文部科学省は、「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」の中で不登校について「多様な要因・背景により、結果として不登校状態になっているということであり、その行為を問題行動と判断してはならない」としている。
またその支援については「登校するという結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある」と明記しており、休養や自己理解のための時間としての不登校も肯定的に捉えている。
そうした中で、「不登校を平均3週間で解決する」といったキャッチコピー(当時※1)を掲げて注目を集めた不登校支援業者「スダチ」は、ネット広告や検索結果などで頻繁に見かける存在となり、実際に利用する家庭も少なくない。
2024年夏には、東京都板橋区との連携が一時発表され、板橋区の教育委員会も試行的な導入を認めたが、「無理な再登校の促しはリスクが大きい」などの批判が相次いだ。すると一転、区教委が連携を否定。連携が白紙となる事態となった。
本記事では、こうした背景と、民間による不登校支援の実情について理解を深めることを目的に、スダチを一例として、元利用者の声や専門家の見解をもとに課題を考察する。また記事後半では、スダチの代表・小川涼太郎氏への取材内容を掲載する。
※1…現在、公式サイトのトップには「学校に行こうかなを2ヶ月間で 子どもが自ら再登校するためのサポート」と掲載。
※本記事では、登場する体験者のプライバシー保護のため、名前はすべて仮名とし、特定を避ける目的で一部の背景や状況を変更しています。
中学生の息子が不登校になりスダチを利用
2023年に中学生の息子が不登校だった秋元さん(仮名)は、公的支援につながりづらい状況が続いていた。自治体が運営する教育支援センターでは面談予約が1か月以上先からしか取れず、医療機関の受診や民間の心理士によるカウンセリングも子どもが行きたがらない。スクールカウンセラーへの相談も、同級生や担任の目を気にする子どもが抵抗したため叶わずにいた。
途方に暮れていた最中、ネット上で『平均3週間で再登校率90%以上』(2023年当時)を謳うスダチに辿り着いた。話を聞いてみると、子どもには接触せず、親に対し完全オンラインでアプローチを行うとのことで、取り組むハードルも低く感じたという。すがるような思いで、約5万円の有料診断を申し込み、その後、約40万円を支払って本契約を結んだ。
スダチからは家庭内の「ルール」を発表するように指示があった。ルールの内容は「起床と就寝時間を決める」「朝(夜)、家族と一緒にご飯を食べる」「使った食器は自分で片付ける」「(これらのルールを守れておらず、朝から放課後まで学校に行けない場合)すべてのデジタル機器や漫画、本、娯楽を禁止」といったものだ。
娯楽を制限し、家の中を「つまらない状態」にするよう指導

スダチが利用者へ提供した説明用資料には「子どもの不登校が長引く大きな原因は、ゲーム、ネット、スマホ依存」「治さないと不登校は解決しません」とあり、解決方法としては「答えはシンプル。使わせない」とある。また注釈として「※不登校の子どもが家で充実できる環境を作ってはいけない(昔、不登校が現代より少なかったのは、家に居てもすることがなかったから)」とあった。
「欠席していた期間に関しては、娯楽はレゴや工作なども含め、とにかく暇を潰せるものは取り除き、家の中がつまらない状態にするよう忠告がありました。現実的にすべて取り上げるのは不可能で、かなり厳格なルールだと感じましたが、支払いを済ませていたので後に引けないと思い実行しました。
一方で、ボードゲームやカードゲーム、学園モノのドラマなど、家族で一緒に楽しむ娯楽は推奨されていました。
「主導権は親が握ること」「毅然とした態度」を求められる
デジタル機器を撤去すれば当然、子どもからの反発が予想されるが、秋元さんは「毅然とした態度」を貫くよう求められた。説明用資料には、「正しい親子関係を築く」ために必要なこととして「愛情は愛情、躾は躾。愛情と甘やかしを混同しない」「主導権は親が握ること」「毅然とした態度で親の本気度を伝える」などとあり、「家庭の中のボスは親」といった記載もあった。
また、上記のルールを子どもに発表する前に、突発的な行動を防ぐために「包丁を隠しておく」「窓の鍵のロックをかけておく」「靴を隠しておく」等の準備を勧められたという他の親の証言も確認できた。
それからは平日のうち4日間、メールでのサポートが行われた。ルールを守れているかの確認や、子どもの反発や暴力行為の有無、プログラムを遂行するうえでの疑問点などを報告し、それに対してスダチから助言が返ってくる流れだ。
