今回は、そんな迷惑客に理不尽なキレ方をされてしまった女性のエピソードをご紹介しましょう。
友人のカフェを手伝うことになった私
斉藤美加子さん(仮名・33歳/主婦)は、友人の夏菜さん(仮名・34歳)が経営するカフェの手伝いを頼まれました。「なかなか新しいバイトが決まらないので、しばらくの間ランチの混雑が終わった14時~18時までの時間に手を貸しいとお願いされました。でもその時間はお客さんが少ないのでほぼワンオペ状態だと聞かされて、ちょっと二の足を踏みましたね」
ですが美加子さんは学生時代に飲食店でのバイト経験があり、夏菜さんもできる限り手伝いにきてくれるというので働いてみることにしたそう。
「お客さんは数組しか来ないと思うし、仕込みや掃除が主な仕事だというので、それならできるかなと思いました」
「お姉ちゃん、砂糖補充して!」噂の迷惑客が来店
手伝うにあたり、ワンオペの他にもひとつ引っかかったのが、夏菜さんの言葉。「その時間帯に、うちの店で有名な迷惑客が来ると思うの。60代後半くらいの男性で、なんでもすぐ持ち帰ってしまうんだけど、注意しなくていいから。逆上してかえって面倒なことになるだけだし、私が何度も注意しているし激しく言い合いになったこともあるけど、全く懲りる様子もなく来店し続けるんだよね」
でも注意しないでいいと言ってくれているし、いざとなったらすぐに夏菜さんを呼び出してもいい約束になっていたので「大丈夫かな」と思った美加子さん。
「そしたら、さっそく私がワンオペの時に、その迷惑客が来てしまったんですよ。私が見ていない隙に、テーブル備え付けのスティックシュガーを全部鞄の中に隠し入れたようでした。『ほらお姉ちゃん、砂糖がないよ! 補充して』と言ってきて、あぁコイツだ! とすぐにピンときましたね」
迷惑行為を見過ごせず、つい注意したら
その後も不自然に、自らカウンターに何度も水を取りに来ては、その横のカゴに山盛りに入っているコーヒーフレッシュやガムシロップを掴み取るとポケットにしまっているのを目撃したそう。
すると迷惑客は顔を真っ赤にして「何なんだお前は! こっちはお客なんだぞ!」と烈火のごとく怒り狂いだしました。
「海外では取られても当たり前だ!」
「私がビビりながらも『お客さんだからといって、好きなだけコーヒーフレッシュやガムシロを持って帰っていいということはないと思います。使う分だけお取りください』と言うと、『うるさい! 俺は海外暮らしが長いエリートで、お前みたいなザコとは違うんだ! 海外では置きっぱなしになっているものは取られても当たり前で、そっちの管理が甘いんだ』とわけの分からないことを鬼の形相で怒鳴り出しました。「あぁ、夏菜の忠告通り注意なんかするんじゃなかった」と美加子さんが後悔していた、その時です。
迷惑客に立ち向かう、迫力美女が登場
迷惑客の斜め前の席でコーヒーを飲んでいた女性客が立ち上がり、帽子とサングラスをサッと取ると「ちょっとおじさん! 海外にいたのを理由にして、あなたの窃盗行為を正当化するのやめてもらえませんか? 私はイタリア人ですけど、そんな話は聞いたことないですし、当たり前ですけどどこの国でもそんな理屈は通りませんよ」と流暢な日本語で迷惑客にたたみかけたそう。
あの女性客がまた来てくれるのを待っています
その後すぐにその女性にお礼を言いに行くと「実は私、日本生まれの日本育ちで、イタリアも海外も行ったことがないんです。でもあのおじさんの理不尽な振る舞いが耐えられなくて、つい外国人ぶってしまいました。本当は日本のことしか知らないくせにね」とクスクス笑いながら話してくれました。「あの迷惑客を追っ払ってくれた女性の勇気に感謝しつつ、私も一緒になって笑って、なんていうかすごく胸がスーッとしたんですよね」
それ以来、その迷惑客はぱったりとお店に現れなくなったそう。
「夏菜にそのことを話したら『なんとしてもその女性にお礼とお詫びがしたい。今度いらっしゃったら、すぐに私を呼んで!』と興奮気味に私の肩を掴んで揺らしてきました(笑)」
「それ以来、私と夏菜は、彼女がまた来てくれるのをとても楽しみに待っているんですよ」と微笑む美加子さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop