新著に収録されたのは、2022年12月~2026年3月に国内外40か所を訪れた旅の記録。仕事、日常生活、プライベートでの価値観もふんだんに盛り込まれた新著に込めた思い、そして、旅を通して振り返った自身の感情とは――。
「3週間働いて1週間休む」生活を謳歌する宇賀さんに聞きました。
生活サイクルを見直し「仕事も遊びもすべて繋がっている」と発見
――2023年2月発売の前著『じゆうがたび』(幻冬舎)に続き、新著『おもうがたび』を刊行されました。同じく旅をテーマにした、2冊目の著書を出版された経緯から教えてください。宇賀なつみ(以下、宇賀):前著は幼少期から学生時代、会社員時代を経てフリーランスとして独立するまでの半生をたどる、名刺代わりの一冊でした。もし次の著書を書けるのであれば「より旅にフォーカスした本にしたい」と思っていたんです。
前著の出版直後はフリーランスとして5年目を迎える直前で、独立後の生活に慣れてきたし、1か月毎に「3週間働いて1週間休む」のサイクルに挑戦してみたくなったタイミングでもありました。
新著で書いた2022年12月~2026年3月の3年強はまさに前著を出版した直前からの話で、約1年前に幻冬舎で編集を担当してくださった方から「2冊目はどうですか?」とおっしゃっていただいたときには「このために、旅をしてきたのか」と、自分の中で納得しました。
――「3週間働いて1週間休む」スケジュールを徹底できるのは憧れます。仕事や日常生活、旅をどのようにかけ持ちされているのでしょうか。
宇賀:現状ではありがたいことにレギュラー番組のスケジュールが遅くとも数か月前にはわかるので、それをふまえて休む日をスケジュール上でブロックするんです。他の仕事は空いた日に入れ、締め切りのある仕事は休む日までにすべて終わらせることを心がけています。
旅の目的地は直前に決まることが多く、とりあえず「どこかへ行く」とだけ先に決めていますね。友達との予定が合えば「一緒に行こう」となりますし、誰も予定が合わなければ一人でも行きます。事務所に入っていないし、マネージャーもいないので、自由に楽しんでいます。
――レギュラー番組を抱える立場であっても“働かなければ……”というプレッシャーがフリーランスにはつきまといそうですが、そうした怖さはないのでしょうか。
宇賀:2019年にテレビ朝日を退社してからしばらくは、とにかく「スケジュールが空いていれば何でも引き受ける」の考え方で働いていました。ただ、ありがたいことに忙しく働いてはいたんですが、次第に「何のために独立したんだっけ?」と考えるようになっていったんです。自分なりの働き方改革としてテレビ局を辞めたはずが、本末転倒になってしまって。
生意気かもしれませんが「本当は何がしたかったのか」に立ち返ったのが前著を出版した直前のタイミングで、当時「この先は一番好きなものに時間とお金と体力を使おう」と振り切ったんです。それによって、新著はもちろん、旅をテーマにしたお仕事も広がり「仕事も遊びもすべて繋がっている」とわかりました。
幼少期から続く日記の習慣で自分への「解像度」が上がった
――新著では「両親が旅好きだった」とも述べていましたが、どのような家庭環境で育ったのでしょうか。宇賀:週末や連休には家族でどこかに出かけていました。新しい商業施設ができれば父が「行ってみよう」と誘ってくれて、遠くにもよく車で連れて行ってくれたことを覚えています。父は70代前半で母は60代後半ですが、まだまだ元気です。
――新著で書かれた長野県の蓼科は、ご両親との思い出が詰まった場所でもあるそうですね。
宇賀:毎年、夏休みになると連れて行ってくれました。私自身が東京生まれの東京育ちで、両親も実家が東京なので、いわゆる田舎がなかったんです。ただ、両親には「自然にふれられないのはよくない」という気持ちがあったのか、夏休みには蓼科の山小屋で1週間ほど過ごして、虫取りをして花を摘み、公園で自然を見ながら絵を描くなどの経験をしました。
もともと、地球儀を見ては「ここには何があるんだろう。行ってみたい」と妄想していたほど、好奇心や自立心が強い子どもではあったんですが、両親のおかげで野生児的なエッセンスも植え付けられました。
――新著では旅の記録も詳細に書かれていましたが、何かを記録する習慣も当時からあったんでしょうか。
宇賀:小学5年生の頃から毎日、日記を書いています。最初に買ってもらったのがサンリオのキャラクターが描かれた手帳で、帳面がスカスカなのが嫌で「誰々ちゃんと遊んだ」「カレーを食べた」と、他愛ない出来事であっても何でもかんでも記録していたのがスタートでした。
その後、中学校、高校、大学と進学し、部活やアルバイトもありスケジュールが濃くなるにつれて、普通の手帳では書ききれなくなってきたので“1日1ページの手帳”を使いはじめ、予定や出来事を書くだけではページが埋まらないので、日々の感想を書きはじめたんです。
誰かとご飯を食べに行った日であれば「何が楽しかったのか」「何がおいしかったのか」を書き、だんだんそれが習慣化していって、社会人になってからも続けていたら「自分は本当は何が好きで、何が楽しいのか。
