助成金のおかげで、コロナ禍のオンライン学習のための機器の購入や、実践マニュアルの作成ができたのです。

基金とのこうした関係も、お声がけされるきっかけとなったのかもしれません」

昨年7月21日に設けられた拝謁の場には、渡辺さんを含め、3団体の代表が参加した。45分から1時間ほどを予定していたが。

「控室で侍従の方から『後ろの予定はないので、気にせず、ゆっくりとお話しください。両陛下は、今日を心待ちにされていました』と伺いました」

■お互いに顔を見て、うなずかれながら

緊張を隠せなかった渡辺さんだが、いざ部屋に入ると、穏やかな笑顔の両陛下のお迎えがあり、一気に心がほぐれたという。

距離を取るために大きめの机を挟み、向かい合った。両陛下の背後は大きなガラス張りの窓で、夏の光を新緑の木々が浴びていた。

「両陛下は事前にお渡しした資料をすでに読んでくださっていたようでした。ときに『そうですね』とあいづちを打たれ、お二人でメモを取られていました。こういう言い方は失礼にあたるのかもしれませんが、すごく仲のいいご夫婦だと思いました。お互い顔を見合わせてうなずき合うなど、確認しながら理解を深められているようで、ふだんからいろいろなお話をされているのではないかと見受けられました」

一緒に両陛下に拝謁した「公益財団法人あすのば」代表理事の小河光治さんは、「両陛下が、貧困家庭の苦しみをわが事のように感じていらっしゃる」と痛感したという。同団体は貧困家庭への調査や支援などを行っている。

「もともと子どもの貧困は非常に深刻ですが、コロナ禍が拍車をかけています。

私どもの調査に対し『高校に入ったけど、母親が仕事をなくしたから退学を考えている』『授業料が足りないから、食事を1日1食にしている』などの悲痛な声が殺到していることをご説明しました。すると雅子さまも陛下も、たいへん辛そうな表情をされて……」

■「陛下が笑顔でバッジを出されて!」

だが一方で、明るい兆しのお話をすると、両陛下は本当にうれしそうになられたという。

「オンライン学習のための機器を各家庭に貸したことで、子どもたちがパソコンなどを使いこなせるようになったんですね。『コロナの影響ではありますが、これまで無縁だったITに触れることで子どもたちの将来の選択肢が広がりました』とお話ししたときは、雅子さまも陛下も満面の笑みになられて。陛下は『そうですね。これからITはいいですよね』と大きくうなずかれました」(渡辺さん)

さらに、貧困家庭を力づけるこんなお言葉もあったという。

「私のほうから『子どももお母さんも苦しんでいるので、両陛下が応援してくださっていると伝えていいですか』とお願いしてみると、雅子さまが『ぜひ、ぜひお伝えください』と力強く即答してくださいました。すると、陛下からも『私たちは本当に応援しています。頑張ってほしい』というお言葉を頂戴したのです」(渡辺さん)

予定の時間は大幅に過ぎ、気がつけば外は真っ暗になっていた。

一人一人に声をかけてくださった両陛下との別れ際には、こんなうれしいサプライズもあった。

「私たちは絵本作家のディック・ブルーナさんが描いた『子供の未来応援国民運動』のバッジをつけていたんですが、陛下がおもむろにポケットから同じバッジを出してほほ笑まれたんです」(渡辺さん)

それから1年が経過したが、子どもたちを取り巻く現状は楽観できるものではない。コロナの影響で、子どもたちと対面して支援がしづらい状況に、各団体とも苦しんでいる。

だが、この拝謁は大きな力になったと渡辺さんは語る。

「最後に両陛下から『みなさん、素晴らしい活動ですね。(スタッフの方々に)よろしくお伝えください』というお言葉を賜りました。天皇陛下も雅子さまも応援くださっているという事実は、スタッフたちの大きな励みになっています。教育格差を少しでも縮められるように、今後も努力を続けていきたいです」(渡辺さん)

コロナ禍に苦しむ家庭は、ぜひ支援団体を頼ってみてほしい。

そして、天皇陛下と雅子さまが、常にあなたたちのことを思われ、力になろうとしてくださっていることを忘れないでほしい。

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