歯を失うと認知症になりやすくなる。80歳時点で20本の健康な歯を残すため、ぜひ取り入れてほしい習慣があると、歯の専門家。

それはなんとチーズを食べることだという。

自分がもっともなりたくない病気は認知症……。日本認知症予防学会などの調査で、約5割の人が認知症を選び第1位だった(2021年)。だが、2017年・内閣府の発表によると、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になるという予測もある。

認知症を防ぐには、歯の健康を守るのも一手だ。80歳で20本以上の歯がある人は、歯を失って入れ歯も使わない人と比べて、認知症発症リスクが半減するという調査結果もある(2012年・神奈川歯科大学)。高齢でも自分の歯が多いと、何でも食べられるうえ、認知症も予防できるのだ。

とはいえ、一生懸命歯磨きしているつもりでも虫歯ができてしまうことがある。

■チーズが再石灰化を進める

「虫歯を防ぎたいなら、チーズを食べればいいんです」

そう断言するのは歯学博士の稲葉大輔先生だ。チーズが虫歯を抑えるとは驚きだが、そもそも虫歯はどうしてできるのだろう。

「虫歯は、虫歯原因菌が食品中の糖類をエサにして酸を作り、その影響で歯の表面が溶ける『脱灰』によって起こります。ただし、食事が終わり糖類がなくなると脱灰は止まり、唾液中のミネラルイオンが浸透して歯の表面が修復される『再石灰化』が始まります。

本来歯は、脱灰と再石灰化を自然に繰り返して、虫歯にはならないものです」(稲葉先生・以下同)

それならば、なぜ人間は虫歯になるのだろうか?

「しょっちゅう間食するなど糖類をとりすぎると、脱灰が続いてしまいます。また、もともと唾液中のミネラルイオンが少ない人や、加齢により唾液の量が減った人は再石灰化が進まず、虫歯になりやすくなります。虫歯予防は、いかに脱灰を抑えて再石灰化を促進するか。それには食後のチーズが有効です」

チーズが虫歯を防ぐ仕組みは、次のとおりだ。まず、チーズをかむことで唾液が多く分泌される。唾液は歯を溶かす酸性環境を改善するので、脱灰を抑える効果がある。次に、チーズからカルシウムやリン酸イオンが溶け出し、唾液のミネラルイオン濃度を上昇させ、再石灰化を進める。さらに、チーズに含まれる油分やカゼインタンパクが歯に細菌が付きづらい状態を作り、歯石の形成を抑えるのだ。

「チーズの虫歯予防効果は、ヨーロッパでは古くから知られていて、私がオランダに留学した1990年ごろにはすでに常識でした。WHO(世界保健機関)も2003年に、虫歯リスクを低減するものとして食品では一番にチーズをあげ、キシリトールよりも効果が高いと発表しています」

■食後にお茶とベビーチーズを1つ

それでは、どのように食べるのが正解なのだろうか?

「食事や間食の最後に、お茶などを飲んでから、10グラム程度食べればOKです」

10グラムというとキャンディ状のチーズなら2個、ベビーチーズなど個包装タイプなら1個で十分だ。

「チーズの種類は、ナチュラルチーズでもプロセスチーズでもかまいませんが、甘味料や果物などが混ざっているものはNGです。再石灰化の促進には、食事の最後にチーズを食べるのがおすすめです。

ただし、チーズで歯周病は防げません。歯科での定期チェックもお忘れなく」

チーズにはタンパク質やカルシウムなども豊富に含まれる。栄養たっぷりなチーズを毎食後に食べて、虫歯を予防し、認知症知らずの人生を歩むのだ!

【PROFILE】

稲葉大輔

歯科医師・歯学博士。オランダ留学中にチーズ文化に触れ、虫歯予防効果を知る。著書に『チーズは虫歯予防の最強食品』(ネクステージ)

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