朝起きてこなければ「まずい食事」を出すアドバイスも

「当初、子どもが約束の時間までに起きてこなければ、『起きないとお母さん夕飯食べられないよ』と子どもに言って、私は夕飯を抜くふりをするように言われました。そうして罪悪感を与えることで起床させる計画でした。ただ、それでも子どもが従わなかったため再度相談したところ、味つけをしていない食事を出すよう提案されました。ドレッシングのかかっていないサラダや、青汁や水でふやかしただけのオートミールなど、美味しくない献立を“健康食”として与えて起床を促すという方法でした。
スダチからは『ポイントは欲を満たさず腹を満たすこと』『あらかじめ調味料やドレッシングは隠しておくという下準備が必要になる』と説明されました。私自身はどうしても賛同できず、子どもがあまりにもかわいそうなので実行しませんでした」(秋元さん)
「結果的に短期間で再登校したが…」利用者に残る後悔とは
結果的に、秋元さんの息子は再び学校に行き始めたものの、スダチに同意できない側面は残る。「スダチでは娯楽に関して厳しい制限があり、再登校するまでは触れさせないようにと強く指示されました。
うちの場合は短期間で再登校しましたが、やり方が強引だったと悔やんでいます。本来であれば納得いくまで本人が休息して、医療機関でカウンセリングを受けて、学力を補ってから再登校させるといった段階を踏むべきでした。息子は軽く発達の問題を抱えており、今でも人間関係や学業に苦手意識を感じています。急ピッチで再登校に向かわせてしまったことで、根本にある発達や学力の問題を先延ばしにしてしまったと後悔しています」(秋元さん)
「親もデジタル機器を断つよう言われて…」

1か月半のサポートの契約を結んで以降、欠席した日はテレビやスマホの娯楽を一切使わせないこと、子どもを1日10回褒めることなど、スダチの指示のもと決められたプログラムに取り組んだ。
サポート期間を振り返り、木戸さんは「私自身の負担がとても大きかった」と振り返る。
「まず、子どもを毎日10回褒めるために、朝から晩まで娘の行動を追うのが大変でした。加えて、例えばテストで悪い点を取ってネガティブな発言をしたときに、『わからなかったことが復習できて良かったじゃん』といったポジティブな声がけをするよう求められたのですが、機転の利かせ方も気を張りすぎてしんどかった。特にウチは高校生だったので、褒めても心から響いているのかわかりづらくて。
それから、子どもにデジタル制限を課すため、私自身もデジタル機器を断つよう求められました。当時リモートワークでパソコンを使っていたのですが、娘に隠れて仕事をするのは現実的に難しく、退職しました。スダチのプログラムは私自身の精神的負担がとても大きく、すべて言われた通りに実施するには相当な覚悟が必要だと感じました」
一時的に登校するも、再び不登校に

改めてさまざまな支援団体に相談を試みたが、スダチの2回目の利用は見送った。
「私自身が大変だったうえ、娘はうつ病寸前と医師から言われていたので、これ以上スダチのやり方は続けられないと悟りました。入会当初、在学中の高校に行けなくなった際は、①今の高校に戻る、②アルバイトして学費を稼ぎながら通信制高校に通う、③家を出て自立する、という選択肢を子どもに提示するように言われていました。ただ、これ以上娘を追い込むことはできないし、方向性も違うと悟りました。
結局、再び不登校になったのも、それまで無理していた反動が来たのかもしれません。スダチに入会していたときは、私が一生懸命鼓舞していたので、娘もそれに応えようと頑張っていたんでしょうけど、本音では行きたくなかったんでしょう。再登校後もストレスが積み重なり、結果的に力尽きたのだと思います。
再登校にこだわらず、娘の状態を見て早めにプログラムを切り上げれば、病気にはならなかったかもしれないという負い目をずっと引きずっています」(木戸さん)
現在も娘の起立性調節障害は完治していないが、通信制高校で学ぶ日々が続いているという。
スダチのサポートについては否定的な意見も多いが、「デジタル制限により最初はとても荒れた様子になったものの、生活リズムが改善し、子どもが前向きに変化した」と評価する元利用者の声も聞かれた。費用についても、連日のメールのやりとりや、極めて具体的な助言をもらえるといったサポート内容から「内容に見合っており高いとは感じなかった」との意見もある。
医師は子どもに接触しない支援方法、短期間のプログラムに疑問
