コンクールには台湾から8団体が参加した。中国からは5団体(香港を除く)が参加し、このうち3団体が27日に行われるフォルクロア(民族音楽)部門や、各部門の勝者によるグランプリコンクールに参加することになっていた。3団体はいずれも児童合唱団だった。
松下さんや同法人の理事、梶山絵美さんによれば、コンクール初日は何事もなく終わったものの、2日目の26日になって中国の参加団体の関係者が会場内の受付を通じ、国旗と呼称に関する要求を伝えてきた。話を進めていくうちに、参加団体の一つが中国共産党との関係が強く、他の中国の団体に対し「このまま国に帰ったら子どもたちが攻撃されるかもしれない」などといった内容を伝え、27日に出場する3団体が連携して要求してきたことが分かってきたという。
一方で松下さんは、中国の団体の指揮者は「台湾の旗を降ろさなかったらボイコットする」と言いながらも残念そうな顔をしており、本意ではないという色も見えたと明かした。
台北駐日経済文化代表処からの抗議もあった。解決の糸口は見つからず、26日夜には一度は中国側が翌日の参加を取りやめることになった。だが松下さんは「子どもたちに罪はない」「歌に国境はないはず」との思いから、かねてより親交が深い台湾の合唱団に理解を求め、承諾を得た。松下さんはこれまでに合唱の仕事で何十回と台湾に来ている一方で、中国の合唱団とは20年ほど一緒に仕事をしていないと付け加えた。
27日は、台湾や中国を含めた全ての参加国の国旗が会場からなくなり、台湾の合唱団が入場する際には「チャイニーズタイペイ」としつつも、司会者が紹介をする際に、何らかの形で「台湾」という言葉が入れ込まれた。
松下さんらはインタビューの最後に、参加者が練習会場と本番会場を行き来する際に乗る貸し切りバスの写真を見せてくれた。そこには「国境を越え 私達は一つ 平和の歌よ 晴海に響け」(晴海は会場の第一生命ホールがある地名)と書かれており、松下さんは「これが主催者の偽らざる理念です」と話した。
(田中宏樹)