
動物の細胞から万能の幹細胞を作ることはできる。だが最新の研究では、単一の細胞で構成される、動物ならざる単細胞生物から幹細胞を作り出し、それを用いることで動物であるマウスを誕生させることに成功したという。
単細胞生物の「襟鞭毛虫(えりべんもうちゅう)」は、体長10μmにも満たない単細胞生物だが、動物と共に「コアノゾア類」を構成する私たちに近い存在ではある。
襟鞭毛虫の遺伝子から作られた幹細胞を用いて、マウスをを誕生させることができたということは、幹細胞の基本的な仕組みは、動物の登場以前からすでに存在していたこということになる。
非動物の遺伝子から作られた幹細胞でマウスが誕生
2012年にノーベル賞を受賞した山中伸弥氏は、Sox2遺伝子やOct4遺伝子などを利用することで、細胞を再プログラムし、どんな細胞にも変化できる幹細胞(iPS細胞)を作れることを発見した。
じつは動物に一番近い親戚である襟鞭毛虫[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%9F%E9%9E%AD%E6%AF%9B%E8%99%AB](えりべんもうちゅう)は、このSox2遺伝子やOct4遺伝子とほぼ同じ遺伝子を持っている。
そこで今回、香港大学をはじめとする国際的な研究チームは、マウスのSox2遺伝子を使うかわりに、襟鞭毛虫のSox遺伝子でiPS細胞を作ってみた。
このiPS細胞が本当に機能するか確かめるために、これを発達途中のマウスの胚に注入してみる。すると、きちんとしたマウスの赤ちゃんに育ってしまったのだ。
そのマウスと襟鞭毛虫の遺伝子から誕生したキメラマウスは、毛皮の黒いブチ模様や黒い目など、マウス胚とiPS細胞がそれぞれ持っていたはずの特徴がある。
つまり、襟鞭毛虫の遺伝子を利用して作られた幹細胞は、本当に動物を発生させていたということだ。
幹細胞の基本的メカニズムは動物が誕生する以前から存在
単細胞生物である襟鞭毛虫は、じつは幹細胞をもっていない。だが幹細胞に関係する遺伝子があることから、なんらかの目的でそれを使っていたことがわかる。
そしてその機能は、やがて動物が幹細胞を作り、発達するために不可欠なものになったと考えられる。
この新発見は、遺伝子という進化の道具がきわめて多種多様な用途に使われていることを告げている。
多細胞生物が登場するずっと以前、初期の生命たちは遺伝子を利用して、専門的な役割を果たす細胞を作るための仕組みを進化させた。そしてその仕組みは、のちに多細胞生物に応用されていった。
今回の発見は、そうした生物の進化の神秘だけでなく、医療の進歩にもつながるだろうと期待される。
幹細胞の仕組みをより深く理解することで、より効果的な幹細胞治療を考案したり、再生医療に使われる細胞再プログラミング技術が改善されるかもしれない。
こうした動物ならざる生き物の遺伝子は、特定の状況においては、動物の遺伝子よりも優れた性能を発揮する可能性もあるとのことだ。
この研究は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-024-54152-x]』(2024月11月14日付)に掲載された。
References: Scientists Create “Extraordinary” Mouse Using Gene Older Than Animal Life Itself[https://scitechdaily.com/scientists-create-extraordinary-mouse-using-gene-older-than-animal-life-itself/]