「いわゆる『103万円の壁』や『130万円の壁』を見直す」

2月1日の衆議院予算委員会で岸田文雄首相は、パート収入が一定額以上になると、税や社会保険料の負担で手取り額が減る“年収の壁”を見直すことを明言した。全国紙記者が解説する。

「1月4日の年頭記者会見でも岸田首相は『“年収の壁”の是正にも取り組む』と表明しており、それが呼び水となり、今国会で議論が行われています。これまでも“年収の壁”を超えると手取りが減ってしまうため就業調整する人が多く、女性の“働く意欲”を阻んでいると指摘されてきました。

昨年10月、最低賃金が過去最大レベルで引き上げられたことや、政府が賃上げを要請していることから、年収が上がることで労働時間を調整して“働き控え”が起きる懸念があるため、年収の壁への対策が急務だと政府は考えています。とはいえ制度変更には時間がかかるため、手取りが減る分を、時限的に給付金を出して穴埋めする案も浮上しています」

野村総合研究所が昨年9月に、パート主婦3千人を対象に行ったアンケート調査で、61.9%が「壁」を意識して就業調整していることが明らかに。その一方、“年収の壁”について「100万円を超えると損をする」など、曖昧な知識しかない人も少なくないという。

■家計への影響が大きいのは“社会保険の壁”

「“収入の壁”には“税金の壁”と“社会保険の壁”があります」

そう解説するのは、家計コンサルタントの八ツ井慶子さんだ。

「まず、税金の壁には、妻本人が住民税を払うことになる『100万円の壁』と、妻に所得税がかかり、夫が配偶者控除を受けられなくなる『103万円の壁』があります」

八ツ井さんの試算によると、40歳の主婦がパートで「100万円の壁」と「103万円の壁」を超えて年収105万円になっても、住民税は年1万円あまり、所得税は年1千円(復興特別税は考慮せず)。

「税金は、収入から控除を引いた課税所得に税率をかけるので手取り収入は大きく減少しません。妻のパート年収が103万円超になると夫の所得にあった配偶者控除がなくなりますが、代わりに妻の収入に応じた配偶者特別控除に切り替わるので、夫の手取りが大幅に減ることもありません」

影響が大きいのは“社会保険の壁”を超えることで年金、健康保険、介護の社会保険料の本人負担が生じることだ。

「従業員101人以上の会社、週の労働時間が20時間以上などの要件を満たしたうえで、年106万円(月8.8万円)以上の収入がある場合、パートでも社会保険に入ることに。また、これらの要件を満たしていない場合でも、年収が130万円以上になると、原則、夫の社会保険の扶養から外れ、妻自身が社会保険料を負担することになります。

社会保険料は会社と折半することになっていますが、106万円の壁を超えた場合は年約15万8千円、130万円の壁を超えた場合は年約19万4千円の保険料を本人が払うことになり、その分手取りが減ってしまうのです」

「壁」を超える前と同じ手取りを得ようとするなら、「106万円の壁」で額面125万円ほど、「130万円の壁」で額面155万円ほど稼がなければならないという。

■「“壁”を超えて働くことを考える時代に」

今後、「壁」はどうなるのか?

「現行の制度では、夫がサラリーマンや公務員などで、“社会保険の壁”を超えずに、夫の社会保険の扶養に入っている妻の公的年金は『第3号被保険者』に該当し、年金保険料の負担がありません。

一方、同じ専業主婦でも、夫が自営業の場合は、年金保険料を自分で支払っています。こうした現状が不公平かつ女性の労働意欲をそいでいるとして、以前より問題とされてきました。多様化が進むなかでは、世帯単位ではなく、個人単位で税や社会保険料を払う方がいいのではないでしょうか」

長期的には、「扶養制度」そのものが縮小、または廃止されることで、「年収の壁」が消えていくと見込まれている。働く女性はどう対応すればいいのだろう。

「“社会保険の壁”を超えると、大きく手取りが減りますが、将来の老齢年金が増える点がメリットとして指摘されています。とはいえ、公的年金は財政不安を抱えたままで、多くの方の老後不安につながっています。人生100年時代に突入しようとするなか、現状の社会保障制度はもはや私たちの暮らし方に合わなくなっています。今後も改正は続くでしょう。

その都度、働き方を変えるのではなく、壁など気にせず長く働くことを意識して、やりがいを優先するといいのでは? 130万円の壁の前で尻込みしている人は、年収155万円以上を目指して挑戦するタイミングなのかもしれません」

壁を大きく飛び越えることが、現在と未来の家計を守るのだ。

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