YouTubeや著書で人気のバレエダンサー。その彼が恋に落ち、結婚したのは、クリスさん、男性だ。

二人はどこにでもいる、新婚さん。フランスで正式に結婚したカップルだ。彼らは仲睦まじく、ごく自然にゆったりと、誰の目も気にせず、腕を組んで寄り添って歩く。そんな二人はどこで、どのように出会ったのだろうかーー。(全3回の第2回)

竹田さんはバレエダンサー。「上品にボディメークができる」とSNSや動画サイトで話題の「床バレエ」の日本での第一人者だ。

「美尻王子」の異名を持ち、10年ほど前から床バレエのエクササイズ本を何冊も出版。今年4月に出版した『マネしたらやせた! 30秒だけ床バレエ』(講談社)も好評を博している。

いっぽうのクリスさんは、リトアニア出身。国内外で活躍する、建築やインテリアのデザイナーだ。

フランス在住の二人は今年3月、パリから南に列車で2時間ほどの距離にあるブロワ市で、結婚した。彼らが暮らすフランスでは、ちょうど10年前の’13年から、同性婚が正式に認められている。

「クリスの生まれた国・リトアニアは、ロシアやソ連に組み込まれてしまっていた時代が長かったからか、国民のメンタルがすごく保守的なようです。最初に連れていってもらったときもクリス、自分の国に着いた途端、無意識にだと思うんですが、繫いでいた私の手を、パッと離したんです」

リトアニアについて説明する竹田さんの言葉を、クリスさんは頷きながら聞いていた。そして、自らの言葉でこう続けた。

「だから僕、リトアニアにいたころは自分でも気が付かない間に、自分をすごく、押さえつけて生きていたと思う」

自分を押し殺しながら、大学生のころまで祖国で過ごした。

「建築を学んでいた大学生のとき、EUのコンクールで僕の設計したリトリートのプロジェクトが1位になりました。それを見た、日本の会社にスカウトされたんです」

’11年に22歳で来日したクリスさんは、日本で建築やインテリアの仕事を始めた。

そして5年後の春、運命の出会いが訪れる。

「東京で、友達のバースデーパーティに招かれて行ったら、そこに純くんも来ていたんです」

こう振り返ったクリスさんに、「先に見つけたのは、私よね」と竹田さんが言葉をさし挟んだ。

「まさに一目惚れでしたね。パーティ会場で、遠くからずっとクリスのことを見ていました。彼が一人になったのを見計らって近づいていって。それで『ハーイ』って声をかけた。

それが最初よね」

出会いの瞬間を、嬉しそうに述懐した竹田さん。でも、当時クリスさんには交際している人がいた。

「そう、元カレがオーストラリアに住んでいて。『来週、会いに行こうと思う』って話をしたと思う」

いきなりの失恋にショックを受けた竹田さん。だが、よくよく聞けば、クリスさんの遠距離恋愛は、あまりうまくいっていなかった。

「だからって『チャンス!』なんて思えない。

それどころか、最初の3カ月は、あくまで友人として、クリスのことを励ましました。『悩んでいないで、もう一度会いに行ってみれば』って」

その奥ゆかしい態度が、クリスさんの胸を打つことに。

「純くんは最初に見たときからかわいいなと思っていたけど。何より、すごく謙虚で、僕のハピネスだけを考えてくれてた。なんて素敵な人だろうって、思うようになった」

やがて、ごく自然に交際がスタート。気付けば、二人はともに暮らすように。

4年後の’19年には、クリスさんの仕事の関係で二人はフランスに移住。竹田さんにとっては10年ぶりのフランス生活だ。

「移住後、南仏のクリスの友達の家に遊びに行くと、そのお宅ではグレイハウンドという、世界一足の速い犬を飼っていました。でも、そのワンちゃん、脚が1本ないんです。かつて出場していたドッグレースでけがをして、脚を切断することになってしまったと。さらに、ドッグレースの犬は、年老いたり走れなくなると、殺処分されるケースも少なくないと聞きました。そこで、前々から犬を飼いたいと考えていた私たちは、保護団体からグレイハウンドを1頭、引き取ることにしたんです」

一昨年の5月、二人には新しい“家族”が加わった。名前は「ビジョン」。竹田さんが言う。

「雄犬のビジョンのこと、私たちは『息子』って呼んでるんです。ビジョンがうちに来たことで、私たちはすごく、家族というものを意識するようになりました」

■「ホモフォビア」に大きな影響を与えたのは身近な存在=親の存在

日本では今年6月、いわゆる“LGBT理解増進法”が成立・施行された。だが、法案審議の過程で保守派の意向を踏まえ、後ろ向きともとれる修正が加えられたことを疑問視する声も少なくない。

背景にあると思われるのが、一部の人たちに根強く残る性的少数者への偏見や嫌悪感。だが、竹田さんたちは「同じような嫌悪感が自分たちにもある」と打ち明ける。

竹田さんは「理解しにくいと思いますけど」と前置きして、自分たちの心の内をこう説明した。

「『ホモフォビア』って、聞いたことあります? 同性愛や同性愛者を受け入れられない気持ちを指す言葉なんですが、それは一般の人はもちろんですが、私やクリスの中にも、あるものなんです」

クリスさんが、自らの経験を例として、さらに説明を続けた。

「潜在意識は3歳ぐらいまでに作られるというけれど、まだ僕たちの世代が幼いときは、ストレートの文化しか、教えられてこなかったから。自分でも気付かないうちに、ホモフォビアの考えが自分の中に根付いちゃっていたと思う。だから、『僕が好きなのは男の人』って自分のことを理解したとき、心の中がぐちゃぐちゃになった」

こう苦しげに吐露するパートナーの手に優しく触れながら、竹田さんが言葉を引き継いだ。

「それがきっと、幼いときの私が『自分は決して成功できない』という思いを募らせ続けた遠因だったと思うんです。それにホモフォビアってとても根深くて。大人になっても、ゲイのカップルに会うと戸惑うというか、距離を置いてしまう。自分もゲイだというのに」

そのような心境に、大きな影響を与えたのは身近な大人=親の存在。クリスさんは、子どものころ目にした、父親の些細な言動を長い間、忘れることができないでいた。

「夕食のとき、テレビを見ていたら、ゲイの人が出ていました。リトアニアは同性婚が認められてないから、その人は『フィンランドに引っ越します』と。すると、お父さんは『こんなことは認められない、見たくもない』と言ってテレビを消した。そのときの怒ったようなお父さんの顔や声は、ずっと長く心の中に残っていました」

いっぽう、竹田さんの父親は、振舞いが女性的になっていく息子に向かっていつも「男らしくしろ」と、苦言を呈していたという。

「『男なんだから』とか『男らしくしろ』とか。思春期を迎えてからは『彼女作れ!』って。フランスに行くときも『フランス人の彼女を連れてこい』。そればっかり」

竹田さんもクリスさんも、それぞれの父親の言葉に傷つき、追い詰められた。だからクリスさんは「家族と距離をとった」。竹田さんも「居場所がなくなってしまったと感じていた」とこぼし、言葉を詰まらせた。

【後編】床バレエで人気の“美尻王子”が同性婚!〈3〉フランスで婚姻届けを提出し正式な結婚カップルに。新婚番組出演で思うことへ続く