コロナ禍をきっかけに需要が急増した宅配サービス。ECや通販、フリマアプリなどの発展に伴い、配達員と対面せずに指定した場所での受け取りが可能な「置き配」が普及しつつある。

いっぽう宅配便等取扱個数は年々増加傾向にあり、国土交通省(以下、国交省)の発表によれば、24年度の宅配便取扱個数は50億3147万個にものぼった。10年連続で過去最多を更新し、50億個を超えるのは3年連続となる。

だが、物流業界におけるトラックドライバーの不足や、荷物の時間指定配達や不在対応による再配達など配達員の長時間労働は喫緊の課題となっている。

「国交省では宅配事業者の負担を解消するため、24年度の宅配便の再配達率を6%まで引き下げる目標を掲げていました。しかし今年4月の時点で、再配達率は9.5%と高止まりしている状況です。

そこで、宅配事業者が置き配をしやすくするため、貨物自動車運送事業法に基づく『標準宅配便運送約款』を見直し、置き配に関するルールを明記することが検討されています。また、置き配には盗難リスクの課題や個人情報の取り扱いなどの問題もあることから、国交省は有識者との意見交換を重ねており、今秋をめどに新たな約款の方向性をまとめるとのことです」(全国紙記者)

そんななか、ある報道が物議を醸している。読売新聞オンラインは9月13日、「『置き配』利用拡大へ支援、配達員によるマンションのオートロック開錠を共通化…防犯上のリスクは」(原文ママ)と題する記事を公開。

記事の冒頭には《国土交通省は、荷物を玄関先に届ける「置き配」の活用を進めるため、オートロック付きマンションへの配達を効率化する支援に乗り出す》との書き出しで、《配達員が共同玄関を解錠できる共通のシステム開発費用を補助する》と記されていた。

すでにヤマト運輸や佐川急便などでも、企業と提携して配達員がオートロックを解錠して置き配できるシステムが一部マンションで導入されている。しかし、配達員が入れないマンションもあり、再配達の削減効果は限定的だという。

記事では、国交省が宅配業者間で異なる伝票番号のつけ方や配送データの共通化について課題を整理し、支援に必要な費用を26年度の当初予算に計上する方針であることも伝えられた。

また、配達員の出入りに不安を抱く住民もいることから、国交省はシステムの導入にあたってマンション管理組合との合意なども促すという。

いっぽう最近では、神戸市のマンションで住人の女性が刺殺されるという痛ましい事件も起きたばかり。容疑者が被害女性の後ろについてオートロックをすり抜ける“共連れ”という手口を用いていたことから、オートロックの安全性に危機感が高まっていた。

そうした流れもあり、読売新聞の報道に対してネットニュースのコメント欄では、次のように防犯リスクを懸念する声が続出。オートロック解錠の共通化よりも、宅配ボックスの設置を支援すべきと考える人も少なくなかった。

《これでは何のためのオートロックなのか分からなくなる。再配達を減らしたいなら再配達料金を取る方がマトモな対策だと思います。国が支援するなら共通化ではなく、BOX設置支援のほうではないですか?》
《先日、神戸で女性が殺害された事件が有ったばかりなのに、こんな事をするとセキュリティが低下し、配達業者と一緒にマンションに侵入する犯罪者が増えると思う》
《オートロック付きマンションは防犯のために選んだのに、共通開錠にしたら安心感がなくなります。住人ですら共通番号は持っていないのに、宅配業者に与えるのはリスクが大きい》(全て原文ママ)

また、実業家の“ひろゆき”こと西村博之氏(48)は14日に更新したXで、読売新聞の報道を引用し、《宅配便の再配達問題だけど、マンション住民が宅配ロッカーを置くなりすれば良くない? なんで、税金でマンションの整備せなあかんの?》と疑問視していた。

そこで本誌は16日に国交省を取材し、読売新聞の報道が事実かどうか、安全面についての見解などを尋ねた。すると物流・自動車局の物流政策課の担当者は、読売新聞の報道を把握しているとした上で、こう説明していた(以下、カッコ内は全て担当者)。

「国交省がそのようなシステムを開発したり、導入を支援したりするものではありません。

あくまで、すでにオートロックでも置き配ができる民間サービスを利用されている方々が多くいらっしゃることから、この仕組みに関してセキュリティの確保や異なる宅配企業間での連携を促進しております」

読売新聞の報道内容を否定したかたちだが、報道については「やや偏向報道であるという認識です」とのこと。また、オートロック解錠の共通化について具体的な安全面の施策を尋ねると、「防犯が大前提という認識で、どういった要件が必要なのか今後検討していく可能性はあると思います」との回答にとどまった。

宅配事業者の負担を軽減し、国民の安心・安全も守ることはできるだろうか。

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