
乾燥した時期になると猫を触ろうもんならピリっとしびれ、猫にも気の毒なことをしてしまうあの「静電気」。衣服を着たり脱いだり、エレベーターのボタンや車やドアの取っ手を触ったりしたときに、パチッと音がして痛みを感じるあの現象だ。
静電気の存在は大昔から知られていたが、以来2,600年以上もの間、科学者たちはこの奇妙な現象が発生する原因を探ってきたが、発生する理由は完全にはわかっていなかった。
だが最新の研究によって、その謎がついに解明されたという。その不思議な自然現象のメカニズムとは一体どのようなものだろうか?
静電気が発生するメカニズムは昔からの謎に包まれていた
静電気は大昔から人類によってすでに知られていた。 古代ギリシャの哲学者であり数学者のタレスは、毛皮を琥珀(こはく)にこすりつけると、毛皮が埃を引き寄せることに気づいた。もちろん静電気による作用だ。
冬になればセーターをパチパチと鳴らし、人によってはドアノブに触れようとした瞬間ピリッと来ることもあるだろう。猫や犬を触るときもそうだ。
下敷きを頭でこすると髪の毛が逆立って「スーパーサイヤ人」ごっこができるがあれも静電気によるものだ。
そんなとても身近な静電気だが、意外なことにそれが発生する正確な理由は今の今まで誰にもわからなかったのだ。
もちろん静電気が発生する条件ならよくわかっている。ただ2つの物質がこすれ合うだけだ。
これによって2つの物質の表面との間で電荷が移動する。これを「摩擦帯電効果」という。
問題は、なぜ摩擦帯電効果が生じるのかということだ。頭脳明晰なはずの科学者たちは、その背後にある詳しいメカニズムをうまく説明できなかったのだ。
静電気が発生する理由は「せん断弾性率」の違いにあった
その突破口は2019年、米国ノースウェスタン大学のローレンス・マークス氏らが切り開いた。
彼らは、2つの物質をこすり合わせると、その表面の微小な突起が変形することに気が付いたのだ。するとそれによって電圧が生じる。
では、その電圧からどのようにして電流が流れるのか? 今回マークス氏らはその謎を解くことに成功している。
パズルの最後の1ピースは「せん断弾性率」だった。
物体がこすれ合う時、その物質は摩擦によって変形しようとする。この変形に対する抵抗力が「せん断弾性率」だ。
この変形をくわしく見てみると、じつは物体の前方と後方ではせん断弾性率が異なっていることがわかる。
そのせいで、先ほど述べたミクロの突起の歪みが前後で異なることになる。だから物体の前方と後方で電荷と極性もまた違うものになる。
こうして電位差が生じることで、電気が流れるのである。
私たちが今存在するのは静電気のおかげかも?
ただしこの静電気発生モデルは、摩擦帯電効果のすべてを説明しているわけではない。だが、静電気が発生する仕組みにまつわる主な問題を上手に解決してくれるようだ。
こうした静電気の謎の解明には、非常に大きな意味がある。
普段あまり意識しない些細な現象に思われるかもしれないが、私たちの暮らしに大きな影響を与えているからだ。
製造業や風力発電などでは静電気の蓄積がトラブルの元になることがあるし、静電気の火花が火災を引き起こすこともある。
それどころか、私たちが今存在するのは静電気のおかげである可能性すらある。
宇宙をただようチリとチリが結びつき、地球誕生のきっかけが生まれたのは、静電気が接着剤として働いたおかげだからだ。
静電気は、単純かつ深遠な形で私たちの生活に影響を与えています」「静電気がどれほど私たちの生活に影響し、宇宙がどれほど静電気に依存しているかを知れば、きっと驚くでしょう(マークス氏)
というか乾燥体質なので、普通の人より静電気が起きやすいパルモの場合には、毎年冬になると猫をさわってバチバチさせて気の毒な思いをしている。
世界中の猫飼いが冬場に猫との接触で発生する静電気を集めたら、かなりの電力が補えるんじゃないかと思うんだけどどうだろう?
この研究は『Nano Letters』(2024年9月17日付)に掲載された。