《閣僚について、追加接種はモデルナ社製ワクチンをーー》
2月1日の閣僚懇談会で、堀内詔子ワクチン担当大臣は、全閣僚に対しこう呼びかけたーー。
新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」がますます猛威をふるっている。
オミクロン株は「重症化しないんでしょ」という声も聞こえるが、長崎大学大学院教授で、日本ワクチン学会の理事も務める森内浩幸先生は次のように警鐘を鳴らす。
「感染力が強いため、この勢いだと国内でも感染者数が第5波の5~6倍になることが予想されています。重症化する人がデルタ株の6分の1だとしても、感染者が急増すれば、命にかかわるような重症者が第5波と同じくらい出てしまう可能性は十分にあります」
また第6波はピークアウトが近いと楽観視する声もあるが……。
「オミクロン株による新規感染者数が、先に感染が広がった欧米と同じように推移していくとは限りません。ピークはまだ先になるという予測もあります。さらに、沖縄県など国内でいち早くオミクロン株の感染が広がった地域では、若い世代の流行ピークから遅れて高齢者の感染者数が増加しています。つまり、高齢の感染者や重症者のピークはこれからやってくるとも考えられます。一刻も早く、多くの人が3回目のワクチン接種をすることが命にかかわるような重症者の数を抑えるカギになるでしょう」
ところが、国内での3回目のワクチン接種率は4.4%(2月3日時点)にとどまっている。
接種率が伸び悩むのは、堀内ワクチン担当大臣が呼びかけるように、モデルナ社製ワクチン(以下、モデルナ)を敬遠する人が多いことも要因のひとつだ。森内先生はこの状況に首をかしげる。
「モデルナは有効性が高く、持続期間が長くなる一方、若い人を中心に熱や倦怠感などの副反応が出ました。
モデルナの副反応では、若い男性に心筋炎が起こることが指摘されていたが、心筋炎はモデルナでもファイザー社製ワクチン(以下、ファイザー)でも、起こる頻度はごくまれだという。
「とくに高齢者の方は子どもや孫から副反応の話を聞いて、なんとなく物騒に思っているのかもしれませんが、モデルナは高齢者に関しては副反応があまり出ません。さらに、3回目のモデルナのワクチン接種では、1、2回目の半分の量を接種しますが、それでも十分に有効性が確認されている。解熱鎮痛剤を用意しておくなど、事前の準備があれば副反応を過度に恐れる必要はないでしょう」
■モデルナで副反応が起きる頻度は1、2回目に比べて少ない
厚生労働省も、モデルナで副反応が起きる頻度は1、2回目に比べて少ないと報告している。
さらに政府は、3回目のワクチン接種で、1、2回目と異なる種類を打つ「交差接種」を推奨しているが、それに関してためらっている人も少なくない。
ところが、次を見てほしい。ファイザーを2回接種した人が3回目にモデルナを打った場合、感染を防ぐ抗体量は31.7倍に跳ね上がっている。
【メーカー別コロナワクチン接種後の抗体量の変化】(※厚生労働省発表の資料より)
1回目「ファイザー」→2回目「ファイザー」→3回目「ファイザー」/抗体量の変化:20.0倍
1回目「ファイザー」→2回目「ファイザー」→3回目「モデルナ」/抗体量の変化:31.7倍
1回目「モデルナ」→2回目「モデルナ」→3回目「ファイザー」/抗体量の変化:11.5倍
1回目「モデルナ」→2回目「モデルナ」→3回目「モデルナ」/抗体量の変化:10.2倍
森内先生が解説する。
「この数字を見ても、モデルナの高い有効性は明らかです。モデルナを2回接種した人の3回目のデータでは、抗体の増え方が10倍程度となっていますが、これは2回目のワクチンで獲得した抗体価の高い状態が維持されているため。持続性においてもモデルナがファイザーを上回っているといえます」
■交差接種におけるデメリットはほぼなし
交差接種について、ウイルス学が専門の埼玉医科大学の松井政則准教授に解説してもらった。
「3回目のワクチンは、免疫力を強化するために接種するもの。たとえるならば、たき火にくべる薪です。1回目のワクチンで種火を起こし、2回目でたき火に勢いをつけました。しかし、火力(=免疫力)は時間とともに弱くなっていきます。そこで薪を追加して、火の勢いを強くさせるイメージです。ファイザーもモデルナも、どちらもメッセンジャーRNAワクチンという同じタイプ。いわば“スギ”という同種の薪をくべているのです。2つのワクチンの違いは、スギの産出地が異なるようなもので、少しの違いはあっても、どちらもスギであることには変わりありません。交差接種をしても、デメリットはほとんどないと考えてよいでしょう」
最後に森内先生が語る。
「モデルナとファイザーのワクチンの有効性は、世界中で使用されているワクチンのなかでトップ2。国や地域によっては有効性の低いワクチンしか打てないか、それすらも接種できない人がいるのです。重症化リスクの高い高齢者は、早めに接種しない理由はありません」
第6波を食い止めるカギとされる3回目のワクチン接種。