依然として続くイスラエルのガザ攻撃や、ウクライナ戦争……。

加えて、忘れてはならないのが、くすぶり続ける“ホルムズ海峡”での紛争勃発の危機だ。

今年6月、イスラエルがイランの核施設へ攻撃を仕掛け、続いてアメリカもイラン国内の3つの核施設を攻撃。これに激怒したイランが、“ホルムズ海峡封鎖”に打って出るのでは、との懸念が広まり“オイルショック”の再来かと、世界に緊張が走ったことは記憶に新しい。

「一時期は状況の悪化が懸念されましたが、トランプ大統領の半ば強引な停戦の呼びかけに両国が渋々応じて、現在は小康状態を保っています」(全国紙記者)

しかし、この攻撃以後、イランは、国際原子力機関(IAEA)の査察を拒否。協議は続けているものの見通しは不透明だ。

「加えて、イスラエルがもくろんでいた“イラン政権の弱体化”も限定的に終わりました。

そのため、今後のイランの対応次第では、再びイスラエルがイランを攻撃する可能性も示唆されています」(前出の全国紙記者)

そうなれば、再び“ホルムズ海峡封鎖”の危機が訪れかねない。

■第1次オイルショックでは物価が23%急騰

イランとオマーンに挟まれたホルムズ海峡は、世界の石油・天然ガスの総需要の約20%が通過する海上交通の要。約9割の石油を中東から輸入している日本にとっては、まさに生命線ともいえる場所だ。

元・東京新聞論説兼編集委員で防衛ジャーナリストの半田滋さんも「イスラエルは再びイランを攻撃する」として、こう話す。

「6月の攻撃で、イランは核施設だけでなく弾道ミサイルなども相当数破壊され、イラン軍の最高司令官も殺害されました。これによって戦力がそがれ〈これ以上戦争を続けられない〉と判断したイランの最高指導者ハメネイ師は停戦に合意したのです。

しかし、イランの体制が変わったわけでも、核開発を放棄したわけでもありませんから、イランの軍事力や核施設が回復してきた時期を見計らって、再びイスラエルは攻撃を加えるはずです」

アメリカの国防情報局は、6月の攻撃によって、イランの核開発計画を「わずか数カ月遅らせただけ」と評している。

つまり、数カ月の遅れを取り戻し、核開発の再開などを始めれば、年内にも戦闘が起きる可能性があるわけだ。

「ホルムズ海峡封鎖という最悪の事態になれば、日本の物価高はさらに進む」と懸念を示すのは、経済産業省の元官僚で政治経済評論家の古賀茂明さんだ。

「ホルムズ海峡が封鎖されると、中東の原油が市場に届かず、供給不足になって価格が高騰します。そうなると、日本の貿易赤字は拡大し、円安が加速。国内のガソリン価格はますます高騰し、連動して光熱費や輸送費、食品などの値上がりも避けられません」

実際に、中東戦争によって第1次オイルショックが起きた1973年は、原油価格が4倍に高騰。日本では風評によりトイレットペーパーの買い占めが起こり、消費者物価の上昇率は戦後最大となる23.2%に急騰。1979年の第2次オイルショックでも、原油価格が3倍に、消費者物価指数は13.5%上昇した。

過去にホルムズ海峡が封鎖されたことはないが、今回、日本総研は、仮に封鎖された場合の原油価格は、2倍強となる「140ドル/バレル近辺まで高騰する」と予測を出している。

そこで本誌は、過去の原油価格やガソリン価格の推移を基に、ホルムズ海峡封鎖によって原油価格が140円/バレルに高騰した場合のガソリン価格を試算。円安や補助金なども考慮した。

その結果、ガソリン価格は、現在より約60~70円高の230円/リットル超えになるという結果に。

「日本は約6割以上の食料を輸入に頼っているので、原油価格の高騰や円安は食品価格に大きな影響を与えます」(古賀さん)

現在でさえ、物価高にあえぐ庶民にとって、ダメージは計り知れない。

いったい、どの程度の値上げ幅になるのか。

■ホルムズ海峡の封鎖で年29万円の負担増に

消費者物価指数等のデータを基に、原油価格の高騰や円安の影響を加味して試算した結果、冷凍食品で5~8%増、牛乳・ヨーグルトなど乳製品は3~5%増、カップ麺やパン類も5~15円増と、身近な食品が、軒並み大幅な負担増になる。

では、年間どれほどの支出増となるのか。

総務省の「家計調査」を基に、50代夫婦の4人家族(高校生の子ども2人)で年間所得が約720万円の場合、年間の負担額がどれほど増えるか試算した。

その結果、ガソリン代および光熱費が年間7万円増。外食を含む食費が10万円増。日用品や生活消耗品、運送にかかる物流費が5万円増。合計で年間29万円も支出が増えることがわかった。

物価が上がっても賃上げが進めば問題はないが、「トランプ関税がネックになり、とくに中小企業は賃上げどころではなくなる可能性がある」と古賀さんは語る。

前出の半田さんは、「ホルムズ海峡封鎖はイランにとってもリスクが高いので、実行に移す可能性は極めて低い」としながらも、「イラン・イラク戦争(1980~1988年)の際には、イランがペルシャ湾に機雷をまき、一部の海域が運航困難になった」と明かす。

こうした事態を招かないためには、平和を維持する必要があるのだが……。

「トランプ大統領の言動を見ていると、今後何が起きてもおかしくない」と前出の古賀さん。

アメリカやイスラエルが再びイランに攻撃を加えて窮地に追い込めば、ホルムズ海峡封鎖に踏み切る可能性もゼロということはないだろう。武力ではなく、対話で恒久的な平和を実現してほしい。

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