「謝れない彼氏」との苦い日常
「自分の彼氏が長年“謝ったら死ぬ病”におかされ続けている」と表情を曇らせながら語る女性に話を聞きました。前島かなさん(仮名・32歳)がこう話します。「35歳の彼氏は、どれだけ自分が悪くても謝らない。まるで謝罪の言葉を言えない呪いにかかっているのかというくらい嫌がるんです。
例えば彼の足がテーブルにあたってコップの水がこぼれてしまったとき、とっさに出てくるのは『あ、ごめん!』ではなく、『なんでこんなところにコップがあるんだ!』という言葉です。手がぶつかったときは、『邪魔!俺じゃない(俺が悪いんじゃない)からな!』と、すぐ自分に非がないという主張をして怒るんです」
起きてしまったことはささいなことなのに、なぜそれほどまで「ごめん」の一言が言えないのでしょうか。
「私も気になって彼に聞いてみたんです。そしたら『なんか負けた気がする』と。それが相手に対してなのか、自分のプライドに反するからなのかは分かりません。そもそも、誰と戦っているのか、なぜいつの間にか“戦っているつもり”になっているのか理解できませんでした。
ただ“あきらかに自分が悪い”と分かっているとき彼はきまって、『悪かったと思ってる』『謝りたいとは思ってる』と言うんです。でもそれは“謝罪”ではないですからね。
「ごめんなさい」が言えない人の心理
前島さんは、彼のこれまでの人生や心のモヤモヤをゆっくりと聞き出すことにしました。
でも少しでも理由が知りたかった。彼いわく、『子供の頃に言葉遣いやしゃべり方、頭の回転があまりよくなくて、相当周りの友達や大人にバカにされた』というんです。だから謝るということは、自分すら自分を否定することになると。
それに加えて彼はすごく負けず嫌い。そんな性格も相まって、非を認めて謝ることは自分を否定することになる、自分を守るためにも『謝らない』という選択肢になると。……いやいや、知らんがな!って言いたいです(笑)」
「でも」「だって」自分を守るための言い訳のオンパレード
これまで周りの言動に傷ついてきたからこそ、自分を過剰に守ってしまう……。ただそれは周囲の人々にとって、誰しも納得できる理由にはなりません。現実では自分の首を絞めてしまうことも。
上司が自分の言動と向き合うように諭しても、次に出てくる言葉は『でも』とか『だって』と、自分を守って周りを責めるような言い訳の言葉ばかり。結局彼は職を転々として、どこの職場でも人間関係のトラブルを理由にすぐに辞めていました」
とにかく“謝ることのハードル”が高いようです。
「『謝ることは負けることじゃないし、自分を否定するわけでもないよ』と彼に伝え続けていたのですが効果はなくて……。謝れない理由があっても、だからといって周りに迷惑をかけていいことにはならないと思います」
浮気発覚でも「ごめん」が出てこない男
「公私ともにストレスが積み重なっていた」という前島さん。そんな彼と別れを決意する決定的な事件が起きたそうです。「ズバリ、浮気です。それも3股されていました。発覚したのは彼のスマートフォンにメッセージアプリが表示されていて、それを見てしまったのです。
問い詰めたら開き直って、『お前が仕事ばかりでずっと寂しかった!』とか、『付き合い始めた2年前に比べて、明らかに俺への愛情が減った』『化粧やおしゃれが手抜きすぎて、雑に扱われているみたいで悲しかった』と。すごいですよ。見事に『ごめん』という一言が思いっきり抜けていたんです(笑)。結局、一度も言われませんでした」
どの理由も、だからといって浮気をしていいという理由にはなりませんよね。

たとえば、自分と他人の運転する車同士がぶつかって交通事故を起こしても、『すみません!大丈夫ですか!?』という言葉よりも先に、なぜぶつかるような事態になったのか、道が悪いとか車が不調だとか屁理屈ばかりを並べて一切謝らないようなイメージです(笑)。
私が知らないだけで、彼はこれまで辛い思いや壮絶な経験をしてきたのかもしれません。でも、それを私が一緒に抱える必要はないです。『いや、知らんがな!!!』の一言に尽きるというか。身近な人を傷つける人と一緒にいても、このまま幸せになれるとは思いません。
私は私を守ってあげたいし、優しくしたい。だから彼の『でもでも、だって』と屁理屈や自己嫌悪ポエムを聞く前に、『別れよう!バイバーイ!』とだけ伝えました(笑)」
謝ることは決して負けではありません。自分を振り返りつつ、謝れる人こそ強い人なのかもしれません。
<取材・文/赤山ひかる>
【赤山ひかる】
奇想天外な体験談、業界の裏話や、社会問題などを取材する女性ライター。週刊誌やWebサイトに寄稿している。