
ナマケモノが機敏に見えるレベルの遅さ。100年経っても終わらない世界最長の実験をご存じだろうか。
この実験が始まったのは1930年。それから現在までおよそ100年続いているが、その終わりはまだ見えず、さらに100年続く可能性があるという。
並外れた実験期間の長さから、ギネス認定されてるこの実験は、世界で最も粘度の高い液体として知られる「ピッチ」という樹脂の流動性と粘度の測定を目的としたものだ。
1930年に始まったピッチドロップ実験
1927年、オーストラリアの物理学者トーマス・パーネルがクイーンズ大学で考案したというその実験は、ピッチと呼ばれるタールの派生物であり、流動性と高い粘性をもつ樹脂の測定を目的にしたもの。
ピッチは世界で最も粘度の高い樹脂として知られており、かつては船の防水素材に使われていた。
ちなみにこの実験、下準備からしてけっこう時間がかかったそう。
まずパーネルは、ガラスの漏斗に加熱したピッチのサンプルを注ぎ、それを安定させるために3年間も冷した。そして1930年にやっと漏斗の先を切り、ピッチが滴り落ちるのを待ち始めたという。
最初の滴が落ちるまで8年
この実験は特定の環境下ではなく、ありふれた環境を前提にしたもので、ピッチは展示用のキャネットに保管されている。つまりピッチが流れる速度は季節の温度変化に左右される。
おそろしく時間がかかるこの実験は、パーネルの死後、同大学の科学者ジョン・メインストーン教授(2013年死去)が引き継いだ。
メインストーン教授は52年間にわたりこの実験を管理した。その間、ピッチは途方もなくゆっくりとしたペースで漏斗から滴り落ちていった。
そのペースたるや、ナマケモノが機敏に見えそうなぐらいにスロー。なにしろ最初の滴が落ちるまで8年、次の5滴が落ちるまでに40年以上もかかったんだそう。
10年以内にまた1滴?実は誰も見ていない落下の瞬間
前回の更新情報によると、ピッチはこれまで9滴落ち、予想では今後10年以内に10滴目となるもう1滴が落ちるとされている。
ただし驚くことに、様々なトラブルにより、実際に滴が落ちる瞬間を目撃した人まだ誰一人いないんだそうだ。
ピッチは室温では固体のように見え、ハンマーで叩くと簡単に砕けるほど脆い。一方でこの実験はピッチの粘度が水の約1000億倍であることを示している。
そして漏斗には今もまだ十分なピッチが残っているため、この実験はさらに100年続くといわれている。
教授らがイグノーベル賞を受賞
始めた本人どころか、引き継いだ研究者まで1滴も目にしておらず、存命中に終わらないほど長い実験。
ある意味人類の寿命と根気が試される壮大な実験ともいえるわけだが、2005年にメインストーン教授はトーマス・パーネルとともにイグノーベル賞を受賞した。
イグノーベル賞は、人々の笑いを誘いつつも考えさせられる研究や個人、グループなどに授与されるもので、とりわけユニークでかつ忘れ去られやすいピッチドロップ実験が世界に注目される機会となった。
「さらに100年…」「科学の粘り強さの象徴」の声
この実験を初めて知ったユーザからはこんなコメントが寄せられている。
・100年も続いてるのにもう100年続くって…
・粘度が水の1000億倍って想像つかない
・実際に滴が落ちる瞬間を直に見てみたい
・イグノーベル賞にふさわしいユニークな実験だな
・科学の粘り強さの象徴か
・感動した。
科学者たちの忍耐力に敬意を表したい
現在は24時間ライブストリームから観察可能に
ちなみに現在、この実験は、3代目の研究者、クイーンズ大学のアンドリュー・ホワイト教授に引き継がれている。さらに実験はライブビデオストリームを介して24時間観察できるにようになった。
これならゆっくり過ぎてタイミングが合わなかったり、うっかり見落としたとしても、10年以内のいつかの時点で、史上初でもある記念すべき10滴目の瞬間がきっちり記録されることだろう。
ライブビデオストリームはおよそ160か国から35,000人が視聴中とのこと。気になる人は、大学のピッチドロップ実験のlive video stream[http://thetenthwatch.com/]からさっそくウォッチだ。
References: World's Longest Experiment Running For 100 Years Could Go On For Another Century[https://www.ndtv.com/offbeat/worlds-longest-experiment-running-for-100-years-could-go-on-for-another-century-7038275] / Pitch Drop experiment[https://smp.uq.edu.au/pitch-drop-experiment]