国立精神・神経センター国府台病院心理・指導部長や、国立国際医療研究センター国府台病院精神科部門診療部長を歴任し、児童思春期精神医学において豊富な臨床経験をもつ医師の齊藤万比古氏は「実際に支援の様子を見たわけではないので明確なことは言えない」と前置きしつつ、スダチの支援方法について下記のように指摘する。「子どもに接触せず、親がプログラムを実践していることを子どもに知らせないスダチのアプローチは、子どもの主体性をないがしろにしている印象を受けます。児童精神科や心療内科などの臨床現場では、初診で必ず不登校の本人の来院を求めています」(齊藤氏)
スダチは1か月半のプログラムで、正しい親子関係を築いてから、登校を促すよう親に助言をしている。ここで言う「正しい親子関係」とは明確な定義が難しいものの、少なくとも「1か月半という短期間のプログラムで不登校の子どもの親子関係が改善するとは思えません」と齊藤氏は明言する。
「長期化し始めた不登校の場合には、ご両親と一緒に受診や相談にくるケースでも、子どもは、両親が怒っていないと察して安心して本音を語り始めるまでに何か月もかかるのが普通です。そして本音を語れたからといって、子どもはすぐに動き出せるわけではないのです。
その間に両親が焦り始めたら、もう一方の親がその焦りを受け止めつつ、それを子どもにぶつけないようになだめ収めるということを互いに繰り返すことも必要です。そうして時間をかけて、両親も子どもも、徐々に余裕を取り戻していくものです。不登校の臨床経験から私は回復とはそのように起きてくるものだと考えています。
スダチのプログラムは、突貫工事という印象が否めないのが正直な感想です。資料を見ると認知行動療法から着想を得ているようですが、丹念なプロセスを省略した内容に感じます」(齊藤氏)
確かにスダチ公式サイトのブログ(2025年1月14日公開・6月29日更新の記事)にも「メソッドにエビデンスがなく、知識がないのに認知行動療法を取り入れている」との批判をもらうことがあると記載されていた。
「自尊心や他者への信頼感などを破壊し、自己形成を歪める懸念」
また齊藤氏は、家庭内でルールを作り、子どもが守れなかった際に何らかの制限を行うといった手法にも疑問を投げかける。「デジタル制限はケースバイケースであるものの、食事制限などは心理的負担が大きすぎるといえます。いずれにせよ家庭内でルールを敷いて、それができなければ罰を課すような仕組みは、無理をしてでも学校に行かざるを得ない状況を作り出すため、子どもの親への信頼を踏みにじる行いだと思います」(齊藤氏)
また登校を促すタイミングを見誤ってしまうと、子どもの回復において逆効果になることもあるという。不登校が発生するメカニズムを引き合いに、齊藤氏が説明する。
「登校を促すこと自体は悪いことではありませんが、信頼関係が築けていない段階では逆効果になります。親が主導権を握る形で登校を促すことは、子ども本人の自尊心や他者への信頼感などを破壊し、自己形成を歪める懸念が生まれます。
子どもは自尊心を踏みにじられることで自己否定的になると同時に強い怒りを抱え、自傷行為、親への暴力、もし学校にもどったとしても親への依存の代替行動としてのSNSへの没頭や性的逸脱、あるいは怒りのはけ口としての弱い者いじめに走ることがあります。
不登校が生じやすい思春期は、親離れの進行に伴って友人関係や学校の先生など親以外の大人との関係に夢中になったり、ときには異性との恋愛関係の悩みも生まれたりといったとてもデリケートな年代です。
そうした状態で不登校に陥ると、罪悪感や無力感、落ちこぼれたという挫折感といったネガティブな感情が強まり、学校へ戻ってもっと傷つくことを恐れ、ますます登校を回避するようになります。そんな悪循環に陥るわが子を前に焦りを感じる親御さんの気持ちは痛いほど分かりますが、そんなとき子どももまた学校へ行けない自分を責め、親が無理やり登校を強いるのではないかと恐れながら、学校へ行けない自分を親に許されたいと願うのです。
『子どものために再登校させる』という親の願望の押し付けが、どれだけ子どもの自信や独立心を奪って、子どもの可能性を奪ってしまうか考えてみましょう」(齊藤氏)
不安定な思春期だからこそ、一度ひびが入った親子関係を修復するのは非常に時間がかかる。それを避けるには子どもが不登校に陥っても、焦らずに向き合うアプローチが必要になると齊藤氏は念押しする。
「子どもの不登校は子どもも親も激しく揺さぶられながら、家族の結びつきを微調整しつづけ、家族として再生していく作業に取り組むチャンスです。親として焦燥感に苛まれる気持ちはわかりますが、子どもとの関係を振り返る大切な機会を与えられたと発想を変え、不登校の状態でも、通常通り穏やかな気持ちで子どもと接することをお勧めします。
