(台北中央社)25~27日に東京都内で開かれた「東京国際合唱コンクール」で、会期中に中国の参加団体から圧力がかかり、最終日には会場内に掲げられた国旗の撤去や、台湾の合唱団が「チャイニーズタイペイ」の団として紹介されるのを余儀なくされた。外交部(外務省)や台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)が、中国側や主催者に抗議を寄せる事態にも発展した。
コンクールを主催する一般社団法人東京国際合唱機構の代表理事、松下耕さんは30日、訪問先の台北市内で中央社のインタビューに応じ、経緯ややるせなさ、「歌に国境はない」との思いを話した。

コンクールには台湾から8団体が参加した。中国からは5団体(香港を除く)が参加し、このうち3団体が27日に行われるフォルクロア(民族音楽)部門や、各部門の勝者によるグランプリコンクールに参加することになっていた。3団体はいずれも児童合唱団だった。

松下さんや同法人の理事、梶山絵美さんによれば、コンクール初日は何事もなく終わったものの、2日目の26日になって中国の参加団体の関係者が会場内の受付を通じ、国旗と呼称に関する要求を伝えてきた。話を進めていくうちに、参加団体の一つが中国共産党との関係が強く、他の中国の団体に対し「このまま国に帰ったら子どもたちが攻撃されるかもしれない」などといった内容を伝え、27日に出場する3団体が連携して要求してきたことが分かってきたという。

一方で松下さんは、中国の団体の指揮者は「台湾の旗を降ろさなかったらボイコットする」と言いながらも残念そうな顔をしており、本意ではないという色も見えたと明かした。

台北駐日経済文化代表処からの抗議もあった。解決の糸口は見つからず、26日夜には一度は中国側が翌日の参加を取りやめることになった。だが松下さんは「子どもたちに罪はない」「歌に国境はないはず」との思いから、かねてより親交が深い台湾の合唱団に理解を求め、承諾を得た。松下さんはこれまでに合唱の仕事で何十回と台湾に来ている一方で、中国の合唱団とは20年ほど一緒に仕事をしていないと付け加えた。

27日は、台湾や中国を含めた全ての参加国の国旗が会場からなくなり、台湾の合唱団が入場する際には「チャイニーズタイペイ」としつつも、司会者が紹介をする際に、何らかの形で「台湾」という言葉が入れ込まれた。
この対応について松下さんは「全く納得がいっていない」としつつも、「歌に国境を作ることの方が敗北だと思った」と話し、最終的に予定していた合唱団全てがステージに上がれ、拍手を送り合えたことが良かったと振り返った。

松下さんらはインタビューの最後に、参加者が練習会場と本番会場を行き来する際に乗る貸し切りバスの写真を見せてくれた。そこには「国境を越え 私達は一つ 平和の歌よ 晴海に響け」(晴海は会場の第一生命ホールがある地名)と書かれており、松下さんは「これが主催者の偽らざる理念です」と話した。

(田中宏樹)
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