
太陽系の外縁部、「カイパーベルト」の外側で、興味深い複数の未知の天体集団が発見されたそうだ。
この発見は、ハワイ島マウナケア山頂域にある「すばる望遠鏡」とNASAの太陽系外縁探査機「ニュー・ホライズンズ」との協力によって実現したもの。
その長年の観測からは、太陽系外縁部にあるこれまで知られていなかった構造があることが明らかになりつつある。
こうした発見は、太陽系が誕生した「原始太陽系星雲」が想像以上に大きいものだった可能性を示唆しているほか、この宇宙で普遍的な惑星の形成プロセスを理解する手がかりになると期待されている。
太陽系の果てにある領域「カイパーベルト」
太陽系の一番外側にある海王星(30 au/1 auは地球と太陽の平均距離)から55 auの距離には、天体が密集した円盤状の領域がある。これを「カイパーベルト」(エッジワース・カイパーベルト)という。
火星と木星の間にある小惑星帯に似ており、太陽系が形成されたときの名残である点は同じだが、その範囲も質量もずっと大きい。
その一方、太陽から遠くとても暗い領域であるため、普通の望遠鏡でそこにある天体を観察するのは至難の業だ。
そんなカイパーベルトにある天体を人類史上はじめて間近で観察することに成功したのが、NASAの探査機「ニュー・ホライズンズ」だ。
2006年に地球から旅立った同機は、2015年にカイパーベルト内の冥王星を観察すると、2019年には雪だるまのような形をした小惑星「アロコス」に接近。
現在はカイパーベルトから抜け出し、太陽から60 au離れた外縁部の探索を続けている。
カイパーベルトの外側で新たな天体を発見
そんなニュー・ホライズンズに弱点があるとすれば、そこに搭載されているカメラの視野が狭いことだ。そのために自力でカイパーベルトの天体を探し出すことは難しい。
そこで出番となるのがもっと視野が広い「すばる望遠鏡」だ。
今回の国際的研究チームは、ハワイ島マウナケア山頂域にあるこの大型望遠鏡でカイパーベルトを観察し、ニュー・ホライズンズで観察できそうな天体の候補を探している。
その結果、2004~05年の観測で24個のカイパーベルト天体、2020~23年の観測で239個の太陽系外縁天体を発見。
その中には、カイパーベルトのさらに外側にある天体が11個含まれていた。
研究チームの吉田二美博士(産業医科大学、千葉工業大学惑星探査研究センター)は、国立天文台のプレスリリースで、その驚きについて次のように語っている。
「HSCによる観測で最もエキサイティングだったのは、既知のカイパーベルトを超える距離にある天体が11個も見つかったことです(吉田二美博士)
原始太陽系星雲は想像以上に大きかった可能性
カイパーベルトの範囲は30~55 auで、そこから先は天体がほとんどない空間となっている。
新発見された11個の天体は、その先の70~90 auの距離にある。つまりカイパーベルトの先には、これまで知られていなかった「天体群の谷間」があると考えられるのだ。
なおそのさらに先には「オールトの雲」という天体群があると考えられている。
もしこれが本当ならば、太陽系を作り出した「原始太陽系星雲」は、これまでの説よりもずっと大きかったことになるという。
研究チームは新たに発見された太陽系外縁天体の軌道を確かめるために、すばる望遠鏡で現在も観測を続けているとのこと。
こうした遠方の天体の存在やその軌道は、太陽系形成の歴史だけでなく、太陽系外惑星と比較することでより一般的な惑星形成のプロセスについて解明するヒントになるそうだ。
この研究は『Planetary Science Journal』に掲載される予定だ。またその未査読版を現在『arXiv』(2024年7月30日投稿)で閲覧できる。