佐藤純一さん、yuxuki wagaさん、kevin mitsunagaさんという3名のサウンドクリエイターに、女性ボーカリストのtowanaさんを加えた4人組ユニットのfhána。

2013年夏にアニメ『有頂天家族』の EDテーマ「ケセラセラ」で鮮烈なメジャーデビューを飾って以来、4クール連続でテレビアニメの主題歌を担当。


独自のエッジを効かせたサウンドメイキングと towanaの伸びやかな歌声で存在感を増しながら、今年の夏にはデビュー1年にして早くもアニサマこと「Animelo Summer Live 2014 -ONENESS-」の舞台を踏んだ。今回のアニサマの中で新たに大きく株を上げたのはfhánaだという声もある。

そして10月から放送されているテレビアニメ『天体のメソッド』ではEDテーマ「星屑のインターリュード」を担当し、タイアップ作品の世界観とのマッチングを一段と深めたサウンドでアニソンシーンに新たな境地を見せようとしている。

fhana「星屑のインターリュード」 (TVアニメ『天体のメソッド』ED主題歌) MUSIC VIDEO

まだ動画投稿サイトのない時代からいち早くインターネットでの楽曲発表を行い、FLEETとしてメジャーデビューした佐藤純一さん。ボカロPが中心のクリエイティブサークル・s10rw(ストロウ)のメンバーとして、ニコニコ動画などで活躍してきたyuxuki wagaさん。そして電子音楽ソロプロジェクト・Leggysaladとして、ネットレーベルから作品発表をしてきたkevin mitsunagaさん。


「ネット3世代」のサウンドプロデューサーと成長し続ける歌姫が紡ぐ音楽は、これからどのような展望を見せていくのか。アニサマや最新シングルの話もうかがいながら、その心境に迫った。

取材・構成 山中貴幸

インターネット3世代の出会い
「インターネット3世代」が見せる、アニメと音楽の新たな境地とは? fhanaインタビュー

──まずは、fhánaというユニット結成の経緯を、改めて聞かせてください。

佐藤 僕は2004年くらいからインターネットにフルで曲をアップしたりしていて、それが当時のSNSで広まったりして、やがてFLEETとしてメジャーデビューすることになりました。

それからTwitterが流行り始めたころ、FLEETを聴いてくれていたyuxuki君からリプライが来たことで知り合い、当時僕もボーカロイドに興味があったのでボーマス(THE VOC@LOiD M@STER)という同人イベントに行ってみたらすごく面白くて、そこで一つの世界がバーっと開けたんです。

kevin君はLeggysaladを共通の知り合いから紹介されて、ネットで曲を聴いて格好良いなと思い、ライブを見に行ったことがきっかけでした。
そこではまだバラバラでしたが、なんとなくTwitterで相互フォローしていたんですね。

そんな中、2.5Dというストリーミングスタジオのオープニングイベントで僕らがみんな出演する機会があり、その準備の後で男3人がようやく一堂に会して。

──そこで、インターネットで活動してきた3世代が揃うんですね。

kevin 音楽の好みも近かったし、みんなアニメも大好きで。

yuxuki そう、メイド喫茶で『CLANNAD』の話で超盛り上がったりして(笑)。

佐藤 世代は違うけど、音楽性もわかりあえて共通の趣味で盛り上がれる。
この3人でやったら面白いかも、と思ったのが結成のきっかけですね。

最初は曲ごとにゲストボーカルをお招きしていたんですけど、その中で、yuxuki君が前にやっていたバンドのボーカルだったtowanaにも参加してもらったら、彼女のボーカルとの相性がすごく良かったので、正式メンバーになってもらおうということで、今のメンバー構成になりました。

fhánaの感じたアニサマ、そこから見えるライブ観

──デビューされてから4クール連続でアニメ主題歌を担当されて、この夏はアニサマやランティス祭りなどの大型フェスイベントにも出演されましたね。ステージを振り返ってみての心境はいかがですか?

佐藤 今まで何万人という人の前で演奏したことがなかった中で得たものが2つあって。対お客さん、外に対する意識がより高くなったことと、同時に自分には何が得意で何が苦手かとか、自分自身を深く考えるきっかけになったと思います。よりパーソナルな方向に気持ちが動いていったみたいな。


──自分自身に対する発見を、あえて具体的に言葉にすると何でしょうか?

