慢性的な人材不足に加え、コロナ禍や物価高が、介護事業者を直撃している。

東京商工リサーチの調べによると、’22年の介護事業者の倒産は、過去最多の143件(前年比76.5%)に。

うち8割が、ヘルパーによる訪問介護と、施設へ通うデイサービスを行う事業所だった。

つまり、高齢者が在宅で健康に暮らすために必要なサービスが危機的状況にあるのだ。

全国老人福祉施設協議会、副会長の小泉立志さんは、「訪問介護やデイサービスの倒産が多かったのは、コロナ禍当初に利用控えが相次ぎ、利用低迷状態で2年以上経過して小規模事業者が打撃を受けたため」と原因を指摘する。

実際に、倒産、あるいは事業を閉じたのは8割が地域を支えてきた小規模事業者だ。

「断腸の思いでした。地域密着でがんばってきたんですが、コロナ前からのヘルパー不足と高齢化に加え、コロナ禍による利用控えもあって、毎月20万円もの赤字が続くようになってしまって……」

業務廃止に至った苦渋の決断をそう明かすのは、’22年7月に10年続いた訪問介護事業を廃止した「うさぎの和」(東京都江戸川区)代表の三田友和さん。

約30人いたヘルパーも廃止直前は6人に。うちほとんどが60~70代の高齢者で、濃厚接触者となって出勤できないヘルパーも出たことが追い打ちをかけた。

■コロナの感染対策が影響し、売り上げ大幅減に

「このままの状況が続くと介護を受けられない高齢者が大量に出かねない」

そう危機感をあらわにするのは、京都市内のヘルパーステーション「わをん」の代表、櫻庭葉子さんだ。

「引き受け先が見つかればいいですが、引き受けたくてもできない事業者も少なくないはず。うちにも、昨年何度か『訪問介護事業を閉じるので、利用者さんを受けてくれないか』という問い合わせがありましたが、とてもじゃないけどムリ。泣く泣くお断りしたんです」

その理由のひとつが、重くのしかかるコロナの感染対策。

「大手さんの場合、コロナに感染した利用者さんのところには、〈サービスに入りません〉というところも多い。実は、看護師につく危険手当はヘルパーにはつかないんです。でもうちは、ヘルパーが防護服や防護マスクをつけてケアに入ります。ですからどうしても通常より時間がかかって、一日に回れる件数が減ってしまうんです。新規を受ける余裕もありませんから、うちはコロナ前より年間で800万円近く売り上げが落ちています」

加えて、物価高による影響も受けている。

昨年8月に訪問介護事業を閉じた東吾妻町社会福祉協議会(群馬県)は、「高騰するガソリン代が痛手になった」とこう話す。

「うちのような地方では車移動が必須です。県からいくらか補助金は出ましたが、それだけではとても追いつかず事業を畳みました」

ガソリン代のほかにも、光熱費だけで月100万円も出費が増えた施設もあるという。

■生活がすさみ、要介護度が上がってしまう高齢者も

さらに前出の櫻庭さんは、「このところの物価高は、事業者だけでなく利用者のサービス離れを加速させている」と危惧する。

「利用者さんのなかには、月5万円以下の年金で生活している人も少なくありません。この物価高で生活が立ちゆかなくなって、生活援助サービスを減らさざるをえない人も。食事を作る、住まいを掃除する、といった生活の基本を整えないと、どんどん要介護度が上がってしまうんです」

訪問介護サービスには、食事や掃除などをサポートする「生活援助」と、排せつや体の清拭など「身体介護」の2種類あるのだが、「コロナ禍以前から、生活援助のサービスが使いにくくなっていることが問題」と訴えるのは、NPO法人「暮らしネット・えん」の代表理事、小島美里さんだ。

「政府は、社会保障費の増大を理由に、この間、なんとか介護保険で提供するサービスを縮小しようとしてきました。そこでやり玉に挙がってきているのが生活援助。『家事なんて主婦の仕事』だと言わんばかりに介護報酬が低いのです。だから大手事業者は、公然と『(報酬が低い)生活援助だけでは請け負いません』と言っています。こうした大手が引き受けたがらない生活援助を担ってきたのが、地域密着の小規模事業者なんです」

こうした小規模事業者がどんどんつぶれていくと、どうなるのか。

「小さい事業者はつぶれて大きいところが吸収したらいいなんて話も聞こえてきますが、大手の場合、利用者が支払う介護費用も高くなります」(小島さん)

支援が受けられなくなった高齢者の末路は悲惨だ。

「たとえば、骨折をした高齢者がなんとか歩くことはできるけど家の片付けはできないといった場合、支援が入らなければ部屋は散らかり放題ですよね。すると、またつまずいてほかの部分を骨折したり、それがきっかけで、どんどん無気力になったりするんです」

そうなると、認知症を発症する可能性も高まってしまうだろう。さらに、前出の櫻庭さんも、「家族も犠牲になる」と指摘する。

「サービスが受けられないことで、介護に疲れて介護殺人が起きたり、子どもや孫が介護に忙殺される“ヤングケアラー”などの問題も増加すると思います。実際に、介護サービスを探しても受けられないから、といって諦めてしまっている高齢者も多いですから」

高齢者や家族が犠牲になる悲惨な未来を防ぐためにも、国や自治体には早急な対応が求められる。