初出演を受けてネット上は大いにわいた。特に平成世代の視聴者はより「エモい」と感じたはず。
男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、歴代平成ドラマを振り返りながら、朝ドラ初出演である妻夫木聡を解説する。
フジテレビ作品とともにある初期
妻夫木聡の俳優デビュー作は何だったか。1998年に放送されたフジテレビヤングシナリオ大賞受賞作のドラマ化作品『すばらしい日々』である。妻夫木の初期はフジテレビドラマ作品とともにある。竹野内豊主演ドラマ『できちゃった結婚』(フジテレビ系、2001年)もまた忘れがたい。竹野内演じるCMディレクター・平尾隆之介が軽薄きわまりないキャラなのだが、隆之介の後輩・新庄巧を妻夫木が演じていた。
第1話冒頭、編集室で隆之介が編集指示をする印象的な場面がある。その隣に新庄が座っている。タバコを咥えている隆之介が指示を出してパッとカットが替わり、新庄が隆之介の方へサッと顔を向ける。編集指示出し場面だけに、俊敏な動きをしてみせる妻夫木の、この瞬発力とベタな演技がとにかく見事。
ゆるくも手際がいいゼロ年代ドラマ

そのあと、出勤前に必ず立ち寄るカフェで持ち帰りコーヒーを注文する場面が、ヒロインとの出会いの発端となる。気だるく、ゆるくも手際がいい展開力が、ゼロ年代の恋愛ドラマの作劇マナーだったかもしれない。
こうした当時の特性が月9作品として少なからず描かれたのは、桐谷美玲と山﨑賢人による共演ドラマ『好きな人がいること』(2016年)までだっただろうか? いずれにしろ、妻夫木聡が体現していた平成の空気感はそろそろ歴史的な文脈として語られるべき時期にある。
平成的でありながら令和に新たな存在感を刻む

妻夫木演じる主人公が、タイトルにある美女缶なる代物を手に入れて自宅の浴槽で理想の女性を誕生させる。現代のコンプラ的にはいろいろ怪しい物語ながら、ネット上では懐かしいという声が散見された。平成世代の視聴者ならなおさらのこと。同作放送がエモかったのではないか。
妻夫木に対するエモ機運のちょっとした祝祭ムードをさらに盛り上げてくれたのが、今田美桜主演の朝ドラ『あんぱん』への出演である。
第10週第50回ラスト、北村匠海演じる二等兵・柳井嵩がまごついているところへ、画面奥からかつかつ靴音を鳴らして妻夫木演じる上等兵・八木信之介が初登場した。
廊下を歩いてきて初登場して、廊下を歩いて戻って画面からフレームアウトする。この往復にはどこか内に秘めた気だるさがあり、それは平成を象徴する妻夫木がまとう気だるい空気感の延長にあるのかもしれないと思った。
それでいて演技はガツンと明確。意外にも朝ドラ初出演だというこの初出演回が「美女缶」放送後ということもあり、平成的でもありながら令和に新たな存在感を刻もうとする意気込みを感じる。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu