シベリアで急増する巨大な穴は、メタン爆発によって形成されていた

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 ここ10年ほど、シベリアでは突如として巨大な穴(クレーター)が出現するという謎の現象が起きている。

 これまでの研究によると、気候変動の影響だとされている。

温暖化によって永久凍土が解け、それによって大穴が出現するというものだ。

 その後の周囲の調査からは、そのクレーターは爆発によって形成されることが明らかになっている。

 いくら気温が上がり、永久凍土が解けたからといって、なぜ爆発するのだろう?

 最新の研究では、これまで謎に包まれていたそのメカニズムがついに解明されたかもしれない。

シベリアで相次いで出現した巨大な穴の背後に爆発があった

 2014年、シベリアのヤマル半島で奇妙な穴が突如として出現。それ以来、この地域では同様のクレーターが続々と出現するようになった。

 そうしたクレーターは控えめにいっても大穴だ。中には深さ50mに達するものもある。

 だがそのような大きな穴が、なぜいきなり形成されるのか? その周辺の様子からは、どうも何らかの爆発によって形成されたらしいことが発見された。

 厄介なのは、その周辺では異常に高濃度のメタンが検出されていることだ。

 メタンは二酸化炭素の何十倍もの温室効果があるとされる。もしもこのクレーターから大量のメタンが放出されているのだとすれば、それによって温暖化はますます加速することになる。

 またクレーター自体、その背景には気候変動(温暖化)の影響があると考えられている

 だが爆発的な現象が関係するとなると、ただ暖かくなって永久凍土が解けたという説明では不十分だ。

何かそれとは別のメカニズムが働いているはずなのだ。

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物理的に引き起こされた爆発である可能性

 新たな研究では、その謎に迫っている。

 それによるならば、この地域特有の地質と地球温暖化が特定の条件のもとで組み合わさると、メタンの爆発的な放出が引き起こされると考えられるという。

 スペイン科学研究高等評議会の地球物理学者ジュリアン・カートライト氏は、「爆発が生じる仕組みは2つしかありません」と、プレスリリースで語っている。

 1つは「化学反応」だ。例えば、ダイナマイトの爆発は、化学反応によって引き起こされる。

 もう1つは「物理反応」だ。例えば、空気入れでタイヤにいつまでも空気を入れ続ければ、いずれは破裂する。これが物理的に引き起こされる爆発だ。

 ではシベリアのクレーターは、どちらなのだろうか?

 これまでの調査では、化学反応が起きたという証拠は見つかっていない。ならば物理的に引き起こされた爆発である可能性が濃厚だ。

メタン爆発の引き金は浸透作用

 今回の研究チームの主張によれば、クレーターの空気入れに相当するのは「浸透作用」であるらしい。

 浸透作用とは、流体が移動して、そこに溶けている物質の濃度が等しくなるプロセスのことだ。

 この作用が、ヤマル半島の特殊な地層と特定の条件で組み合わさると、メタンの爆発的な放出が起きるのだ。

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 ヤマル半島の地面はいくつかの層によって覆われている。一番上にあるのが「活動層」と呼ばれる層だ。ここは季節によって、解けたり凍ったりを繰り返す。

 その下には、年間を通して常に凍っている「永久凍土層」がある。その厚さは180~300mで、通常なら浸透作用を防いでいる。

 そのさらに下には、メタンが水とくっついて氷のようになった物質、すなわち「メタンハイドレート」の層がある。こちらも通常は、低温と高圧のため安定している。

 場所によっては、永久凍土層の中に「クライオペグ(Cryopeg)」と呼ばれる特殊な層が形成されているところがある。これは高濃度の塩分と高圧のために凍らず、液体のままの層だ。

 今回の研究によれば、気温が上昇して活動層があまりにも広く解けてしまうと、浸透圧の影響で解けた水がクライオペグにまで染み込んでくるということだ。

 ここには解けた水を蓄えておけるだけの余分なスペースがない。

そのために、染み込んできた水のせいで圧力が上昇し始める。すると地下に亀裂ができる。

 亀裂がやがて地上にまで達すると、地下の圧力が急激に低下する。その結果、メタンハイドレートが不安定になりメタンガスが放出される。そして最終的に空気を入れすぎて破裂するタイヤのように、爆発が起きるのだ。

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 研究チームによると、こうした爆発が起きるまでには数十年はかかると考えられるという。

 地球温暖化が1980年代以降に加速したことを考えれば、現在起きていることと一致しているとのことだ。

 このメタン爆発はそう頻繁に起きるようなことではない。だが放出されるメタンの量を考えれば、地球温暖化に大きな影響を与える可能性があると研究チームは警鐘を鳴らしている。

 この研究は 『Geophysical Research Letters』(2024年9月26日付)に掲載された

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