人生100年時代とはいえ、人はいつかは亡くなるもの。それは自分の両親だって例外ではない。

旅立った家族との思い出を大切にしておくためにも、きちんと「家じまい」をしていこう。

そこで、今回は専門家の教えをもとに「後悔しない家じまい」について考えていきたい。あるじを失った実家を放置しておけば、思いもよらない出費がかさむだけでなく、残されたきょうだいの間での不和の原因にもなりかねない。そうした事態を避けるためのヒントはどこにあるのかーー。

■いったいどこから手をつける? 家そのものを実際に整理しよう!

「家じまいの山場はやはり家財の整理です。特に先祖代々の物まで処分するのはメンタル的にも大仕事なので、モチベーションを維持しながら完遂するためには、事前の準備や工夫が必要です」

そう話すのは、ファイナンシャル・プランナーとして約1000件の家計の相談に応じ、自身も、現在まさに家じまいをしているという北見久美子さん。

北見さんが推奨するのは、やるべきことの「見える化」。まずは家の中を総点検し、ToDoリストを作成して、やりやすいことから始めるのが無難とのこと。

「家財の整理は力仕事ですから、陽気の穏やかな春や秋に着手するのがベスト。親御さんが亡くなったのであれば、ある程度気持ちが落ち着いてくる一周忌や三回忌を機に取り組んでもいいでしょう」

ToDoリストを箇条書きにしておけば、全工程を見渡しやすいだけでなく、ミッションを終えるごとに消し込んでいくことでモチベーションも維持できる。

「手始めに、内見に訪れた人が、『ここなら住めそう』と思えるくらいの状態まで片づけることを目指しましょう。その後は、順次、大きな家具から処分していくと達成感が得られるうえ、スペースができるので作業しやすくなります」(北見さん・以下同)

大きな家具などの処分を民間の業者に頼むと一気に片づき便利ではあるが、かなりの出費に。

極力無料で引き取ってくれる自治体を利用すると節約になる。

「リサイクル・リユース活動の一環として、無料で引き取ってくれる自治体もありますので、ぜひ確認してみてください」

家じまいでは、家具や家電といった「モノ」だけでなく、「縁」の整理も欠かせない。実家を処分しても地縁を切りたくないのであれば、丁寧に対応しておこう。

「まだ墓じまいが残っているケースも多く、お盆やお彼岸にはお参りをお願いできる親戚とのつながりも大事。地縁は何らかの形で残しておくのがいいでしょう」

見落としがちだが、隣人や町内会との縁もある。実家が空き家になっていることは認識していても、売りに出していることは近所の人にはわからない。ある日、いきなり新たな住人が住み始めて驚かせてしまうような不義理を避けるためにも、家じまいをしていることをきちんと伝えておこう。

そして、家じまいの最後の難関となるのが、実家に詰まった「思い出」の整理。

「思い出の品の整理は、なんといってもタイミングが大事。元気で前向きな気持ちのときに手をつけましょう。また、きょうだいの私物を勝手に処分してしまうと、もめ事の種になりますので、早めに本人に渡して『行き先』を決めてもらうようにしましょう。貴重なものを誤って処分してしまわないよう、先祖代々伝わるようなものなどは、コーナーを設けてそこに移動させておくのもおすすめです」

心身ともにきつい作業となる家じまいをやり遂げるには、その間の体調管理も欠かせない。

■家じまいで後悔しないためのポイント8

【1】まずは作業の全体をリスト化する

「ToDoリスト」を箇条書きで作成。実家の売却を検討するなら、まずは内見に訪れた人が好印象を抱くように家の中を整頓しておこう。その後は家具や家電を順次処分し、貴重品やアルバムなど、思い出の品は最後に吟味。

【2】最低1人は地元の人手を確保する

粗大ゴミなどは捨てられる日も限られるので、そのたびに実家に帰るのは難しい。地元の友人や親戚など、家じまいの助っ人を確保しておき、頼めることは頼むようにしよう。もちろん感謝の気持ちや簡単なお礼も忘れずに!

【3】ご近所への事前の周知は忘れずに

家じまいの報告は、親戚や親しい友人だけでなく、近所の人にも漏れなくすること。いきなり「お隣に知らない人が住んでいる!?」とびっくりされてしまうケースもあるので、面倒がらずに町内会などへも挨拶しておこう。

【4】入浴施設に泊まって宿泊費を節約

電気、水道を止めた実家に泊まっての作業は困難だが、そのつどホテルへ宿泊すると経費がかさんでしまう。そこで活用したいのが宿泊のできる近場の健康ランドなど。節約にもなるうえ、疲れも癒せて一石二鳥に。

【5】大型家具は自治体の無料処分を活用

大きな家具は業者に有料で引き取ってもらうと手っ取り早いが、自分で持参すれば無料で処分してくれる自治体もあるので調べてみよう。また、傷みが少ないものであれば、リユースやリサイクルでの再活用も探ってみて。

【6】上手に「縁」を残しておこう

家じまいをしてしまうと地元との「縁」は薄くなってしまいがち。可能であれば、実家の片づけに帰ったときに、仲のよかった同級生などと顔を合わせて、連絡先を交換しておこう。同窓会名簿の変更もお忘れなく。

【7】思い出の品は目を通してから処分

思い出の品の処分は、後悔を残さないよう、じゅうぶん時間をかけて最後の仕事に。日記やアルバムといった処分がためらわれるものは、一度すみずみまで目を通すと、捨てるふんぎりがつきやすくなることも。

【8】自分の代の「家じまい」を想像して

両親の家じまいを終えたら、次は自分の家を子世代がしまうことをイメージしてみて。「このままでは大変なことに!」と思ったなら、次の世代に負担をかけないような老後の住まいづくりを心がけていこう。

最後に、北見さんは家じまいで失敗しない秘けつを次のように語る。

「家じまいには、『いつまでに』という期限がありませんが、自分自身が元気でなくてはできません。大きな負担を次の世代にそのまま残してしまわないよう、自分で自分を鼓舞することが大切です」

子や孫の負担を心配しながらでは、自分自身の老後もけっして豊かなものにはならないのだ。

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