最低賃金の目安が8月4日、全国平均1千118円に決まりました。23年連続の引き上げで、2024年度から63円、過去最大となる6%の引き上げです。

実際の最低賃金は、これから各都道府県で審議されますが、目安どおりに引き上げられた場合、すべての都道府県で最低賃金が1千円を超えます。

国は「2020年代に最低賃金を1千500円にする」目標を掲げていて、達成には7%超の引き上げが必要でした。ですが、最低賃金は経営者と労働者、有識者が議論して決めるもの。国の意向より実際の経済データを重視して6%に落ち着いたようです。

日本の平均年収は世界的にはかなり低く、OECD加盟の38カ国中、日本は25位です(2024年)。また、昨今の物価高もあり、最低賃金の引き上げは必須でしょう。

ただ、企業にとっては人件費アップにほかならず、中小零細企業には厳しい面も。日本商工会議所が「2020年代に最低賃金を1千500円にする目標への対応」をたずねたところ、「不可能」や「困難」という回答が74%もありました(2025年3月)。急激な人件費の上昇は零細企業に重く、倒産に追い込まれる危険性もあります。

■社会保険料の負担を気にせず思い切り働くことをお勧め

もうひとつの論点が“106万円の壁”です。3年以内に、年金加入の要件から年収106万円が消え、週20時間以上の就労だけに変わります。ですが最低賃金が上がると、改定前に年収106万円が近づき加入を悩む方が増えるでしょう。

さまざまな事情があると思いますが、私は制限を設けず社会保険にも加入して思い切り働くことをお勧めしています。悩みの種である社会保険料は、年収106万円だと月約1万4千円です。手取りが減るのがつらいなら、月収を10万5千円に上げれば手取り9万円をキープできます。時給は上昇中ですから、収入をもっと増やす方向で考えてはいかがでしょう。

社会保険への加入にはメリットがあります。たとえば月収9万円で厚生年金に10年間加入すると、老後の年金が年約6万円増えます。社会保険料のうち厚生年金保険料は月約8千円。10年間に払う保険料は96万円ですから、16年で元が取れ、65歳からの受給なら81歳以降はもらい得が続きます。

ただし、ここでも問題は中小零細企業です。従業員が社会保険に加入すると、企業も保険料を負担する必要があります。2024年度に起きた税金や社会保険料が払えないための倒産は140件で過去最多(2月末までの集計、帝国データバンク)。加入者の増加による倒産がもっと増えるかもしれません。

最低賃金の上昇はいいことです。とはいえ最大の懸念は、人件費を抑えたい企業が、単発で仕事を請け負うギグワーカーへの依存を高めることです。ギグワーカーは雇用契約を結ばず、最低賃金法が適用されないケースが多いのです。

最低賃金上昇の陰で、取りこぼされる人がないようなきめ細かな施策を期待したいと思います。

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