一般的には、親が子どもを支え育む側面が強調されていますが、子どももまた親を支えているのが親子関係です。そのことを親が自覚すれば、次第に子どもも安心して、進路や学習に関心を示すときがやってきます。そうなって初めてフリースクールや支援学級など、複数の選択肢を提示してあげるのが、適切なアプローチになると考えています」(齊藤氏)
不登校支援をおこなう民間事業者が増える背景

不登校児童は増加傾向にあるため、あえてビジネス的な視点で言うと“市場が拡大”している状況で、民間の不登校支援事業者が次々と現れるのは当然とも言える。
一方で、国内には、不登校支援に携わる公的機関も多い。自治体の教育センターの相談窓口やフリースクールをはじめ、公的支援が多々あるなか、民間業者を利用する親が多いのはなぜか。フリースクールや不登校親の会を主催する、NPO法人schoot代表の内海博文氏が説明する。
「日本が就学義務を採用していることが、もっとも大きな構造的要因だと考えています。端的に説明すると、就学義務とは、保護者がその子どもに合計9年間の普通教育を『学校で』受けさせる義務のことです。
しかし、世界を見渡せば、学校に登校せずとも一定の手続きをとることによって、ホームスクーリングなど学校以外で学ぶことが制度的に保障されている国も少なくありません。親の教育権が大きく認められているアメリカにおいては、例えば家庭学習に費やされた費用を申請することで、所得控除や税控除が受けられる州もあり、通学そのものは必ずしも義務ではありません。
対して日本では、フリースクールに通ったり、家庭で学習を行っても学校では出席扱いと認められないケースも多発します。そのため高校受験が現実味を帯びてくる中学校段階で子どもが不登校になると、保護者は出席日数を気にするあまり、短期間で再登校させたいという焦りに駆られます。
そのうえ自治体には、教育支援センターなど公的な不登校支援サービスが存在するものの、相談を受けた教員などから適切な対応や紹介がなされず、当事者に情報が行き届いていない実情があります。民間業者に関する情報は、『公平性に欠ける』という理由でそもそも紹介しない学校や教育委員会も少なくありません。
その結果、ネット上やSNSで再登校につながるサービスを検索せざるを得ず、検索上位に表示される宣伝力のある民間の事業者に辿り着く構造ができていると考えています」(内海氏)
話を聞いたスダチの元利用者たちは、インスタグラムやYouTubeなどで広告や動画を見つけて入会に至ったと話す。「教育機関は面談予約を取るのに時間がかかる」「医療機関は子どもが通うのを渋る」などと、公的支援につながりづらい悩みを抱えていた中で、オンラインで手軽にサポートを受けられるスダチは魅力的に映ったと話す親もいた。
業者の見極めはより難しくなっていく
まずは親自身が焦りを解消しつつ、適切な情報収集を行うのが望ましいと内海氏は助言する。「メディアやSNSによる指摘が増えれば、民間業者は今後、宣伝文句やキャッチコピーをマイルドにしていくでしょう。サービスの実態は大きく変わっていないにも関わらず、公式サイト上などの表面的な情報だけでは、子どもに適切なサービスなのか見極めが難しくなるはずです。
また、行政が民間の事業者を選別するのにも限界があります。自治体によっては、不登校支援のサービスをリストアップして情報提供を行っていますが、具体的にどの施設やサービスが、どういった子にマッチするかまで提示することは困難です。それゆえ親にとっては、どこが適切な支援をしてくれるのか、その判断は非常に難しい。
一概に、再登校を掲げる民間事業者に問題があるとは言えませんが、少なくとも公的支援や民間サービスに関する情報を集めたうえで、不登校の子どもにどうアプローチするか検討して欲しい。情報収集としては、民間で主催されてる親の会や家族会が望ましいでしょう。主催者や参加者に当事者が多く、事業者が介在しているわけでもないので、フラットな意見交換ができるはずです」
もちろん不登校支援の選択肢が増えるのは望ましいことである。教育機会確保法3条5項では、「国、地方公共団体、教育機会の確保等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者の相互の密接な連携の下に行われるようにすること」とあるように、行政と民間での連携も推進されている。
その一方で、アプローチを見誤まれば、子どもの人格や親子関係に悪影響が及ぶ懸念もある。教育機会確保法においては、民間団体に対する認可基準や、苦情対応・被害救済に関するガイドラインの整備が明文化されておらず、現時点ではサービスの質にかかわらず、さまざまな民間業者が参入しやすい構造になっていることも課題として指摘されている。
