「のどの激しい痛みに加え、5日以上、せきが止まりませんでした。熱はなかったので様子を見ていたら、同じ職場の人から新型コロナと診断されたと連絡が……。

急いで病院に行ったら、百日咳と診断されました」(都内の30代女性)

今夏、せきを伴う感染症が全国的に流行している。国立健康危機管理研究機構によると、7月28日~8月3日の百日咳の新規感染者数は3599人。2025年に入ってからの累計の感染者数は6万826人となった。前年の同時期の新規感染者数は55人、累計が901人だから、前年比60倍以上の大流行ということになる。

新型コロナも流行の兆しを見せている。7月28日~8月3日に全国約3千カ所の定点医療機関に報告された新規感染者数は2万1365人。6月30日~7月6日が7615人だったから、1カ月で約3倍に急増したことに。

さらに、インフルエンザの新規感染者も1153人報告されており、今夏も全国各地で感染症の広がりが止まらない。

「以前はインフルエンザの流行は冬の間というのが定説でしたが、新型コロナウイルスが現れて以来、夏の間でもインフルエンザが流行するようになりました。新型コロナウイルスも定期的に流行が来ていて、今また全国的に増加傾向にあります」

こう話すのは横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長の三島渉先生だ。インフルエンザ、新型コロナウイルスに加え、前述のように百日咳もはやっている今夏。百日咳は百日咳菌という細菌に感染する感染症で、その名のとおりせきが長く続く。

「小児に多い感染症ですが、最近は大人でも罹患する人が増えています」(三島先生、以下同)

感染経路は飛沫で、発症までが2~3週間と長いため、無自覚無症状のまま拡散してしまうようだ。百日咳の特徴のひとつに「乾いたしつこいせき」がある。

「インフルエンザや新型コロナウイルスは痰のからむせきが出るのですが、百日咳は感染症にしては異例で痰がからまないせきが特徴です。しかし、痰がからまないせきは長引くことも多く、乾いたしつこいせきが2週間~2カ月以上続くことも珍しくありません」

せきが悪化してくると、発作的にせき込むようになったり、夜間に強くせきが出たり、せき込んだ後にヒューッという吸気音を出すようになるといった症状が現れる。重症化すると入院が必要になることも。マクロライド系の抗菌薬を5日間ほど服用することで症状はおさまってくる。

■エアコンのカビがせきを招くことも

感染症以外にも、せきを伴う病気にせき喘息や夏型過敏性肺炎などがある。最近、目立ってきたと三島先生が指摘するのが「せき喘息」。

「せき喘息も乾いたせきがしつこく続くのが特徴です。アレルギー体質の人がかかりやすく、発症のきっかけとして、疲れたり、免疫力が下がって風邪をひき、せきが出始め、そのまま止まらなくなるケースが多くあります。ふだんは無症状の人が風邪をきっかけにせき喘息を発症してしまうわけです」

せき喘息は痰がからまないせきが出ることが多いが、白濁したり透明の痰がからむこともある。

「百日咳と症状が似ているのですが、せきが何カ月も続いたり、治ったかと思うとぶり返すといったように、繰り返す場合はせき喘息の可能性があります」

治療は吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などを用いる。

適切な治療をせずに放置すると、せきが止まらないどころか、気管支喘息に移行し、呼吸困難を招くことも。夏になるとせきが出る「夏型過敏性肺炎」にも注意が必要だ。

「夏型過敏性肺炎は、トリコスポロンというカビを吸い込むことで発症するアレルギー性の肺炎です。トリコスポロンは築年数が長い古くて通気が悪い家や、畳や押し入れが多く湿気がこもりやすい家、エアコンにひそんでいます。トリコスポロンを繰り返し吸っているうちに発症するのですが、特徴的なのが夏になると症状が現れること、また家を離れると症状が緩和することです」

夏型過敏性肺炎には急性型と慢性型があり、急性型はカビを吸い込んでから4~6時間後に風邪のような症状が現れ、慢性の場合は月~年単位で症状が継続するという。激しくせき込んだり、階段を上がっただけでも息切れをするほど呼吸困難を感じるなどの症状が現れ、悪化すると肺の線維化が進む。

「夏型過敏性肺炎が発症しやすいのは、カビが発生しやすい6~10月です。罹患するのは40~50代の女性に多いのですが、この年代の女性が家事などで家にいる時間が長いからでしょう」

疾患の確定には医師の診断が不可欠。長引くせきはさらなる重病を招くこともある。早めに医療機関を訪れよう。

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