佐藤 こう言うと語弊があるんですけど、自分はライブより家やスタジオで作業してる方が向いているというか。fhánaをやる前のFLEETでは自分がフロントボーカルでしたが、その頃からライブ苦手だなあと思っていて。

fhánaでは演奏者なのでもう少し気楽なポジションというか、ライブ中も俯瞰できてやりやすいなと思っていたんですが、ライブが続いてみるとそんなに向いてないなとすごく思ったんです。

──いきなり意外なお話ですね。では逆に、メンバーの中でライブが得意な方は?

yuxuki 僕は元々バンドでライブばかりやってきたので、ライブが続くと楽しいですね。規模が大きくなるにつれて見える景色が変わってきて、1年前のデビュー当時より聴いてくれる人が増えたなという実感はすごくあって。
たぶん来年はそういう場がもっと増えていくので、最近のライブ体験を通してよりモチベーションが高くなっていっています。

佐藤さんも、実はライブへのモチベーションはめちゃくちゃ高いんですよ(笑)。

佐藤 それはもちろん! やりたくないというわけではなく、やるからには良いライブをしてお客さんを満足させたいしアッと言わせたい気持ちがすごくあります。

それに、苦手意識があることと、実際に向いているかどうかはまた別ですからね。むしろ自分自身を含めてfhánaのライブはどんどん良くなってます。それでもっと良いライブをする為には、まずは己を知る必要があるんじゃないかなって。


yuxuki 僕にとってはアリーナって自分の想像より大きかったんですけど、それを通してもっと気楽に楽しもうと思えるようになりました。ランティス祭りではけっこう自然体にやらせてもらい、素の状態のfhánaをもっとお見せできたらいいなと。

──フロントに立つtowanaさんはどうですか?

towana 夏の大きなライブをやる前は自分がお客さん状態だったというか、「fhánaを知らない人たちの前に出たらどう思われるんだろう?」とか、評価を心配していた部分があったんです。

でもどんどん大きいところでやらせてもらうにつれて、「私が届けます、見てください!」みたいにドンとしてなきゃいけない、そういう課題が見つかりました。

──アニサマの会場、さいたまスーパーアリーナはどうでしたか?

towana もうゲネプロ(リハーサル)のときから遠すぎて。後ろの方のお客さんの顔とか絶対見えないしどうしようと思って、本番直前は今までに経験したことがないくらい緊張していました。いつもは普通にみんなと喋ったりしているんですけど、アニサマでは部屋の隅っこで深呼吸したりとか(笑)。

でも出てみたら人が多すぎて、良い意味でわけがわからなくなり、「意外とできるな」と思って。本番中はけっこう楽しかったです。

yuxuki 結局、出てみたらやることは同じなんですよね。

佐藤 例えばプロスポーツの試合をテレビで映像を通して観ると、とてつもなく凄いものに見えるんですけど、現場で観戦すると意外と「体育の授業の延長にある」と感じるように。

大規模なアリーナでのライブも、ライブハウスでのライブとやることは変わらないですよね。逆に巨大なイベントだからこそ、ゲネプロなどを通して「自分たちと同じ人間が大勢でつくっているんだ」と感じられたというか。テレビで外から観るとすごく抽象的なんですけど、ある意味学祭のような雰囲気もありました。

yuxuki 逆に小さいライブハウスだと、目の前のお客さんの反応が見えてしまって、 1人が冷めているのを見ただけでテンションが下がってしまうこともあると思うんですよ。アニサマくらいの規模になると、「盛り上がっている」という情報が塊になって伝わってくる。だから会場の規模によって良い面と悪い面の両方があると思います。

──kevinさんはライブをどうとらえていますか?

kevin 僕は佐藤さんに近くて、ライブでリアルタイムに表現するよりも、もともと緻密に構築したものを家でつくっている方が性に合っているみたいな所があります(笑)。

でもライブにいろいろ出させていただいた結果、その場にいないと共有できない気持ちのようなものを感じることができて。足を運んできてくれたお客さんに「一生ものだなあ」と思ってもらえたらいいなあと思えるようになりました。あとは大きい会場でのパフォーマンスを通じて精神的にタフになりましたね。

──kevinさんのライブでの立ち位置は非常に独特ですよね。

kevin Macと、グロッケン(鉄琴)と、小さいシンセサイザーとを鳴らしていくのは、バンドという形式の中でもあまりいないポジションだと思います。最初は機材はもっと少なかったんですけど、無理なくやれることを増やせないかなと考えた結果そうなって。あんな風に前と左右を機材に囲まれている人ってあまりいないですよね(笑)。

yuxuki kevin君はエレクトロニカの人なのに、ライブに入れる音はクラシカルなものが多いんですよ。

佐藤 実はkevin君のグロッケンやミニシンセ、さらには蝶ネクタイは僕がプロデュースしたものです(笑)。僕が思うに kevin君は、fhána の特異な雰囲気、雑食なところのシンボル的な役割を担っていると思うんですよね。僕とyuxuki君はオーソドックスに演奏をして、 towanaも普通に歌をうたっているので、この 3人だけだと視覚的には普通のバンドだと思うんです。

でも kevin君がいることで「fhánaはちょっと違うぞ?」と思ってもらえる。それを視覚的にお客さんに伝える役割を担ってますね。演奏面での貢献は……まあこれから(笑)。

kevin 頑張ります(笑)!

