韓国の5人組ガールズグループNewJeansが、先日、東京ドームで日本初のファンミーティングを行った。
なかでも、メンバーのハニが、松田聖子の『青い珊瑚礁』を披露したことが日韓でトレンド入りの大反響。
これについてハニは「ミン・ヒジンさんがおすすめしてくれたんです」と発言し、生みの親であるミン・ヒジン氏(以下、ミン氏)にも「選曲が天才すぎる」と称賛の声が集まった。
「ミン氏は、もともとは大手事務所『SMエンタテインメント』で18年ほどディレクターを務めていました。数多くのヒット曲を送り出してきた女性辣腕ディレクターです」
そう解説するのは、日韓の音楽シーンに詳しい、ジャーナリストの松谷創一郎さんだ。
ミン氏は若手時代から現場に携わり、アルバムコンセプトと衣装がマッチしていないことなどの問題に気づいていた。それまで誰も指摘しなかった問題に次々と切り込み、持ち前の審美眼とガッツで担当する領域を広げていく。’17年にはアートディレクター統括に就任した。家父長制がはびこる韓国社会で、平社員からトップに上り詰めたスーパーウーマンなのだ。
「ミン氏のビジュアルアイデアは常に革新的でした。少女時代の『Gee』でのカラージーンズや『GENIE』の白い制服スタイル等の衣装も、ミン氏が手掛けたものです」(松谷さん、以下同)
常に新しい手法でアーティストの魅力を引き出すミン氏は“コンセプト職人”といわれている。
「ミン氏は’18年に同社を退社後、BTSなどを抱える韓国最大手“HYBE”のもとで、新レーベルADORの代表になりました。2年ほど手塩にかけて育て、プロデュースしたのが、NewJeansなんです」
■5月には代表辞任に追い込まれる泥沼騒動も……
その彼女たち、実は親会社のHYBEとADORのミン氏の間の“泥沼”騒動に巻き込まれているという。
「ことの発端は、4月22日。
これに対しミン氏は緊急記者会見を行い「私はADORの株の18%しか持っていないのにどうやって会社の経営権を奪うのか」と反論。
パン・シヒョク氏(以下パン氏)との極秘チャットまで大暴露し、「このクソじじいども」と暴言を吐くシーンもあり、号泣しながら辞任に追いやられた悔しさを語った。
その後HYBE側が、ミン氏を業務上背任の疑いで告発するも、ソウル中央地裁は「証拠不十分」として、ミン氏は代表解任を免れた。
会見前の韓国世論はHYBE派が多数だったが、会見後は世論が割れた。さまざまな仕打ちを受けたミン氏を擁護する声、大人のけんかに巻き込まれた若いメンバーたちへの心配などである。
韓国内ではこの騒動だけで、9日間で1千275件もの記事が上がるほどだった。
■泥沼騒動の原因、理解するためのポイントは?
「そもそも、HYBEが企業として上場したのは’20年と、まだ日が浅いんです。’20年までに、芸能事務所の企業を買収・吸収し、巨大複合企業へと急激な成長を遂げます」
HYBEが、短い期間に巨大化したひずみが、今回の騒動に発展したと松谷さんは分析。さらに、この泥沼騒動を理解するには2つのポイントがあると指摘する。
一つ目は、今回のけんかが「ビジネスvs.クリエイティブ」である点だ。
パン氏をはじめとするHYBEの経営陣は利益を追求するが、一方のミン氏はクリエイター。
「ミン氏はNewJeansがデビューする前から、自分がやりたいことを貫いていたのでしょう。ただ、経営陣からすると、ミン氏の要望をすべてかなえるわけにもいかない。前社も含め相当なキャリアを築いてきたミン氏の“声の大きさ”をよく思わない経営陣は多かったかもしれません。涙の会見で国民の同情を誘ったのも、HYBE経営陣としては非常に嫌だったと思います」
二つ目のポイントは、「新たな音楽シーンを開いたNewJeansの魅力」にある。
「NewJeansは、10代の女の子の刹那的な感情をナチュラルに映し出しています。従来のK-POPよりもクールでリズムも複雑。圧倒的に耳に気持ちよく、何度聴いても飽きません」
’80年代、坂本龍一のシンセサイザーを使ったYMOのテクノポップが、新たなシーンを開拓したのと似た衝撃があったと松谷さん。
「世界的にインパクトを与え、NewJeans前と後というほど音楽シーンをがらりと変えました。とにかくミン氏の功績は大きいです」
しかしミン氏は、パン氏が’24年に手掛けた「ILLIT」というグループが、NewJeansのスタイルをコピーしたと批判している。
「確かに似通う点はあるかもしれませんが、『まねを許さない』というのはどうだろうかと思います。流行というのは、新たに誕生したものに同調し、またそこから差異化してと、追いつ追われつをくりかえしていくものです。
今後の展開について、松谷さんは、かつての東方神起、SMAPのように分裂・解散の可能性もあると予想している。
「元のさやに戻る可能性は低いでしょう。ファンにとって理想的なのは、ミン氏とNewJeansが一緒に独立することかもしれませんが、そうなると商標となるグループ名は使えない。ミン氏が辞任して、NewJeansだけ残るというパターンもあります。メンバーが決裂をして一部だけがミン氏と一緒に独立する可能性もゼロではありません。結局、最後のイニシアチブは、メンバーが握っているでしょう」
ミン氏独立の真偽は定かではないが……NewJeansの音楽が長く続くことを願うばかりだ。