元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。


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 そんな宇垣さんが映画『サタンがおまえを待っている』についての思いを綴ります。

宇垣美里「悪魔とは私であなたで、つまり人間のこと」80年代、全米を震撼させたパニックの真相
『サタンがおまえを待っている』
●作品あらすじ:1980年代、アメリカで悪魔崇拝に関する儀式を被害者目線で記録した本をきっかけに起きた「サタニック・パニック」。残虐な儀式の詳細に描写した本書は大きく拡散され、自分も幼い頃に儀式に参加させられたという告発が続出。そして、カトリック教会やローマ教皇、FBIをも巻き込んだ大騒動へと発展していく……。

 社会的な騒動の真相に切り込んだドキュメンタリーを宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です)

「人は客観的な証拠がない時 とっぴな話に食い付く」

宇垣美里「悪魔とは私であなたで、つまり人間のこと」80年代、全米を震撼させたパニックの真相
『サタンがおまえを待っている』より(以下同)
 特定の国から来た人が自分たちよりも優遇されていると羨んだり、とある民族が増えたら犯罪も増えると怯えて見せたり。取り上げるまでもないと思っていた言説が多くの人から支持されている現実を知ってから、ずっとげんなりしている。

 FBI特別捜査官のケン・ラニングは言った。「人は客観的な証拠がない時 とっぴな話に食い付く」と。80年代の北米で起こった未曽有のサタニック・パニックの真相を追うドキュメンタリー作品の中で語られたこの言葉が、そのままに混沌とした今の時代に刺さる。

聞くだに恐ろしい悪魔崇拝者たちの所業に全米が震撼

宇垣美里「悪魔とは私であなたで、つまり人間のこと」80年代、全米を震撼させたパニックの真相
『サタンがおまえを待っている』
 ミシェルという女性と精神科医のローレンスによる共著で出版された『ミシェル・リメンバーズ』はアメリカで大ベストセラーとなった。その内容はローレンスによる催眠療法によってミシェルの中から掘り起こされた5歳の頃の記憶について。彼女はかつて母親によって悪魔崇拝の教団に引き渡され、約14か月の間恐ろしい虐待を受けたという。

 ミシェルの語る聞くだに恐ろしい悪魔崇拝者たちの所業に全米が震撼し、やがてミシェルと同じように虐待を受けていたと証言する人々まで現れるように。テレビやFBIを巻き込み、果ては「悪魔崇拝者」であるとされた保育士などが逮捕されるなど、大量の冤罪事件まで引き起こすこととなる。


ある種の邪悪さすら感じて身の毛がよだつ

宇垣美里「悪魔とは私であなたで、つまり人間のこと」80年代、全米を震撼させたパニックの真相
『サタンがおまえを待っている』
 この未曽有のヒステリーをローレンスの妻と娘やミシェルの妹、警察官や学者などの証言と当時の記録映像などとともに振り返ることで、より生々しくその真相が浮かび上がってくる。

 最初の証言はローレンスによる誘導だったのか、はたまたミシェルの恋心がつかせた嘘だったのか。多くの人を巻き込んだその犯行に共感などできるわけもなく、ある種の邪悪さすら感じて身の毛がよだつ。ただ、実際に行われていたセラピーの様子が記録されたテープの音声はあまりに弱々しくて、痛々しくて、あまりにもただの人だった。

「歴史から学ばなければまた同じことが繰り返される」

宇垣美里「悪魔とは私であなたで、つまり人間のこと」80年代、全米を震撼させたパニックの真相
『サタンがおまえを待っている』
 先述のFBI捜査官は「歴史から学ばなければまた同じことが繰り返される」とも言った。陰謀論によって米国議会が襲撃され、ワクチンで5Gに繋がるとまことしやかに囁かれるこの現代だからこそ、見逃すわけにはいかない作品だ。

 悪魔とは私であなたで、つまり人間のことなのだから。

●『サタンがおまえを待っている』
配給/ポニーキャニオン 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中 © 666 Films Inc.

<文/宇垣美里>

【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
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