40歳を超えてから、スタートアップ企業である「令和トラベル」に転職。
第10回となる今回は、大木さんの考える「親子旅の価値」について深ぼっていきます。
子どもがいても、旅はできる。親子旅が教えてくれたこと
「子どもが生まれたら、旅なんてもうできない」「子どもができて、旅が遠のいてしまった」
たしかに、子どもとの旅はひとり旅や夫婦旅とはまったく違います。準備や行き先の選び方、体調管理や荷物の多さ……ハードルを感じるのも無理はありません。それでも私は、旅にしかできない学びがあり、親子で旅をすること自体に深い価値があると信じています。
実際に、子どもを連れてたびたび海外に出かけ、オーストラリアへの母子留学、ニューヨークやバンコクでの長期滞在、現地サマースクールへの参加など、さまざまな親子旅を重ねてきました。
限られた休暇でも、旅をあきらめないことで得られたものは本当に大きく、旅が子育てを豊かにしてくれていると思っています。
今回、そんな旅をもっと自由に楽しんでいる子連れ旅専門家・かかさんとお話する機会がありました。娘さんと一緒に2度の世界一周を実現し、今も世界を旅しながら暮らしているかかさん。
この対談を通じてあらためて感じた「親子旅の本当の価値」について、今日は綴ってみたいと思います。
世界を旅しながら暮らす、子連れ旅専門家・かかさんとは?

旅の中では、現地のスクールやデイケアに娘さんを通わせながら、土地に根を下ろすように滞在を楽しんでいます。いわゆる「旅行」というよりも、「移動しながら暮らす」という生活スタイル。
そんなかかさんが旅を始めたのは、18歳の頃。当時からバックパッカーとして世界を巡り、幼い頃にお父様の仕事で海外に滞在していた影響から「世界は広い」という感覚を自然と持っていたと話してくれました。
結婚後もその感覚を大切にし、「子どもにも世界を見せたい」という思いから、子連れでの旅をスタートさせたそうです。就学前の6歳の娘さんと4か月半の世界一周を実現し、小学2年生のときにはなんと2度目の世界一周へ。親子で世界中を旅する日々を、ブログやSNSでも発信されています。
そして今、滞在先のカンボジアでは、クラウドファンディングで建てた小学校の開校式に立ち会うために現地入り中。その行動力と実行力には、本当に頭が下がります。
一見「特別な人」に思えるかかさんですが、お話してみるととても自然体で、「親子旅を楽しむ」ことに正直で、自由で、しなやか。この対談を通じて、親子旅をもっと自分らしく楽しんでいいんだ、と感じさせてくれる存在でもありました。
「世界にはいろんな選択肢がある」かかさんが親子旅を続ける理由
かかさんが娘さんとの旅を続ける理由。それは、「世界にはいろんな選択肢がある」ということを、肌で感じてほしいからと言います。日本では、「みんな一緒でなければならない」「周囲と足並みを揃えるべき」という空気が、子どもたちにも大人たちにも漂っています。
でも、世界に目を向ければ、考え方も生き方も、本当にさまざま。どれが正解で、どれが間違いというものではなく、「こういう在り方もあるんだ」と受け止める力を身につけてほしいと、かかさんは語ってくれました。
さらに印象的だったのは、「英語力よりも、自分の興味を深く掘り下げる力のほうが大切」という考え方でした。
実際、娘さんは日本では公立の小学校に通っていて、特別な英語教育を受けてきたわけではありません。それでも旅先では、言葉が通じなくてもジェスチャーや表情で現地の子どもたちとしっかり交流し、楽しそうに遊んでいるそうです。
「言葉ができない=困る」と大人が思い込んでいるだけで、子どもたちは案外、壁を感じていないのかもしれません。「言葉が通じない」ことが、必ずしも「伝わらない」ことにはならないという気づきは、親であるかかさんにとっても大きな発見だったと言います。
このお話から、旅の目的は「語学に限らない」というのは私も深く共感します。大人も、つい、目の前にある世界のみに固執し視野が狭くなることがあります。我が子を見ていると、子どもは人生の時間軸も短いので、よりその傾向が強く、今の学校で上手くいかないだけで、大きく自信を失ってしまうこともありました。親子の世界が広がることは、語学の習得以上に大きな価値を感じています。
大切にしているのは「子どもファースト」になりすぎないこと

でも、それ以上に大事にしているのは、「子どもファーストになりすぎない」という考え方だそうです。
「子どもだけの旅じゃないから、親も楽しんでいいんです」
この言葉には、旅だけでなく、子育てそのものにも通じる視点があると感じました。
行き先は、親が一方的に決めるのではなく、「お互いにとって楽しめるかどうか」を話し合って決める。メリット・デメリットを伝えたうえで、娘さん自身の意見も聞きながら、2人でひとつの結論を出していくのが、かかさんのスタイル。
そこには「子どもだから」と扱わず、ひとりの人として尊重する姿勢があり、同時に「親である自分も大切にする」意識もある。とてもバランスの取れた関係性だなと感じました。
私自身も、旅の中で似たような経験があります。私がミュージカルが好きで、息子と一緒に観劇する機会があったときのこと。最初は、子ども向けのわかりやすい作品のほうがいいかなと思っていたのですが、息子が選んだのは、私も大好きな「オペラ座の怪人」でした。
正直、まだ小学校低学年の息子には少し早いかもしれないと思ったものの、私の好きに付き合わせてみたら、予想以上に深く感動していて。
親が好きなことに子どもを巻き込むことで、子ども自身の世界も広がる。そしてその逆もある。親子旅だからこそ、お互いの世界を広げ合える。
かかさんの話を聞いて、それが単なる「体験の共有」にとどまらず、親子関係の中で生まれる対話や発見そのものが旅の価値なのだと、あらためて言語化できた気がします。
母親が我慢しすぎないからこそ見える世界を大切に

母になると、いつの間にか「子どもファースト」の選択を無意識にしていたり、「今は無理かな」と、自分の願いや楽しみを後回しにしていたりすることもあるかもしれません。
でも、かかさんは言います。
「母親が我慢しないことで、親子の間に生まれるものがあるんです」
旅に限らず、母である自分が「やってみたい」「行ってみたい」「見てみたい」と感じたことを、素直に行動に移すこと。その背中を見せることが、結果として、子どもにとっても自分を大切にするという生き方のヒントになるのではないかと感じました。
昔、自分が夢中になっていたこと。今、ふと気になっていること。
<文/大木優紀>
【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。2児の母