「11月1日、長崎大学などの研究グループは、新型コロナとインフルエンザの同時感染によって肺炎が長期化、重症化しやすくなるとの研究結果を発表しました。ただ、世間は同時感染をもたらす同時流行について楽観的。
確かに、この1カ月減少傾向にある全国の新型コロナウイルス感染者数。また、昨年インフルエンザの流行が起こらなかったため、この冬も流行しないと考える人も多いようだ。
しかし、ナビタスクリニック理事長の内科医・久住英二さんは、こう警鐘を鳴らす。
「まず、新型コロナの第6波が起こる可能性は十分にあります。ワクチン接種率の高いイギリスでも、接種率の低い子どもが感染することによる、家庭内感染が増えているのです。日本ではまだ12歳未満の子どもへの接種が始まっていません。そのうえ高齢者の場合、この冬は2回目のワクチン接種から約半年が経過。抗体価も下がってきている時期です」
さらに、インフルエンザについても、安心することはできないという。事実、日本感染症学会はインフルエンザの流行を懸念し、積極的なワクチン接種を呼びかけているのだ。
また、欧州ではインフルエンザの患者がじわじわと増えつつある。
「欧州疾病予防管理センターによると、クロアチアではすでに例年の同時期を上回る数の患者が確認されています。ヨーロッパで確認されているウイルスが、ワクチンが効きにくく流行しやすいA香港型だという点も気がかりです」
日本では11月8日に水際対策が緩和。
「海外との往来が増えれば、インフルエンザウイルスが日本に持ち込まれるリスクは当然高まります」
厄介なことに、インフルエンザが今年日本で流行した場合、“大”流行になる可能性があるという。
「昨年のインフルエンザ患者数は、例年の1,000分の1でした。ほとんどの人がインフルエンザウイルスに触れておらず、生まれてから一度も感染していない0歳や1歳児も多いです。全国民的に、インフルエンザに対する免疫力が弱まっていると考えられます」
たとえば、赤ちゃんの風邪の原因として知られるRSウイルスは、昨年の患者数は前年比87%減だったが今年は大流行しているという。
「夏場、私のクリニック周辺の小児ICUのある病院からも『これ以上の患者は受け入れられない』と連絡があったほどです。昨年、流行しなかった手足口病も、現在、九州で流行しています。いずれも、昨年の患者数が少なかったため、十分な免疫を獲得できなかったことが原因でしょう。インフルエンザにも、同様の危険性があるのです」
■同時感染により肺炎が重症化する
新型コロナとインフルエンザが同時に流行した場合に危惧されるのは、冒頭で触れた同時感染だ。
東北大学災害科学国際研究所で災害感染症を専門としている医師の児玉栄一さんは、長崎大学らの研究をこのように読み解く。
「これまでは、あるウイルスに感染すると、他のウイルスの感染や増殖を防ぐ『ウイルス干渉』が起こるといわれてきました。しかし、長崎大学らの研究グループの発表は、新型コロナウイルスとインフルエンザは同時に感染する可能性があることを示しています。
研究では、インフルエンザ、新型コロナ単体に感染した場合よりも、同時感染したときのほうがより肺炎が重症化し、回復に時間がかかる可能性も指摘されている。
「研究によると、インフルエンザウイルスとコロナウイルスは同時期に異なった細胞に感染していることがわかります。インフルエンザは気管支、新型コロナは肺胞にそれぞれ炎症を起こすのです。肺胞に炎症が起こるとただでさえ酸素の取り込み量が減るうえ、気管支が炎症を起こすことで呼吸での空気の出し入れも困難になります。さらに、ウイルスを体外に排出する痰が出にくくなり、回復が遅くなる可能性があるのです」
さらに、英国公衆衛生サービスが’20年1~4月にかけて行った調査では同時感染の恐ろしさが示されている。インフルエンザと新型コロナ両方の検査を受けた1万9256人中、同時感染していたのは58人。彼らのうち43.1%が死亡したが、これは、コロナウイルスだけに感染した人の死亡リスクよりも2.27倍高いというのだ。
また、同時流行ともなれば、新型コロナの第5波で問題となった医療崩壊も再来しかねない。
「インフルエンザと新型コロナの症状は似ているため、医療現場では2つの検査が必要になり、ベッドの分け方も困難になってきます。高齢者が入院できず、自宅で亡くなってしまう事態は避けなくてはなりません」(児玉さん)
そのためにワクチン接種を呼びかけるのは、日本感染症学会インフルエンザ委員会の石田直さんだ。
「すでに多くの人が新型コロナワクチンの2回目接種を終えたと思います。コロナワクチンの接種から13日以上がたてば、インフルエンザワクチンの接種が可能です。
コロナ禍“当たり前”に行ってきた感染対策と、ワクチン接種が、今冬も自分や大切な人を守るための手立てとなりそうだ。