多くの専門家が疑問視するような内容の支援をおこなう民間団体が行政と手を組む可能性も今後ないとは言い切れない状況だ。
スダチ代表・小川涼太郎氏を取材

すると「記事の経緯や取材主旨を理解した上で回答したい」旨の返答があり、後日、編集部に小川氏、スダチ顧問のカウンセラー・江崎英子氏、また元利用者であり現在スダチの運営に携わる女性の計3名が来訪し、担当編集者より取材経緯の説明などを行った。小川氏、江崎氏からはスダチの理念についての説明があった。
ここから紹介するのはその面会後、メールにて小川氏より改めて説明・回答を得た内容である(※文量が多いため、編集部にて要点を整理し再構成・要約をした。なお、できる限り原文を活かし、原文の意図を損なわないよう配慮している)。
「デジタル機器の制限」の根拠について
スダチは利用者への説明資料で、デジタル機器の利用における「前頭前野の機能低下」を「もっとも注意していただきたい弊害」として紹介している。資料には「スマホやゲームを利用している間は脳の前頭前野がほとんど機能していないことがわかっている」とある。デジタル制限の意図について小川氏に聞くと、下記4つの項目を提示された。
「・生活リズムを整える
・家族のコミュニケーション時間の創出
・これからについて考える時間を作る(前頭前野と関係)
・暴言や暴力を抑える(前頭前野と関係)」
(※上記項目はメール原文ママ。各項目の説明文は割愛している)
しかしながら、デジタル機器の利用による前頭前野への影響については専門家の間でも見解が分かれており、科学的なコンセンサスはまだ形成されていない現状がある。
小川氏は次のように付け加える。
「前提として、スダチでは『やるべきこと(事前に伝えているルール)をやってからやりたいことをやろう』という考え方をベースに、家庭のルールを決めています。ですのでもちろん、やるべきことをやった上でデジタル機器の使用をすることはまったく問題ないと考えています。
ルールが継続的に守れていた場合、親御さんとお子さんで話し合いの場を設け、デジタル使用時間も含めて民主的にルールの変更について話し合っていただきます。
逆に、やるべきことができていなかった場合は、約束通りデジタル機器は一部の連絡等を除いて使用できない(もしくは一定時間しか使えない)環境をつくっていただきます。そしてこのルールを守ることを強制することはなく、ルールを守るかどうかはお子さんの判断に委ねています」
スダチは「やるべきこと」を「心身共に健やかに成長していくために必要なこと(生活リズム、学びなど)」と定義しているとのこと。
また、「事前の打ち合わせのもと、デジタル制限を行わないケース」もあるという。
「精神疾患の傾向があるお子さん、自傷行為や自殺企図などがあるケースは、精神科医監修のチェックリストに則り、デジタル機器の制限はしておりません。
夏休みなどの長期休みや、ご家庭の状況に合わせて、一定時間のデジタル使用を前提としたルールを設定する場合もあります。友達とのコミュニケーションやタブレット学習など、必要に応じてデジタル機器の使用は認めていますので、完全に制限しているわけではないことをご理解ください。また、急な制限ではなく、一定の制限までの調整期間を設けた上で実施しております。長いケースであれば、1~2ヶ月間の調整期間を設けています」
「包丁や靴を隠す」「窓のロック」を依頼するケースについて
包丁や靴を隠すように依頼するケースについて、小川氏は下記のように説明する。「親御様に対して暴言や暴力がある場合は、万が一に備え、刃物類の撤去や、凶器となるものなどを念のために隠すようにお願いしています。また、スダチへご相談いただく前から自傷行為をしているお子様も多いため、包丁を始め、カッターやハサミなど、自傷行為に使う可能性があるものを隠すようお願いする場合がございます。また、自傷行為のリスクが高いお子様には、デジタル制限など、お子様が反発する可能性が高い提案はしないようにしております。
なお、スダチへ相談する前に、刃物類を持って突発的な行動を起こしたことがある場合は、我々の対応範囲外と判断し、医療機関または警察や児童相談所に相談するようお伝えし、サービスをお断りするケースもございます。
またサポート中であっても、このようなアドバイスをせざるを得ない状況になった時点で、親御様と面談の機会を設け、意思確認を行い、今後の方針についてすり合わせするようにしております。状況に応じて第三者機関への相談を推奨する場合がございますことも事前に重要事項説明書で説明の上、親御様にはご同意いただいております。