──上げて落としましたね(笑)。

90年代J-POPをアップデートした「星屑のインターリュード」

──今回のシングル「星屑のインターリュード」のお話をいただいたのはいつ頃でしたか?

yuxuki 5月頃じゃないですかね、夏のライブまでに9割方できていましたよね。

──タイアップ作品『天体のメソッド』のお話をいただいたときの感想はどうでした?

佐藤 脚本の久弥直樹さんがKeyというゲームブランドにいた人で、fhánaの男3人が好きな『kanon』などのゲームシナリオを書いていらっしゃった方なので、間違いなくfhánaに合う作品になると感じていました。

kevin 正直めちゃくちゃ嬉しかったですよ。

yuxuki 「オリジナルで久弥さん? マジっすか!? 」みたいな。

towana すごいことだよね。

佐藤 今回の『天体のメソッド』はオリジナルアニメなので、今までのタイアップみたいに原作を通して作品を理解するのではなく、途中までのシナリオや資料を見ながらの制作でした。

そういう違いはありましたけど、脚本が久弥さんワールドなので、Key作品好きとして集まったメジャーデビュー前のfhánaが自主制作でやっていたことに通じるものがあったので、すんなり入っていけたのはあります。

──towanaさんはいかがでしたか?

towana まず女の子が可愛いことが嬉しくて。一方でシナリオはかなりシリアスで、fhánaの音楽の真面目なところが合うんじゃないかなと思いました。

──『天体のメソッド』の作風は、 OP曲を手がけているのが数々のノベルゲームに携わってきたI'veの高瀬一矢さんというのもあり、2000年代のノベルゲームを思い出させる部分もあると思います。

佐藤 少し懐かしい感じはしました。でも2000年代前半のノベルゲームっぽい、例えばKeyの世界観の曲をそのまま再現するのも違うので、もう少しさかのぼって、自分が思春期のころに流行っていた90年代初期のJ-POPの記憶とそのキラキラ感を呼び起こしながら作曲していきました。

そこでも 90年代J-POPをそのままやるとダサくなってしまうので、アレンジで2014年のfhánaとしてアップデートしていく過程には時間がかかりましたね。具体的にはリズムをもっと生身の、ブラックミュージック寄りのハネたベースラインにしたりとか、ストリングスのアレンジもディスコソウル的な速いフレーズが歌と歌の合間に入ってくるようにして。

仕上がりは爽やかで哀愁ただようfhánaっぽい感じですけど、リズムはけっこう黒いノリで。あとスパイス的にダブステップ的なパターンや、EDMっぽいシンセパッドを使ったりとか。それらを不思議なバランスでまとめて、fhánaっぽい音楽にできたかなと思います。

──一方でボーカルのメロディは、それこそ90年代J-POP的な、爽やかさと切なさの同居する仕上がりになっていますね。towanaさんは歌われてみた感想はいかがですか?

towana 今までのfhánaのバンドサウンドと曲調が違って、こういう細かいリズムの曲を歌ったことがなかったので、合わせるのがすごく難しかったですね。

──ではけっこう歌い方の指示は入ったんですか?

towana それはあまりなかったんです。

kevin 今までの積み重ねで、言わずとも伝わる部分がありますよね。

towana ここはこういう風に歌ってほしいんじゃないかなと、だんだんわかってきた部分はあります。

アニメ作品との一体感を増していくfhánaのサウンド
──『天体のメソッド』はED曲も演出の一環として用いられていますよね。アニメーションの本編終盤からイントロがかかり、ED入りと共に曲の音圧が上がるようになっていて。元々こうした指定があったのでしょうか?

