
1986年8月31日、当時5歳だったレヴァン・メリットくんは、家族といっしょにイギリスのチャンネル諸島にあるジャージー動物園を訪れていた。
ゴリラを「もっとよく見たい!」と壁をよじ登ったレヴァンくんは、約6m下のゴリラの居住エリアに落下してしまう。
意識を失って動けなくなったレヴァンくん。そこに近づいてきたのは、たくましい巨体のオスのゴリラ、シルバーバックだ。その呼び名は成熟したオスの証として背に灰色の毛を持つゴリラを意味する。
なんとそのゴリラがレヴィンくんを守る行動をとったのである。おかげで彼は無事に救出された。
あれから38年が経過したが、彼は当時のことを振り返り、このように語っている。
ゴリラの囲いに落下した5歳の少年、ゴリラに守られて生還する
ゴリラに襲われてもおかしくない状況だったにもかかわらず、シルバーバックのゴリラに守られ、無事生還した少年のニュースは世界中に伝わった。
あの事件から既に38年が経過近くたったというのも驚きだが、ここでさらっとどんな出来事だったのか、当時の映像を見ながらおさらいをしておこう。
ウェスト・サセックス州ホーシャムで暮らしていたレヴァンくんは、この日家族とともにジャージー動物園を訪れていた。
当時、彼はまだ小さかったので、囲いに阻まれてゴリラがよく見えなかったため、柵によじ登って身を乗り出した。
するとレヴァンくんは足を滑らせて落下。頭を打って意識を失い、動けなくなってしまったのだ。
レヴァンくんの家族がパニックに陥る中、1頭の巨大なゴリラがレヴァンくんに近づいていく。
彼の名前は「ヤンボ(Jambo)」。体長は2m以上、体重は114kgを超える成熟したオスで、家族を率いるボス級のシルバーバックである。
見守る人々の間に恐怖が満ち溢れた。レヴァンくんがゴリラたちに襲われてしまうのでは?と言う恐怖だ。
誰もがそう思った瞬間、なんとヤンボは、優しくそっと手を伸ばすと、レヴァンくんの背中をゆっくりと撫で始めた。
そして他のゴリラたちからレヴァン君を守るように、レヴァンくんのすぐそばに座り込んだのだ。
やがてレヴァンくんは意識を取り戻し、大声で泣き始めた。
するとヤンボはレヴァンくんを怖がらせないように、自分の家族を引き連れてその場を離れて行った。
その隙に救急隊員と飼育員らが飛び降りてレヴァンくんを救出。彼は病院に搬送された。
頭蓋骨と腕の骨折で6週間の入院を余儀なくされたが、その後順調に回復していった。
ゴリラは小さな人間に対し思いやりの心を持っていた
それまでゴリラといえば、乱暴者のイメージが大きく、動物園でもあまり人気のある生き物とは言えなかったそうだ。
だがヤンボの行動は、ゴリラは知能が高く、優しく思いやりに満ちた生き物というイメージを、世界中に印象づける結果となった。
ヤンボは1992年9月16日、31歳で死亡したが、その生涯で5頭のパートナーとの間に、20頭もの子供を儲けたんだそうだ(うち3頭は死産)。
ジャージー動物園では、「ゴリラに対する一般の認識を変えるのに貢献した」ことを讃え、敷地内にヤンボの銅像を建て、彼の偉業を偲んでいる。
その後も少年と動物園の交流は続いていた
レヴァンくんは入院中に、自分とヤンボの映像を見てショックを受けたそうだ。
看護師の1人が、朝のテレビ番組でその映像を見ていて、私たちがその家族だと知って「これを見ましたか?」と尋ねて来たんです。
正直言って、あの時は自分が見ている光景が信じられませんでした
その後レヴァンくんは学校で、「ターザン」や「ゴリラ少年」といったあだ名をつけられ、いじめられたこともあったそうだ。
だがそれでも事件以来、彼とその家族はジャージー動物園とのつながりを保ち続け、ヤンボの銅像の除幕式には、レヴァンくんがテープカットを行ったそうだ。
さらに事件から20年が経った2006年には、当時彼を助け出してくれた元救急隊員の、ブライアン・フォックス氏とも再会を果たしたという。
あの少年も今では3児の父に
さて、現在43歳となったレヴァンくん、いや、レヴァンさんは、ウェストサセックスで木造建築の仕事に就き、愛する妻と3人の子供たちに囲まれて幸せに暮らしているとのこと。
下は2012年に撮影された、レヴァンさんと妻のアマンダさんとの結婚式の写真。
子供たちも動物が大好きで、いつの日か家族そろってジャージー動物園を訪れたいと語っているそうだ。
あの時、状況はどちらに転んでもおかしくありませんでした。ヤンボには永遠に感謝しています。彼が私を守ってくれたのは、素晴らしいことです。
私の人生は、ある意味ではゴリラの優しい心のおかげでここにあります。私はそのことを決して忘れません
アメリカでのゴリラ射殺事件には理解も示す
2016年5月28日、そんなレヴァンさんにとってもショッキングなニュースが世界を駆け巡った。
アメリカのシンシナティ動物園で、自分と同じようにゴリラの囲いの中に落ちた子供に近づいたゴリラのハランベが射殺されたのだ。
だがレヴァンさんは、この時の動物園側の判断を理解できると語っている。
アメリカの動物園でのビデオは、私に過去のあの出来事を思い出させました。男の子の気持ちもわかるし、ゴリラの気持ちもわかります。
では、射殺する必要があったのでしょうか? (ハランベは)きっと子供と比べたときの自分の力がわかっていなかったでしょうし、これまで囚われの身で生きてきて、人間の幼児に触れたこともなかったでしょう。
ハランベは男の子をつかんで、水の中をすごいスピードで引きずり回していました。4歳の小さな男の子なら、簡単にケガをしたでしょう。ですから動物園側の決断は正しかったのだと思います。
私の場合、ヤンボは何も悪いことが起こらないようにしてくれていたんです
また彼は、1986年と2016年の来援客の違いについても指摘している。
彼の時は周囲の人たちはおおむね落ち着いていたが、2016年のシンシナティ動物園では、人々は携帯電話で撮影しようとしたり、走り回って叫んだりしていた。
レヴァンさんは子供たちを地元の動物園によく連れて行くそうだが、「囲いの壁や柵には、あまり近づけないようにしています」とのことだ。
ゴリラの行動学
これらのゴリラと人間に関する出来事は、動物の行動を理解する上で様々な洞察を与えてくれる。
レヴァンさんを救ったジャンボの行動は本能的なものだったのか?それとも動物園を訪れる人間に対する特別な感情が働いたのか?
アメリカの動物園でのゴリラのハランベの行動は、果たして人間の子供を救おうとしていたのか?それとも排除しようとしていたのか?
動物行動学者たちの間でこれらの事例は今でも議論の対象となっている。
References: Gorilla ‘saved’ Levan Merritt when he was five — but he still thinks US zoo was right to kill Harambe[https://www.news.com.au/technology/science/animals/gorilla-saved-levan-merritt-when-he-was-five--but-he-still-thinks-us-zoo-was-right-to-kill-harambe/news-story/30f9ba3f8ef5482e5f82a4b65075ec46] / 37 years ago, Jambo the Gorilla made headlines all over the world[https://en.newsner.com/animals/30-years-ago-jambo-the-gorilla-became-a-worldwide-hero-after-saving-this-little-boy-amazing/]