同作を出世作とした玉木が、時を経て出演する『情熱大陸』(2025年6月1日放送回)を見て、感慨深くなった視聴者は多いはず。
男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、『情熱大陸』玉木宏出演回を解説する。
玉木宏の印象的な横顔
全編(CM込み)30分という決して長くはない番組尺の構成上、『情熱大陸』玉木宏出演回では、玉木のふたつの印象的な横顔で大分している。ひとつは番組冒頭、もうひとつは番組中盤に位置する。いずれも玉木宏という俳優の、今の生き方そのものがにじみ出るような横顔だった。順を追って見てみよう。まず冒頭から。2025年に開催した写真展『Roots』用に、玉木の祖父が生まれ育った隠岐諸島の飾らない風景にカメラを向ける。ファインダーをのぞき、被写体の動きを捉え、今まさにシャッターを切ろうとする、その横顔。番組冒頭場面としては申し分ない絵の力で、玉木は視聴者をぐんぐん魅了する。
もうひとつ番組中盤に配置された横顔は、2023年に世界大会にも出場したブラジリアン柔術に取り組む表情。都内の道場で指導もする玉木にカメラが向けられる。
ワンカットが強く物語る

上述したひとつ目の横顔もたぶん、あまたの映像素材からそのワンショットを冒頭にもってくることで、「これだ!」と映像ピースがはまったはず。そうやって選び抜かれているから、たかだかワンカットの横顔が強く効果的に物語る。
実際、この横顔を導入として、オーバーラップするのは、玉木の過去である。番組ナレーションが導く。2006年に放送されるや、カリスマ指揮者役を演じた玉木をスターダムに押し上げた『のだめカンタービレ』。強く物語る横顔から過去作へつながる必然的な美しさ(!)。
20年近く経てあえて高音を駆使する
『のだめカンタービレ』全編で使われるクラシック音楽とともに随所で際立つ響きがある。上野樹里演じるピアノ科の天才・野田恵から追い回される千秋真一(玉木宏)が「ヒィィィ!」と悲鳴のような声をあげるリアクションである。洗い上げられたように白いYシャツと精悍なジャケットスタイルで、洗練されたクールを極める千秋だが、この悲鳴が不思議と愛されるチャームポイントとなっていた。同作中、玉木宏のクールでユーモラスな表現力が絶妙に際立つ、このリアクション。
同作出演時、玉木は26歳だった。
体当たり仕事もやっていた22歳
『世界サブカルチャー史 欲望の系譜』(NHK)のナレーションや『ジュラシック・ワールド』(2015年)主人公の吹き替えなど、声の仕事も多い玉木が、収録ブースで画面を見ながら高音で声をあてるのは、テレビ東京で子ども向け番組として放送されている『シナぷしゅ』に登場するタオルの妖精・にゅうである。玉木が声を吹き込むにゅうは、台詞があるわけじゃない。ただ「ニュウニュウニュウ」とひたすら発する。それでもシチュエーションに合わせて微妙に調整してみる。その中で、低音寄りの「ニュウ」など、ひとつの「ニュウ」でも、玉木が発するとバリエーションは意外と豊富になる。
現在45歳の玉木は「ニュウ」だけでも表現を極めてしまう。『情熱大陸』では『のだめカンタービレ』以前の出演作として『ウォーターボーイズ』(2001年)など、まだアルバイトをしていた20代前半時代の遍歴を紹介していた。
22歳のときに出演した『世界ウルルン滞在記』(TBS系)では、エチオピアのコンソ族の前で全裸になるという芸人並みの体当たり仕事なんかもやっていた。今や、高音から低音までの「ニュウ」だろうとなんだろうと、挑戦できるのが現在の滋味深い表現性である。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。