「台本を読んで、僕が演じる入倉はエリートでプライドが高くめちゃくちゃ嫌な奴で『よくこんな偏見を持っていたり、差別的発言するな~腹立つ!』とムカつきました(苦笑)。そこで芝居でも、まず寅子に“ムカついてもらう”が目標でした」

そう力説するのは、NHKの連続テレビ小説『虎に翼』新潟編で、伊藤沙莉(30)演じる主人公・佐田寅子と衝突する判事補・入倉始役の岡部ひろき(23)だ。

彼の実父は寅子の父・猪爪直言を好演した岡部たかし(52)。オーディションで入倉役をつかみ、親子リレー出演が話題となっている。

今回の朝ドラ出演を父に報告すると「猪爪家をはじめ、皆さんのお芝居がすごいから、いい経験できるな」とエールを送られたという。

「僕の撮影初日は、ちょうど父が『あさイチ』にゲスト出演した日でした。メーク室のテレビで放送が流れていて、『(お父さん)緊張してるな~』と呟くと、メーク中の伊藤さんも『緊張してますね~』と優しく話しかけてくれました」

その後、愛想のかけらもない入倉の初登場シーンを見た父からは、《元気よく挨拶せなあかんで!》とLINEで冗談が届いたという。

先日放送された第18週では、放火と保険金をだまし取ろうとした詐欺罪の容疑をかけられた朝鮮人の裁判を通して、戦後の人々の差別意識や偏見がテーマとして描かれた。また、岡田将生(34)演じる星航一が抱える“戦争を止められなかった”という責任と深い後悔が明らかになった。星の部下である入倉は、寅子に心を開かない昭和生まれの“若者”で、少年を「ガキ」呼ばわりしたり、「また朝鮮人か。事件ばかり起こしてこまった奴らですよ」と、平気で差別発言を繰り返していく。

寅子に「さすが家裁にいただけあって、大変、お優しい」と、嫌みを言うシーンの撮影でのこと。

「僕は、悪気なく偏見に満ちた発言を自然に言えたらと思いました。カットがかかったとき、伊藤さんが、僕を見て、笑顔で『ムカつく~』と言ってくれたので、“誉め言葉”だとすごくうれしかったですね」

手鏡を見て髪をとかす入倉の癖は衣装合わせのときに誕生した“ナルシスト演技”だという。

「偏見と臆測で発言を続けた入倉は、寅子さんとの対立ボルテージが上がり、とうとう“暴れ”ます。ふだん、絶対言わない言葉を発したりする役なので、僕も俳優として演じがいがありました。ただ、撮影中は、本当にずっと緊張が続いていて、身が引き締まる思いでいました」

休憩中はスタジオ前室の隅っこで一人でじっとしていたという。

「すると伊藤さんが『何見てるの?』と、声をかけてきてくださって。実はそのときデジカメが欲しくて携帯で調べていたんですけど(苦笑)、伊藤さんは、僕を1人にさせないよう気遣ってくださったんだと思います。そこに岡田さんも『どういうのが欲しいの?』と加わり、一緒にカメラの話をしてくださって。お2人とも本当に優しくて、途中参加で緊張する僕を、居心地よくしていただいたんです」

■伊藤沙莉から最後にプレゼントを渡され

裁判のシビアな場面の撮影が続いているときも、伊藤の天性の明るさに救われたと語る。

「緊張感あるシーンの本番を除いては、とてもずっと明るくて、太陽のように照らしてくださるんです。場の空気が自然とよくなりますし、みんな伊藤さんの笑顔に救われている気がします。僕の気持ちが沈みそうになる大変な場面であっても、伊藤さんのおかげで楽しい現場だと感じさせてもらいました。朝ドラの主人公って、絶対大変なはずなのに、伊藤さんは、疲れたそぶりを一切見せない。寅子のようにすごくカッコいい。

僕も見習いたいと思いました」

無罪判決が言い渡されたあと、寅子、星、入倉は涼子(桜井ユキ)が営む喫茶店『ライトハウス』へ初めて一緒に食事に行く。そこで寅子とぶつかりあう場面では――。

「僕は、号泣しながら『佐田さんのことは小うるさいクソババアとしか思ってなかった』と、本音をぶつけると、寅子さんからも『差別主義者のクソ小僧!』と……。実はリハーサルのときは伊藤さんも僕も、この応酬にお互い笑ってしまいました。岡田さんはじめ、桜井さん、現場のスタッフさんたちみんなが笑顔を見せていたんです」

特に、正直な気持ちを吐露した入倉を寅子が諭す場面で、伊藤のすごみを感じたそうだ。

「目の表情が本当にまっすぐで、伊藤さんがまさに寅子と一体となり、迫力がありました。僕もぐっときて、入倉としての気持ちも引っ張ってもらいました。入倉は、若さゆえの未熟さというかケツが青いんですよね。そんな彼を最後は、伊藤さんも岡田さんも『入倉ってかわいいよね~』と、言ってくれてうれしかったです。岡田さんは『ここで(入倉)髪をかき上げたら笑っちゃうわ~』と言ってくれたことがありました。実際に、ある場面でやってみたら、本当に笑ってくださったのもいい思い出ですね」

“差別主義者のクソ小僧”という応酬から、寅子と和解した入倉。最後の撮影後、彼自身にも伊藤からうれしいプレゼントが待っていた。

「僕のクランクアップ後、伊藤さんが自らデザインされたトートバッグとTシャツとトレーナーをいただきました。伊藤さんに『デザインかわいいですね』とお礼を言うと『もらえた? よかった~』と安心されていました。トートバッグも、すごく気に入って今愛用しています」

それから2週間後、岡部が別の用件で再びNHKのスタジオに顔を出したときだ。

「伊藤さんが、『あれ、なんでいるの?』と声をかけてくれたんです。『岡田さん呼んでくるね!』と呼んでくださって。僕が、撮影の合間に見ていたカメラを実際に買ったことを伝えようとする前に、岡田さんが先に『ちょっと待って、それ、もしかしたらカメラ?』と気付いてくださったんです(笑)。最後に僕の新しいカメラで3人一緒に記念写真を撮らせていただきました。伊藤さん、岡田さんとご一緒させてもらったのは、本当に俳優としていい経験になりました」

くしくも父・たかしが和歌山から上京して劇団入りしたのは24歳。今の彼とほぼ同じ年齢だった。すでに舞台では共演している岡部父子が、いつか朝ドラ共演する日も来るかもしれない。

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