新規感染者数が落ち着きを見せ、“日常”を取り戻しつつあった私たちの前に突如現れたオミクロン株。デルタ株以上ともいわれる感染力を前に、私たちはどのような備えをすべきなのかーー。
「12月1日、国内で2人目となるオミクロン株の陽性者が空港検疫で見つかり、数十人の濃厚接触者への健康観察も続けられています。水際で食い止めたいところですが、検疫をすり抜けて日本に入っている可能性は否定できません。すでに流行の兆しを見せている南アフリカと交流の盛んな欧州各国、南米、オーストラリアなどにも飛び火しているためです」
こう警鐘を鳴らすのは、東北大学災害科学国際研究所の医師・児玉栄一さんだ。
WHOは、11月末に南アフリカで初めて確認された新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」をVOC(懸念される変異株)に分類した。変異株がVOCに分類されるのは、夏に日本でも猛威を振るった「デルタ株」以来のこと。
パンデミックが続く中、このような変異株の出現は避けられないと、渡航医学に詳しい関西福祉大学教授の勝田吉彰さんは話す。
「コロナウイルスは人体の中でコピーされていますが、ウイルスの遺伝子は約3万個のアミノ酸の配列で構成されているため、増殖する際に1個や2個のコピーミスは頻繁に起こるのです」
変異株は、コピーに失敗したいわば不良品。そのほとんどが人に感染することなく消滅するという。
「しかし、この過程でごくまれに、“高性能”になってしまうことがある。そのうち、感染力やワクチン効果に影響をおよぼす可能性のあるものが、VOCやVOI(注目すべき変異株)に分類されます」
オミクロン株は、どのような部分が“高性能”だと疑われているのか。感染力・重症度・ワクチン効果の観点から見ていこう。
【感染力】
南アフリカ国立感染症研究所は、10月の時点でデルタ株がコロナ症例の92%を占めていた同国において、直近ではオミクロン株が74%に急増していると発表。
「今年の夏にデルタ株が猛威を振るう中、南米で流行した『ラムダ株』の脅威が取り沙汰されましたが、流行は拡大しませんでした。これは、簡単にいうとラムダ株よりもデルタ株が強かったから。今回懸念されるのは、南アではデルタ株を駆逐する勢いでオミクロン株が流行しはじめたこと。デルタ株に置き換わるような感染力の強さがあるとすれば、“第6波”に大きな影響を与えることとなります」(勝田さん)
国立感染症研究所では、オミクロン株で発見された変異によって、ウイルスが人体の細胞へ侵入しやすくなり、感染拡大につながる可能性を指摘している。
感染力の強さを示唆するのは、香港での“空気感染”が疑われる事例だ。検疫隔離用ホテルで、陽性者がマスクをせずにホテルの部屋のドアを開けたところ、空気中にウイルスが拡散。正面の部屋の人が吸い込み、感染した疑いがあるという。
■重症化予防のためにワクチン接種は必要
【重症度】
「南アでオミクロン株の陽性者の診察にあたった医師は、頭痛やせきといった症状に加え、“強い倦怠感”を特徴として挙げています。一方、2日くらいで症状は落ち着くとも。オミクロン株が拡大するなか、南アでの重症者数、死者数にはまだ大きな変化は見られません。あくまでも現状においてですが、重症化に関しては、これまでの変異株とそこまでの違いはなさそうです」(勝田さん)
【ワクチン効果】
モデルナ社のCEOは「現行のワクチンは、オミクロン株への効果は低い」と言及している。
「これは、スパイクといわれる、ウイルスの突起部分の変異が32個もあるためです。
感染力が強く、ワクチン効果の低下が懸念されるオミクロン株。また第5波のような深刻な事態を招いてしまうのか……。
だが、米国国立研究機関の博士研究員・峰宗太郎さんは、過度に恐れる必要はなく、従来どおりの感染対策を呼びかける。
「その一つがワクチンです。既存のワクチンでも、オミクロンへの効果がゼロになることはないでしょう。感染・発症予防効果は下がっても、重症化を予防する効果は期待できると思われ、接種率の向上が求められます」
ファイザー社の幹部は、3月下旬にはオミクロン株に対応したワクチンを供給できると発表していて、実際に製造するのかを12月中に判断するという。現在進められている3回目のワクチン接種だが、オミクロン株対応のワクチン開発を待つ必要はあるのだろうか。
「ワクチンができても、速やかに日本に輸入されるかはわかりません。オミクロンの伝搬性や重症化リスクの分析が進むまで、新ワクチンの接種計画を検討するのは時期尚早と考えます」(峰さん)
児玉さんは次のような見解だ。
「高齢者や基礎疾患のある人は、重症化を防ぐために3回目の接種をすべきでしょう。それによって中和抗体が5~6倍に増えます。65歳未満の健康な人は、オミクロン株に対するワクチン効果、今後の感染の広がりなど最新情報を見て判断することになるでしょう」
不織布のマスク着用、手洗い、消毒、3密の回避など、今では当たり前となった日常生活も基本だ。
「オミクロン株が本格的に流行すれば、医療崩壊、緊急事態宣言の発出につながりかねません。年末年始の会合もほどほどに。会話するときは面倒でもマスクをしましょう。また、これからは寒くて乾燥する時季。換気や湿度管理も重要です」(児玉さん)
当たり前の感染対策こそが、オミクロン株を抑える最善手なのだ。
■「部屋の空気管理」が感染リスクを下げる
「オミクロン株には未知の部分が多く、そのなかで私たちにできるのは予防を徹底すること。コロナ禍でマスク着用や手洗いが習慣になった人は多いと思いますが、これからの季節は、『温度・湿度の調整』『換気』といった室内の空気管理がより重要になってきます」
そう話すのは、微生物学、ウイルス学が専門で、札幌医科大学教授の横田伸一さんだ。
気温が下がり、空気が乾燥する冬は、ウイルスの生存に適した季節。オミクロン株は感染力がデルタ株より強い可能性も指摘されているなか、部屋の空気管理もぬかりないようにしたいところ。
湿度や温度の設定、また換気はどのくらいの頻度で行えばよいのか、解説してもらった。
「ウイルス対策のためには、室内の温度は18~22度、湿度は50~60%を目安にしましょう。そのうえ、暖かい格好をして、体を冷やさないように。人の体は低体温になると、免疫力が低下してしまいます」(横田さん・以下同)
■粘膜が乾燥するとバリア機能が低下する
湿度は、低すぎても高すぎてもよくないという。
「湿度が低いと、空気が乾燥して飛沫が飛びやすくなります。同時に、のどや鼻の粘膜が乾燥し、体に備わっているバリア機能が弱くなってウイルスに付け入るすきを与えてしまう。40%以下では湿度が足りないと考えてください。反対に湿度が高すぎると、飛沫が空気中に残りやすくなってしまいます。さらに、窓に結露が発生し、室温の低下やカビが発生する原因になるので注意が必要です」
ウイルスを長時間生存させないために、換気も怠らないように。
「目安は1時間に1回、5分程度。
冷え込みが激しい朝晩など、窓を開け放つのが困難だという場合は、まず人がいない部屋の窓とドアを開けて空気の流れを作るとよいという。そこから廊下づたいにリビングに空気を通す“2段階換気”にすれば、急激な室温の変化を抑えることができるそうだ。
オミクロン株の感染リスクから身を守るためにも、換気の習慣をいま一度見直してみよう。