毎年、夏の海では子どもが溺れる痛ましい事故が起きています。『「海のそなえ」水難事故に関する調査サマリー』(日本財団「海と日本PROJECT」)によれば、水難者数は年間約1600人にのぼり、死者・行方不明者数は年間約800人。
死者・行方不明者の発生場所のうち約51%が海という結果が出ています。

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 そこで女子SPA!では、公益財団法人・日本ライフセービング協会の田村憲章さんに取材。今回は「海で遊ぶときに気をつけてほしいこと」や「浮き輪やライフジャケットの正しい使い方」など、子どもたちの命を守るために知っておきたいことを聞きました。

浮き具はあくまで遊具、命を守るものではない

――子どもが海に入る時、ラッシュガードや浮き輪など必ず必要なアイテムがあれば教えてください。

田村憲章さん(以下、田村):私たちライフセーバーがお伝えしているのは、「浮き具は命を守るものではない」ということです。浮き具はあくまで補助的な遊具であり、風に飛ばされたり、手を放してしまえば、一瞬で危険な状況に変わります。ですから、浮き具を使う場合は、必ず足のつく場所で。そうでない場合は必ずライフジャケットを着用してほしいです。

海でよく見る「非常に危険な遊具」とは? ライフセーバーが警鐘。安全なつもりが“命取り”にも
公益財団法人・日本ライフセービング協会の田村憲章さん
――浮き具はあくまで「遊具」というカテゴリなんですね。

田村:特にイルカやシャチ型といった大型フロートは非常に危険です。最近はフラミンゴなど動物の形をした大型フロートが増えています。我々も、大型のフロートを使用している人のレスキューにあたることが多く、持っている人を見かけたらかなり注意を払うようにしています。

ライフジャケットは基本装備、でも合わないサイズは逆に危険

――浮き具はむしろ、注意すべきアイテムですね。

田村:実際に、海水浴場では「浮き具」使用者の救助が多く、沖に流された人の55%が「浮き輪」を使用していたというデータもあります。


 イルカやシャチなどの大型のフロートは風の影響を非常に受けやすく、つかまる場所も限られているため、一度落ちてしまうと、足がつかない場所では再び乗ることが難しいんです。浮き具を使うのであれば、必ず「足のつく場所」でのみ使用し、流されるリスクが常にあることを忘れないでください。

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参考:『「海のそなえ」水難事故に関する調査サマリー』日本財団 海と日本PROJECT
――では、ライフジャケットを着けていれば安心でしょうか?

田村:ライフジャケットは命を守るための基本装備ですが、体に合っていないサイズでは脱げてしまったり、逆に首が締まる危険性もあります。購入時には必ず試着をして、体に合ったものを選び、子どもの場合は股をくぐる紐を含めて正しく着用することが、命を守る第一歩になります。ライフジャケットを正しく着用していれば、流されることはあっても、沈みにくくなります。

海で事故が起きたとき、誰が助けてくれる?

――海でトラブルが発生したときは、どのようにライフセーバーに助けを求めればいいのでしょうか。

海でよく見る「非常に危険な遊具」とは? ライフセーバーが警鐘。安全なつもりが“命取り”にも
海で遊ぶ子ども
田村:「何かあったらライフセーバーや監視員など、誰かが助けてくれる」と思いがちですが、残念ながらライフセーバーが常駐している海水浴場は、全国のうち約3割にすぎません。

 ボランティアで見回っている地元の方がいる場合もありますが、そうした方は救助訓練を受けておらず、緊急連絡を入れることしかできません。溺れたとき、必ずしも誰かが助けてくれるとは限らないんです。ですからやはり、お子さんからは目を離さないという意識が大切です。

 ライフセーバーの配置情報については、日本ライフセービング協会のウェブサイトなどで事前に確認できますので、海に行く前にチェックしておくと安心です。

子どもから絶対に目を離さず、一緒に楽しみ、安全に帰る

――この夏、家族で海に行く方に向けてメッセージをお願いします。

田村:「うちは大丈夫」「泳げるから平気」ではなく、「何が危険なのか」を知ったうえで、しっかりと備えて海に向かってほしいと思います。
私たちライフセーバーも常に状況を見守っていますが、すべての利用者に目が届くわけではありません。お子さんからは絶対に目を離さず、一緒に楽しんで、安全に帰ってほしいです。

 とても楽しい海遊びですが、安全に楽しむためには、正しい知識と注意が必要です。浮き具に頼りすぎないこと、足がつく場所から離れないことなど「身を守る知識」を身につけることが大切です。親子で声をかけ合いながら、安全に、そして思いきり海を楽しんでくださいね。

【田村憲章】
公益財団法人日本ライフセービング協会 常務理事/JLAスポーツ本部長。泳ぐことの楽しさや水辺の安全教育の普及に力を入れ、全国で講演や研修、指導を行う。現在も千葉県を拠点にライフセーバーとして現場に立ち続けている。

<取材・文/大夏えい>

【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作。
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