歌手のGACKTは5月28日、自身のX(旧Twitter)で電車恐怖症になった理由を明かした。その内容は、17歳だった学生時代に満員電車に乗っていた時、40代くらいの女性から痴漢行為を受けたことを赤裸々に綴るものだった。


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「身動きが取れないほど人に溢れていた車内で、吊り革を両手で持ってなんとか姿勢を保っていた」と当時の状況を振り返り、「何故かその女性は小声で『アツい、、、』と言いながら胸元をパタパタと開く」「股間にコンコンとその女性の手が当たる」と痴漢被害の詳細を説明。

 ただ、「もし、この状況で彼女の手を掴んだ瞬間に、『きゃーっ、痴漢!』と叫ばれたらどっちが痴漢と思われるだろうか? 間違いなくボクの方」と逆に自分が痴漢を疑われることを危惧して、何もできずにいたという。そして、「駅に到着して扉が開きすぐに降りた。そして、膝から落ちた。心は下向き。だが、下半身は上向き」とユーモアを交えながら、当時の屈辱を語っていた。

なぜこのタイミングで告白したのか

 もともと、5月24日に放送された、ダウンタウン・浜田雅功と街ブラロケをするバラエティ番組『ごぶごぶ』(MBSテレビ)に出演した際、GACKTは「電車に乗るのは実に30年ぶり」だと話す一幕があった。

 浜田から「電車に乗れなかった理由」を聞かれた際、「閉所ですね」と回答。続けて、「あと、若いころに電車に乗った時に」と別の理由を話そうとすると、GACKTの声は放送上では効果音でかき消されていた。今回Xに投稿した背景には、その理由を改めて説明する意図があったことがうかがえる。

男性の性被害は「面白い」? 軽視して茶化す風潮

 冒頭のGACKTの投稿には、過去に出演したバラエティ番組で電車恐怖症になった理由を語った時の動画が添えられていた。GACKT自身が“ネタっぽく”話していたことに加え、時代背景の影響もあってか、周囲の男性タレントたちは面白がって聞いていた。

 実は、性被害を受けた人が、「身体が反応した」ことで罪悪感を抱き、人知れず苦しむケースは少なくない。これは単なる生理現象であり、“同意”や“喜び”とは無関係であるにもかかわらずだ。
この罪悪感は男女を問わず共通するものだが、男性の場合はより打ち明けづらかったり、被害だと認識しにくくなったりする傾向があるとも指摘されている。

 今回のGACKTの告白にはコメント欄に同情の声が多く寄せられている一方で、茶化すような声も少なくない。男性の性被害は、アダルト作品や漫画などの影響なのか「ラッキー」や「面白いネタ」と結び付けられやすい。また、「性被害=男性が加害者、女性が被害者」というイメージも根強い。時代が変わった今も、男性の性被害はどこか軽視されているように思う。

“ネタ”にされることで、被害告白のハードルが上がる

 性被害は決して“ネタ”ではない。GACKTがその後何十年も電車に乗れなかったことを考えれば、決して小さくない精神的苦痛を受けたことは容易に想像がつく。男性の性被害が軽んじられる状況は、男性が性被害を告白するハードルを上げる。さらには「自分が被害者である」と認識することすら難しくしてしまうのではないか。

GACKTの“痴漢被害”告白を「笑い飛ばしてる場合じゃない」理由。男性の性被害は“ネタ”や“ラッキー”なのか
写真はイメージです(以下同じ)
 性被害といえば、セクハラや性虐待、性的暴行の被害者が自身の経験を告白・共有する国際的な運動「#MeToo運動」が注目を集めた。MeToo運動は決して女性限定ではないが、少なくとも日本では、MeToo運動の力を借りて男性が被害を告白するのは難しいように思えた

 男性に特化したムーブメントを作るためにも、今回のGACKTの勇気ある告白を、男性の性被害について考えるキッカケにしていきたい。

「何をされているかわからなかった」性被害の瞬間

 実を言うと、GACKTの投稿を受けて「他人事とは思えなかった」。というのも、筆者も中学生時代に痴漢被害に遭ったことがあるからだ。


 当時は電車通学をしており、下校中に中学校の最寄り駅のトイレから出ようとした時、同じ中学校の全く面識のない男子生徒とすれ違うタイミングで、急に股間を握られたことがある。

 その瞬間、「あれ? 今何をされているんだ?」「この人知り合いだっけ?」「こういう時ってどうすればいいんだ?」とパニック状態に。抵抗することはおろか、声を出すこともできずにいると、その男子生徒は走ってその場を去ってしまった

誰かに話す方法が“ネタにする”しかなかった

 不快感に胸を締め付けられたが、自分が性被害者になる日が来るとは想像もしなかった。どう対応していいかわからず、結局は警察や教師、親にも報告しなかった。

GACKTの“痴漢被害”告白を「笑い飛ばしてる場合じゃない」理由。男性の性被害は“ネタ”や“ラッキー”なのか
教室
 それでも、頭の中のモヤモヤを発散したくて、「この前、下校中にこんなことがあってさ~」と友達に話す“面白エピソード”として昇華させた。今振り返れば、痴漢被害を自分の胸にだけ留めておくことができなかったものの、それを口にする術(すべ)を「ネタにする」しか持ち合わせていなかったのだと思う。

 性被害に遭うことも辛いが、それを話せないことの精神的苦痛も大きい。性被害で苦しむ人をなくすためにも、男性の性被害を軽視したり、ましてや茶化す風潮は改めるべきではないか。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。
X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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