佐藤 それを前提につくって、結果イントロが長くなり、実際に放送される全体的な再生時間も長い曲になりました。そういう風に曲を使ってもらえるのはありがたいことですね。

yuxuki 名誉なことだし、今までより深く作品に関われたと思います。

──アニメ第1話はかなり切なさを強調したシナリオで、長めの尺を用いて登場キャラの乃々香とノエルのすれ違いが重たく描かれていました。そんな中であの ED曲と映像を見て、「次も観よう」とポジティブに興味を惹かれた人も多かったかもしれません。

佐藤 しんみりしたシナリオに対してEDがゆったりしたバラードだとベタになってしまうかなと思ったので、あえてEDにしてはアップテンポな曲調にして、切なさを際立たせるというか。歌詞も楽しい歌詞ではないんですよ。別れを表現したシリアスな歌詞が、曲とのコントラストでより心に響くように。

──実際に本編をご覧になられた感想はいかがですか?

yuxuki めちゃくちゃ良かったです。

kevin みんな一緒に観ています。第1話は僕の家で見て、第2話はスタジオのテレビで。

佐藤 実はあえて先のシナリオを読んでいないから、視聴者の皆さんと同じ目線で楽しんでいます。

──台本などはいただいているんですよね?

towana もらっているんですけど、結末を知ってしまうのがもったいなくて。途中までは曲のために読んでいるんですけど、そこから先は一緒に楽しみたいんです。

kevin 僕たちみんなアニメ大好きっ子なので。あとは EDのアニメーションもめちゃくちゃ良い絵をつけていただいて、その凄さにも感動しました。

──これまでのタイアップ作品でも、一緒に観ることは多かったですか?

佐藤 かなりあります。

yuxuki 第1話のときはたまたま一緒にいる率が高いんですよね。その流れでみんなで観ようってなります。

──その場で感想を言い合ったりしますか?

yuxuki いや、みんなTwitter……(笑)。

towana 放送後はみんな無言でTLを追っています。「ハッシュタグ盛り上がってる!」とか。

kevin 4人で「良かったねー」とか言い合うのはほどほどにして、反応がどうかなーと(笑)。

──fhánaさんらしいですね(笑)。

towanaから見た、メンバー3人
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──今回ぜひともtowanaさんにおうかがいしたいことがあります。

towana はい。

──男性メンバーのお三方がtowanaさんについて語られていることはありますが、逆にtowanaさんからは男性メンバーの皆さんはどう見えていますか?

towana うーん(笑)。音楽的にはみんな凄いから尊敬しているんです。最初にメロディとドラムパターンのシンプルな音源をもらって、そこにみんなのアレンジが加わっていくのを一番近くで見ているので、「すごい!こういう風になっていくんだ!」と楽しく聴きながら、同時に尊敬しています。その他のこと……って何を言えばいいんですか?

yuxuki じゃあkevin君の印象から。

towana kevin君はね……ライブの時の煽りとか盛り上げ役を、もっと頑張ってほしい。

(一同爆笑)

──リアルな指摘が(笑)。

towana いや、kevin君にしかできないんですよ! 他の2人は常に演奏しているから。

kevin 僕は合間合間で煽ったりとか、そういうことがしやすいんですよね。

towana せっかく目立つんだから、kevin君も今よりもっとやってくれれば……もっとうまくやれるよう、 2人で研究していきたいなと思います。

kevin わかりました(笑)。

──ではyuxukiさんについて。

towana waga君は……痩せたよね(笑)。あとは、不思議な縁だなと思います。waga君とバンドをやっていなかったら、こうしてfhánaをやることもなかったので。

──ではリーダーの佐藤さんは?

towana リーダーには、私から言えることなんてないんですけどね。kevin君にはすごく言いやすいんだけど(笑)。リーダーが一番年上で、いつもみんなの指導役というか、導いてくれる立場なので。印象としては……いま話を聴いていると、こういう手(手首を90度に曲げた状態)をよくするなーって(笑)。

佐藤 全然気付いてなかった(笑)。

「インターネット3世代」が見せる、アニメと音楽の新たな境地とは? fhanaインタビュー


yuxuki よく見てますね。

佐藤 言いたいことが、ろくろの位置(身体の正面)じゃなくて、手の部分にあるんでしょうね。

towana ……とか、色々と独特なんですよね。何をやるにしても。こだわりが強くて、自分の音楽に求める水準も高いから、曲もこういう緻密な仕上がりになるんじゃないかなって。

──ありがとうございます。では、towanaさん自身の、ボーカリストとしての今後の目標はありますか?

towana もっとドンと構えていたいなというのはあります。レーベルの先輩ではJAM Projectさんや栗林みな実さんに憧れていて、ステージでの落ち着きがすごい。いつも通りのことをやっているのに格好良い、そういう歌い手に私もなりたい。でも憧れの人にはなれないので、私に合った方向で上達していければなという気持ちです。

ネット3世代が語る、音楽の変化と展望
──fhánaの皆さんは、それぞれ異なる世代でインターネットを通じた音楽発表をされてきて、現在の活動に至っています。そんな皆さんから、今のネットと音楽の関わり方を見て、何か変化を感じることはありますか?

