『運のトリセツ』を上梓したばかりの脳科学者の黒川伊保子さんは、「“無邪気な脳”を取り戻すことが、ストレスを遠ざけるカギ」と語ります。

※本記事は、『運のトリセツ』より一部を抜粋・再構成しています。
「ストレス知らずの女」になるには

そんなときこそ、「無邪気な脳」を取り戻そう、というサイン。
無邪気とは、「好奇心」と「素直さ」。
無邪気とは、損得勘定なしに、他人の気持ちを自分の気持ちのように思えることです。ということは、自分の気持ちも、ちゃんと把握しなければなりません。
「いい子ちゃん」を卒業する

特に完璧主義の優秀な母に育てられた優等生の娘は、母親の期待に応えようとするクセが抜けず、大人になっても、社会の期待通り「いい子ちゃん」になろうとしすぎていて、それが無邪気さの邪魔をしてしまいます。そして、自分の本当の気持ちさえもわからなくなり、それが、ストレスとして蓄積されてしまうことに。
危険なのは、ストレスがたまると、脳の使い慣れている回路だけを漫然と使うようになるので、思い込みが激しくなったり、過去の呪縛にとらわれやすくなったりすること。
すると、「自分が知っている、以前起きた事象」でしか物事を判断できないので、新しい視野で考えが浮かばなくなります。
「それ、違います」と言えるのが無邪気さ

「それ、違うと思います」とハッキリ言えることが無邪気さなのです。
ちなみに、我が家の3歳の孫息子は、嫌なことははっきりとイヤと言い、したいことは躊躇なく伝えてくれます。「お風呂入ろうよ」「ヤダ!」「湯船で氷融かして遊ぼ」「OK!」みたいな感じです。初見で言うことを聞くことはほとんどありませんが、OKが出たときの笑顔と集中力があまりにも清々しくて「本当に素直だなぁ」と感心します。
で、思ったんですけど、大人の言うことを聞く子どもを、昭和世代は「素直な子」って言うけど、あれ間違ってますよね。自分の気持ちに蓋をして、大人の言うことに従う子は素直じゃないでしょう。自分の気持ちと好奇心を素直に口にする子を「素直な子」と呼ぶべき。あなたも、自分にそうしてあげてくださいね。
ココ・シャネルの「自尊心」に学ぶ
大事なことがあります。「許せないこと」は信念になり、貫けば自尊心になるということ。シャネルがそれを見せてくれました。かつて世界中でミニスカートがブームになったとき、ココ・シャネルは頑と、「大人の女性は膝を見せないのがエレガント」と、膝下丈のスカートを提唱し続けました。
一九五九年、テレビのインタビューで彼女はこう答えています。
「膝? あんなものを見せるなんて、気がしれない。大人の膝は汚いわ。誰もが永遠に十五歳でいられるわけじゃない。けれど、本当のエレガンスは四十歳を過ぎてからわかるもの。私は、本当のエレガンスがわかる大人の女性のために闘い、守るの」
時代遅れと言われようと、シャネルは生涯、膝下丈を守り抜き、「ノーカラージャケット & 膝下丈タイトスカート」のシャネルスーツは、その後、世界中でブームになりました。一九六三年、ダラスでケネディ大統領が暗殺されたとき、夫人のジャクリーヌさんが着ていたのも膝下丈のシャネルスーツでした。
自分が不快に思うことは。きちんと見ておく

今ならSNSで「きれいな膝だってある」みたいな反論で叩かれそうですが、そんな雑音、気にする必要がない。なぜなら、大事なのは、「正しいことを証明する」ことじゃない。
自分の世界観を構築して、自尊心を保つには、「自分が不快に思うこと」がきちんと見えていなければなりません。そして、反論や冷やかしを気にしないこと。世界中を説得する必要なんてないんです。ここに、自分の世界があるのだから。
「いい子ちゃん症候群」を抜け出し、「自分にしかできない仕事」を確立するには、まずは「これは不快」を自覚すること。そこから始めてみてください。
そのストレスは本当に悩まなければならないものなのか?

あるセミナーで、上司との関係に悩む女性がいました。
「私は経理部に書類を持って行く担当なのですが、十七日に提出しなければいけない書類を、部長は十九日にしか持ってこない。私のことを軽んじています。
自分の言うことを聞かない=自分のことを軽んじている。この不快感、気持ちは本当によくわかりますが、こういう考え方では、働くことはかなりストレスになってしまいます。この事例、十九日提出で、会社が回っているんですよね。だとしたら十九日締め切りでもよいのに、安全のために十七日という期限があるのでしょう。部長はそのことを知っているから悠長に構えているのでは?
そして、毎月お尻を叩かれているのに、あえて十七日締め切りのルールを見直さないのは、回収係に急かしてもらって、やっと本当の期限ギリギリに出せるからかもしれません。けっして、回収係を軽んじているわけじゃなくて。仕事では、こういうこと、けっこうあります。
人を思い通りに動かそうとしない、人に思い通りに動かされない

本当は、部長から「経理のデッドラインは二十日なんだよ。だから、つい……。でも、いつも事前に知らせてくれてありがとう」と言うべきですが、忙しい上司に感謝の言葉や説明を期待してもムダ。
彼女は彼女の役割をきちんと果たしているのだから、それでいいのです。
皆が守れないルールなら変えればいい、変えられないルールなら、あらためて守ってもらうよう上から圧力をかけてもらえばいい。自分が軽んじられているから言うことを聞いてもらえない。そんなふうに、考えないことです。
心で動く女性と違って、ルール順守、心情度外視の男性脳には、担当者をなめてるからルールを守らない、なんてことは基本、起こらないからです。実際そうじゃないのに、退職するほどのストレスをためることになるなんて、ばかばかしいだけです。
<文/黒川伊保子>
【黒川伊保子】
(株)感性リサーチ代表取締役社長。1959年生まれ、奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に従事、2003年現職。『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』がベストセラーに。近著に『息子のトリセツ』『母のトリセツ』