『靴を隠す』に関しても上述の通り、突発的に家を飛び出しそうだと想定できる場合に予防として提案させていただいている内容となります。家出の不安がないご家庭に、予防以外の用途でご提案することはございません。
スダチは、お子様の命と心身の健康を親御様とともに守ることを何より最優先にしており、健全な親子関係の構築を常に念頭に置いております。そのためにも、命や心身の健康に関わりかねないリスクは回避するよう、また予防対策の手立ては尽くすよう最大限配慮し、親子様に寄り添ってサポートしております」
なお「窓のロック」の依頼についてはメールの記録が残っておらず、実施したかは不明だが口頭で伝えた可能性は否定できないとのことだった。
親が「食事を抜くふり」をする指導について

「スダチは、お子様が心身ともに健康で意欲的な状態になることを目指しています。一方で、私達に相談に来られる多くのご家庭では、昼夜逆転などで生活リズムが乱れているといった現状が多いです。生活リズムを整えるためには、まず朝起きることがファーストステップになります。しかし、どうしても朝起きることが難しいお子さんがいらっしゃいます。そのようなお子さんの心身の健康を守るために、お子さんが自ら朝起きられるようにこれまでも色んな手段を考えてきました。
スダチでは、親子のコミュニケーションをとても大切にしているため、家族で一緒に食事を食べるというルール設定をしております。その際、お子様が決めた時間に起きて来れない場合にそのような提案をすることがございます。また、体調面の問題でどうしても朝起きることが難しいと判断したお子様には提案しておりません」
“健康食”として味つけをしていない食事を出す指導について
子どもが決められた時間にどうしても起きられない場合に“健康食”と称して「味つけをしていない食事の提供」を親にすすめたケースについて聞くと「過去にあったが、現在は提案していない」とのことだった。「具体的には『朝〇時に起きる』という家族のルールが守れなかった場合、生活リズムが整わないことにより、お子様の心身の健康を守ることができなくなることを防ぐため、せめてご飯だけは健康に良いものを出すと事前にお子さんに伝えた上で、朝食に健康食のようなものを用意しておくというものでした。
こちらのアドバイスが、サポーター(※編集部注:スダチの支援プログラムにおいて利用する親との連絡や対応を担当するスタッフ)の伝え方や親御さんの受け取り方によって拡大解釈されてしまったケースはあると思います。また弊社としても親御さんへの伝え方を統一できていなかったことを反省しており、現在では重要なアドバイスに関しては伝え方を統一できるように改善を行っています」
なお、取材した元利用者の事例では、サポーターのメールに「青汁や水でふやかしただけオートミール」といった健康食の具体的なメニューも示されており、少なくとも「サポーターの意図を越えた拡大解釈」ではないケースと言えるだろう。
小川氏は次のようにも説明する。
「スダチは、お子さんの心身の健康を守るために、お子さんが自ら朝起きられるようにこれまでも色んな手段を考えてきました。しかし、この提案は、お子様を逆に苦しめる可能性があると判断し、現在はこのアドバイスはしないことを徹底しております」
「在学中の学校に行けなくなった際、①今の高校に戻る、②アルバイトをして学費を稼ぎながら通信制高校に通う、③家を出て自立する、という選択肢を子どもに提示する」指導について
スダチから我々へ提供された資料で紹介されていたケース(前述の秋元さんとは別の利用者)でも、サポーターから同様の3つの選択肢提案がされた記録があった。この提示内容の意図として、小川氏より下記の補足説明があった。
「『全日制へ転校する』『高認を取得して大学受験をする』に関しては、お子さんが選択肢としては無いと面談時に言っていた(親御さんも選択肢としてはなくて良い)と聞いていますので、省いております」
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不登校の子どもを抱える家庭の事情は三者三様であり、どのアプローチが正しいか一義的な判断は難しい。逆に言えば、画一的なアプローチ方法がないからこそ、不登校支援をおこなう民間事業が多様に展開されているとも言える。
本当の意味での「子どものための支援」とは何か。我が子に合う支援とは何か――それを見極めるうえで、保護者自身の情報リテラシーや判断力が問われている。
一方で、こうした対応の負担が家庭にのしかかっている現状は、制度的な支えの不足を浮き彫りにしているとも言えるだろう。
<取材・文/女子SPA!取材班>
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