佐藤 インターネットの普及で人々の価値観が多様化したと、よく言われていますけど、僕は意外と人々が望んでいることや、願いの本質的なことは、あまり変わらないんじゃないかなと感じています。昔の人も、今の人も、外国の人も、そんなに変わらない。

ただそれを伝えるためのルートが今は複雑になっていて、直接的に回路を通すのが難しい。だから端的に言えば、音楽を誰かに伝えることの難しさって人と人とが分かり合うことの難しさと同じだと思うんです。Twitterなんかとくにそうですけど、例えば、同じ内容でも言い方1つで伝わり方は変わるし、誰が言ったかでも受け取られ方は変わってしまう。

そんな中でアニメは一つの突破口だと思うんです。アニメ作品を媒介することによって、クリエイターとお客さんがつながって伝わることは多いので。クリエイター同士もそこでつながれるし、お客さん同士もネットでアニメの話題で盛り上がれますからね。初音ミクとかもそうですけど、もはやアニメは単なるコンテンツではなく、沢山の音楽を人々に接続するハブみたいなものになっているんじゃないかと。こういう変化をもたらしたのがインターネットですよね。

──ボカロPとして楽曲を発表されていたyuxuki さんはいかがですか?

yuxuki 例えば動画投稿サイトに曲をアップすると、ほぼ再生数とコメントで反応を確認する形になるので、誰か個人に伝えるための発表というよりは「つくったから自由に見てね」という感じになりますよね。不特定多数の人に向けて発信しているというか。

とは言いつつも、直接リプライをくれたりする人もたくさんいらっしゃいますし、そういうときは1対1の関係になるので、ライブやCDとは別の形で一人ひとりに何かを残していけたらなと思います。

──お2人より少し後の世代として、ネットレーベルで作品を発表していた kevinさんはいかがですか?

kevin 僕はこの中で世代的に一番若くて、高校生の頃にはもう動画投稿サイトがあったので、あまり変化を強く感じはしないですね。

でも人々が誰でも簡単に発信者になれるようになって、それこそネットレーベルは金銭的な利益を目的としていないことが多いので、音源ファイルを配った瞬間から表現者になれるので、創作へのハードルが下がったのかな、とは何となく感じていますね。

佐藤 誰でも曲がつくれて誰でも作品が発表できるのは、理想的ではあるのかもしれないですけど、敷居が低くなることの悪い面もあると思うんですよ。その環境にいるユーザーの趣味嗜好に合わせて作品がつくられて、そこでの再生数やクリック数が多くなることが正義になっていく部分もあって。

──ジャンル問わず、創作物を投稿するサイト等でよく起こる現象ですね。そのコミュニティでの勝ちパターンが決まっていって、似たような作品ばかりになってしまう。

佐藤 コミュニティが新しいうちは良いんですけどね。だからある意味では、こういう音楽とか芸事では、狭き門の方が全体の質は高くなると思っています。コミュニティ内の流行とは別に、レコード会社なりプロデューサーなりが、それぞれ独自の感性で「これを推そう」と個人の意思を介入させて、リソースを割いてドーンと打ち出す力があった方が、多様性が増しますよね。

yuxuki きっと細かく見ていけば、良い作品をつくっている人もたくさんいると思うんですけど、大きな流れの中で埋もれてしまっている気がします。今は再生数がないとなかなか目が行かないですから。

佐藤 そういうのを誰かがピックアップして育てるシステムが必要なのではないかと思います。人気のあるものは、それはそれでやっていくとして、いま人気がないものの中で面白いことやレベルが高いことは、誰か力のある個人やプラットフォーム側の人が取り上げていかないと花が開かない。もちろんどちらも良い面と悪い面があって、その時代ごとにやり方を考えていかないとなと思います。

──意外というか、SNSをフル活用されているfhánaの皆さんですが、そこは一歩引いて見られているんですね。

佐藤 そうは言いつつも、そもそもネットがなければ僕たちは知り合ってないですからね。

yuxuki むしろそこから出てきたからこそ言える部分もあると思います。良いこともあるけど、それだけじゃないと。

──そうした文脈を知っているとなお、fhánaが今後発信していくものに期待が高まっていく気がします。これからの展望はありますか?

佐藤 有り体に言えば、もっとたくさんの人に fhánaを特別な存在として認識してもらって、もっと大きな存在になっていけたら良いなと思います。今は結成して 3年、デビューして1年ですけど、一過性のものでなく 数十年・数百年先にも振り返ってもらえるような足跡を残していきたいです。