木村葵さん(仮名・38歳)の義父母は2年前、YouTubeをスタート。
ひとり娘と義父母の微笑ましい姿に癒されていた日々

「親である自分たちが言うのもなんですが、娘は客観的に見ても外見が整っていて。ママ友や近所の人から『本当にかわいい子ね』とか『将来が楽しみね』とか言われるので嬉しい反面、危険なことに巻き込まれないか不安なんです」
隣県に住む義父母も、そんな愛華ちゃんをとてもかわいがっていました。月に1回は必ず愛華ちゃんに会うため、葵さん宅へ。「おもちゃが欲しい」や「お菓子がほしい」など、愛華ちゃんのわがままを叶えるため、走り回ってもくれました。
義父母は年金暮らし。『贅沢なことはできないけれど……』と言いつつ、そうやってさりげない愛情表現をしてくれたそう。
早くに両親を亡くした葵さんは、義父母にかわいがられている愛華ちゃんの姿を見ると、心が温かくなったと言います。
「自分の親がもし生きていたら、こんな風に愛華をかわいがってくれてたんだろうなって想像できて。だから、義父母が訪ねてくることを煩わしく思ったことはありませんでした」
「生活費の足しに…」と義父母がYouTuberデビュー

「物価が上昇する中での年金生活が苦しくなったからだと言っていました。外で働くのは体力的に難しいので、家でできる仕事を探していたら、YouTuberという選択肢があることを知り、挑戦してみたいと思ったそうです」
葵さんは結婚前、YouTubeチャンネルを開設し、動画を投稿しました。その中で、YouTuberとして収益を得ることの厳しさを痛感したため、義父母に自身の経験を伝え、他のリモートワークを勧めました。
ところが、義父母の気持ちは変わりません。
「どちらかが亡くなった後、『こういう日もあったな』と、自分たちの日常を振り返るためにもやりたいんだと言われたら、もう何も言えなくなりました」
そこで、数ヶ月かけて動画編集や投稿の仕方などを義父母にレクチャー。挑戦したいという意思が強かったからか、義父母は葵さんの想像を超えるスピードで知識を習得していきました。
「正直、教える中で挫折するだろうなと思っていたので驚きましたね。自分たちだけで編集や投稿をした初めての動画リンクが義父母から送られてきた時は嬉しくて、涙が出るほどでした」
YouTubeが上手くいかず、落ち込む義父母に「温泉旅行」をプレゼントしたら…?

しかし、赤の他人からしてみれば「面白みに欠ける動画」と判断されるのか、義父母のチャンネルは再生回数も登録者数も全く伸びていませんでした。
「収益化なんて、夢のまた夢といった状態で……。さすがに、義父母も落ち込んでいましたね」
そんな状況を見かねた葵さんは少しでも気分転換になれば……と思い、義父母を誘って家族みんなで1泊2日の温泉旅行へ。義父母はとても喜んでくれましたが、義母から「この旅行も後から見返したいから動画に残してもいい?」と聞かれ、葵さんはモヤモヤ……。
そこで、「YouTubeには投稿しない」という条件つきで動画の撮影を許可しました。
しかし、旅行から2週間ほど経ったある日、葵さんがふと義父母のYouTubeを見ると、そこには、温泉旅行の動画が投稿されていました。
「しかも、娘の顔にモザイクをかけ忘れているシーンがあって…」
再生回数を見ると過去最高。また、「一部、モザイク取れていましたが、孫娘さんすごくかわいいですね」や「孫娘さん、いくつですか?」などのコメントがリプ欄に殺到していました。
「娘は客観的に見ても整った顔をしている子だから、危険なことに巻き込まれないように守ってきたのに。これまでの努力が無駄になったような気がしました」
義母に抗議の電話をしたら「ありえないお願い」をされた

すると、義母は「ごめんね」と謝りはしたものの、「でも再生回数が明らかに増えたし、このままいけば収益化も夢じゃないって希望が持てたわ。ありがとう」と的外れな感謝を言ったそう。
義母がこんな考えの人だったとは……。葵さんは思わず、絶句してしまいました。
「そしたら、義母はさらにありえないことを言ってきたんです。『また、愛華ちゃんとのお出かけをYouTubeに投稿したいんだけど、どうかな? できれば、モザイクはナシがいいなってお父さんと話してて……』って。」
その言葉を聞いた葵さんは「本気で言ってます? あなたたちがしようとしてることの卑劣さを、自分たちでよく考えてください。私は、こんなことのために動画投稿の知識を教えてわけじゃないです。それと、温泉旅行の動画は絶対に消してくださいね!」と伝え、電話を切りました。
その後、温泉旅行の動画は消され、葵さんはひとまず娘を守れたと安堵したそう。しかし、ひとつだけ心が痛むことが……。月1回、会えていた義父母と疎遠になったことで愛華ちゃんは寂しさを感じたのか、「おじいちゃんとおばあちゃんに会いたい」と泣くようになったのです。
「あの人たちに娘を会わせたくないけれど、娘が泣くのも辛い。この先、どういう関わり方をしていけばいいのか悩みます」
YouTubeは規模が大きな動画共有サービスだからこそ、使い方を間違えると、親しい人との間に大きな溝ができてしまうこともあるもの。葵さんの義父母にはまず、自分たちがしたことの重みや葵さんが怒ったことの意味をしっかりと理解し、謝罪してほしいものです。
果たして今後、愛華ちゃんが望む“義父母との再会”は実現するのでしょうか。
<取材・文/古川諭香>
【古川諭香】
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。