旅先では「忙しい日常で忘れていた本音に気が付く瞬間がある」
宇賀:旅に向かう前から「何かをおもおう」と考えていたわけではなかったんです。私は純粋に旅が好きで、現地では「思いっきり食べて飲み、遊ぶ」と割り切って、そこでしか味わえない体験に集中しています。ただ、そうしてみると結果として勝手に思考が熟成されていくんです。忙しい日常で忘れていた本音に気が付く瞬間があるし、その余白があるから旅が好きなんです。
実は、新著のタイトルは当初、1か月毎に「3週間働いて1週間休む」のサイクルで海外にも頻繁に行けるようになったことから、地球を舞台にした「ちきゅうがたび」を考えていました。ただ、前著と同じくタイトルを考えてくださった放送作家の小山薫堂さんが「『ちきゅうがたび』だと“どこに行って何をした”の旅日記としか思われないのでもったいない。地球を舞台に何を思ったのかがテーマのエッセイだから『おもうがたび』がいいんじゃないですか」と提案してくださったので、私も納得して変更しました。
――収録された国内外40か所のうち、ベトナムは人生の転機となった場所だそうですね。テレビ局を辞めてフリーランスとなるきっかけを与えてくれた国に旅番組『アナザースカイ』(日本テレビ系)で再訪されて、現地では「焦らなくていい」と気が付いたと振り返っています。
宇賀:初めてベトナムを訪れた当時、昼間から地べたに座りながらおしゃべりしている現地の方々や、お店を開けているのにソファでくつろいでいる店員の方を見て「私もそろそろ働き方を変えてもいいのではないか」と思い、テレビ局の退職を決めたんです。
約5年ぶりに人生を変えてくれた国に再訪するにあたって、番組のこともあったので当初は「何かを見つけて、決めなければ」と思っていました。ただ、いざ現地に行ってみると「今まで、何かを決めようとして動いたことはなかったよね」と気が付いたんです。常に流れに身を任せるままだったと思い出して、「このまま進んでいけばいい」という答えにたどり着きました。
――ベトナムを再訪したのは2023年4月でしたが、その後は行かれたんですか。
宇賀:定期的に足を運んでみたいとは思っていますが、まだ行っていません。私の旅は「ノールールがルール」になっていて、先々を決めてしまうと、ただのスタンプラリーになってしまうと思っているんです。好きなときに気の向くままに動けるのが旅のよさですし、そのためにフリーランスとしての生活を軸にした自由を重視しています。
人生初の決断“家の購入”で変化「旅をすることに似ていた」
宇賀:読んでいただけたら、タイトルの意味も理解してもらえると思っています。私にとってはテレビ局からの退職も、結婚も離婚もすべてが大切な思い出なんです。新著でも「自分は幸せだな」という素直な気持ちで、書きたいと思ったエピソードでした。
離婚発表の当時は友人から「私も離婚したいんだよね」と相談もけっこう寄せられたんですが、私自身は離婚を肯定も否定もしたくありません。ただ、私の場合は「こうだった」と伝えることには意味があると思ったんです。元夫も新著を読み、長文で感想のメッセージを送ってくれました。優しくて少しユーモアもある、彼らしい心に残る文章でした。
――最後のエピソードでは、人生で初めて家を購入されたと明かしています。この記事の時点では半年ほどが経過して、日常生活での変化はいかがですか。
宇賀:仕事でも遊びでも飛び回っているので、家は「せいぜいお風呂に入り寝られればいい」程度の感覚だったんです。ただ、2026年6月で40代にさしかかるのを考えて「自分の好きなものだけを集めて、本当に心ときめく暮らしに挑戦してみたい」と思って、購入しようと決めました。
中古マンションの一室をリノベーションし、壁の色や素材は自分の好きなものを選びました。家具もベッド以外はすべてアンティークで、半年かけて揃えたんです。今後もむこう2~3年かけて、自分の納得するもので空間を固めたいと考えていて。一つひとつのアイテムが作られた時代や原産国に目を向けるのは「旅をすることに似ている」と思っています。
――40歳を目前にして書き終えた新著では「人生もいよいよ後半戦に突入する」と意気込んでいました。これからの生活には、何を期待されていますか。
宇賀:結局、自分の人生を面白くするためには「自分で頑張るしかない」と考えています。40歳は「まだ若いし、人生を悟るには早い」と言ってくださる方もいますが、単純な時間や年数ではなく、これまでの40年とこれからの40年では、感覚として時間の進み方が早くなると思うんです。
あっという間に過ぎるのであれば1日たりとも無駄にしたくないですし、「タイム・イズ・マネー」ではなく「タイム・イズ・ライフ」を大切にして、やりたいことはどんどん前倒しに実現しながら、心のおもむくままに旅も続けていきたいと思います。
<取材・文/カネコシュウヘイ 撮影/荒熊流星>
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