その中でも地味にシリーズを重ね、密かな期待を集めているのが深夜のグルメドラマ『ワカコ酒season9』(BSテレ東)と『晩酌の流儀4』(テレビ東京)です。
『孤独のグルメ』(テレビ東京)以降、グルメドラマはジャンルが確立され、ゆるく見られるコンテンツとして人気を集めるようになりました。ですがコロナ禍以降、その潮流に変化が表れてきたことをご存じでしょうか。
『孤独のグルメ』に追随したドラマの過去と現在
古くから『天皇の料理番』(TBS系/1980年)や『美味しんぼ』(フジテレビ系/1994年)『味いちもんめ』(テレビ朝日系/1995年)など、料理をテーマとしたドラマは数多くありましたが、あくまでも人間ドラマやストーリーが主軸でした。グルメを添え物としてではなく、各話のメインとして扱うことで革命を起こしたのは、前述した『孤独のグルメ』(2012年)でしょう。
実際の店を訪れ、実際に出されているメニューを食事するというセミドキュメンタリー的な試みは、その後『ワカコ酒』(2015年)や『女くどき飯』(TBS系/2015年)『いつかティファニーで朝食を』(日本テレビ系/2015年)『ラーメン大好き小泉さん』(フジテレビ系/2015年)など、追随するグルメドラマを数多く生み出しました。
『孤独のグルメ』に登場した店は、翌日から行列ができ、“聖地巡礼”として国内外から人が訪れるようになっていると聞きます。視聴者だけでなく、飲食業界内からも一目を置かれるようになる、いわば称号のようになるのだそうです。
しかし、ここ数年、実際の店を訪れる形式のグルメドラマはぐんと減りました。『きのう何食べた?season2』(テレビ東京系/2023年)などのおうちごはん、あるいは『深夜食堂5』(Netflix/2019年)のような料理人が主役となる形式が主流となっています。
2015年は7本→2024年は2本に減少したお店紹介系
現に、2015年には7本ほどあったお店紹介を兼ねたグルメドラマが、2024年は2本しか放映されていません。さらに、2本のうちのひとつが『もうひとつの孤独のグルメ』という続編もの、もうひとつは登山後の食事を描く『下山メシ』(テレビ東京系)と、純粋なグルメドラマとカテゴライズできるかは微妙なラインです。グルメドラマ自体は12本と、多いにもかかわらずです。

人手不足、予算不足、物価高…生活様式の変化
店訪問スタイルからおうちごはん系が主流になったのは、やはり2020年からのコロナ禍が大きく影響しているのだそう。グルメドラマに携わった経験のあるテレビ局員のKさんはこう話します。「飲食店の閉店が増えたこともありますが、生活様式が変わったことなども遠因としてあります。非接触接客が多くなった関係で、“ドラマ映え”する飲食店が減ってきました。
例えば、五郎さんがスマホを使って注文していたらちょっと味気ないですよね。個人店でも、ファミレスにあるネコ型配膳ロボットのような自動配膳装置を使用する店もあるくらいですから」

ドラマは圧倒的にInstagramよりコスパが悪い
「もともと、とりあげたくなるような名店はワンオペや家族経営など少人数で回していることも多いので『お客様が増えても困る』と、断られることが多いんです。しかも、ドラマ撮影は1日~2日がかり。交渉によりますが、店をお休みにできない、従業員を確保できないなどの理由から撮影協力NGということもよくあります。一方、近年ではInstagramの影響力が大きくなりました。自らの飲食のついでに撮影を終わらせるインスタグラマーの発信に比べれば、圧倒的にコスパが悪いのでしょう」

苦境を強いられているお店系。それでも無くならない理由
昨今、制作の過程で問題があれば、SNSなどで露わになってしまう時代にもなりました。より細心の注意や配慮を各所に配り慎重にならなけばいけないことも、減少の要因のひとつになっているのかもしれません。
コロナ禍以降目立つようになったのが「いつ閉店(自分が亡くなっても)してもいいように」と撮影して欲しいという声。
閉店だけでなく、再開発などの理由で移転やリニューアルする前に、後世に残る形で店を記録に残したいというお店関係者が増えていると言います。この理由で、今まで取材拒否だった店の撮影許可がでることもあるのだとか。
「それを聞くと、制作側もなんとかしていい作品にしようとさらに意欲が沸くんです。いい飲食店は食の文化遺産ですからね」
Kさんはそう語り、機会があればまたグルメドラマに携わりたいと意欲を語りました。食欲の秋。お腹が減る秋の夜長は、グルメドラマで過ごすのもよさそうです。
<文/小政りょう>
【小政りょう】
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