「新規感染者数が減ってきて、世の中には『オミクロン株は重症化しない』『第6波はピークアウトした』といった楽観論が出ていますが、中等症や重症患者を診ている医療現場では、第6波はまだ終わっていない。急速に患者数が減少した第5波とは異なり、入院患者がまったく減らないというのが現状です」
そう語るのは、コロナ治療の最前線で闘う、埼玉医科大学総合医療センターの岡秀昭教授だ。
新型コロナウイルスの新規感染者数は2月11日をピークに徐々に減少してきているが(1週間平均値)、重症者・死亡者数は、ピークを迎えたとは言い難い(グラフ参照)。
さらに注目すべきなのが、コロナ第6波による「致死率」が「重症化率」を上回る現象が発生している点。東京都のケースでは、60代以上の重症化率は0.35%だが、致死率は0.54%になっているのだ(東京大学・仲田泰祐准教授調べ)。なぜこのような異常事態が起こっているのだろうか?
コロナ病棟のある、ふじみの救急病院の鹿野晃院長が解説する。
「コロナの『重症』の基準は、肺炎を起こして人工呼吸器などを要する状態です。第5波までの患者は、ほぼ100%の人が肺炎を起こして病院に運ばれ、人工呼吸器やECMO(人工心肺装置)などの治療を経た“重症患者”の状態で亡くなっていました。ところが、肺炎を起こしにくいオミクロン株に置き換わった第6波では、コロナ肺炎で入院する患者は10人に1人ほど。コロナ感染による発熱や体力低下などから持病が悪化して亡くなるケースが急増しているのです」
岡教授の病院では、その実態を目の当たりにした。
「今年に入って60代1人、70代4人、80代2人の計7人の患者さんが亡くなりましたが、死亡診断書に死因が“新型コロナウイルスによる肺炎”と書いた方は1人もいません。死因は、敗血症、肺がん、誤嚥性肺炎、急性腎障害、COPD(肺気腫)の増悪など。コロナ患者としては軽症ですが、死を招いたのは全てコロナが原因です。もともと重度の糖尿病や高血圧、脳卒中、がんなどの持病があり、コロナに感染したことがきっかけで症状が悪化したり衰弱したりして意識を失ってしまう。
持病がコロナ感染によって重篤化する仕組みについて、感染制御学が専門の愛知県立大学看護学部の清水宣明教授が語る。
「心臓病、高血圧症、糖尿病、腎臓病、呼吸器疾患などは血管の障害を伴っています。コロナウイルスは、血管の細胞に感染する特徴があり、そこでウイルスが増えて血管にダメージを与えます。免疫も働くことで炎症が起き、血流の悪化や血栓ができることも。もともと弱っていた血管の働きが低下して持病の悪化を招くのです」
■オミクロン株による、誤嚥性肺炎での死亡例も
さらに「誤嚥性肺炎」で命を落とす人も目立つという。
「誤嚥性肺炎とは、口やのどの雑菌がなんらかの理由で肺に入り込み、菌が増殖して起こる肺炎。高齢者の場合、オミクロン株に感染して発熱や倦怠感が起こると、のどの筋力が低下して正常に働かなくなり、口の中の雑菌が食べ物や唾液と一緒に誤って気管に入ってしまうことがあります。CTを撮ると、肺全体が真っ白になるコロナ肺炎とは異なり、右側の肺の下部に炎症が広がる誤嚥性特有の肺炎を起こしていることがわかります」(鹿野先生)
鼻からのどまでの上気道で増殖しやすいオミクロン株。本来、上気道には病原体などを吐き出す防衛機能があるが、のどの痛みや腫れにより、その防衛機能であるバリアが損なわれて誤嚥性肺炎を招くケースもあるという。
さらに“持病の悪化による死亡”という第6波の特徴によって、医療現場では新たな問題が起きていると、岡教授は語る。
「第5波までは、入院患者はコロナ肺炎だけだったため、重症化すれば人工呼吸器を使い、ステロイド剤、レムデシベルなど治療薬で対処していました。対処法が限定されているため、ある意味、闘いやすかったのです。
では“コロナ軽症”による死亡を防ぐには、どうしたらよいのか?
「死亡者数を減らすためにも、ワクチンの有効性を回復させる、3回目のワクチン接種が重要です。第5波が急速に収束したのは、ほとんどの高齢者への2回目のワクチン接種が終わっていたことが大きい。現在、3回目のワクチンの接種率が思うように上がっていないなか、高齢者施設だけでなく、報道されていない医療施設でのクラスター感染も頻発。予断を許さない状況が続いているのです。今からでも3回目の接種をして、この悪い流れを断ち切ることが求められています」(岡教授)
オミクロン株は風邪と変わらないーーその油断の陰で、“軽症”でも亡くなる人は増え続けている。