
5Gに続く次世代ワイヤレス通信技術「6G」では、人間自身をアンテナ替わりに使って、ウェアラブル電子機器などを充電できるようになるかもしれない。
6Gはまだ開発段階だが2030年までに開始されると予想されている。
マサチューセッツ大学アマースト校の研究者によると、6G通信に可視光通信(VLC)が利用された場合、人体をアンテナとして使用して、漏れたエネルギーを収集して利用することができるという。
6Gの有力候補「可視光通信(VLC)」とは?
気が早いと思うかもしれないが、世界の研究者たちは次なる通信システム「6G」をどのようなものにするべきか、さまざまな可能性を探っている。
その有力候補とされるのが、「可視光通信(VLC)」と呼ばれるものだ。
これはLEDの光の明滅を利用して情報を送信する技術で、いわば光ファイバーのワイヤレス版とみなすことができる。
その仕組みについて、マサチューセッツ大学アマースト校のション・ジエ教授(Jie Xiong)は、プレスリリース[https://www.umass.edu/news/article/next-generation-wireless-technology-may-leverage-human-body-energy]で次のように説明する。
電波信号で情報のワイヤレス送信をする代わりに、LEDの光を使って情報を送信します。LEDならば、1秒間に最大100万回オンオフできます
可視光通信はLEDからエネルギー漏れが発生する弱点も
こうした可視光通信の大きなメリットの1つは、そのためのインフラがすでに普及していることだ。
データを送信するためのLEDは、ごくお馴染みのものだ。家庭でもオフィスでも、LED電球はどこにでもある。
それを受ける受信機だって身の回りにたくさんある。スマホ・タブレット・ノートPCなど、カメラを搭載したものなら何でもOKなのだから。
だがション教授によれば、じつはLEDからエネルギーが漏れているのだという。
その原因は、そこから「サイドチャネル高周波信号」すなわち電波が放出されることだ。つまり、可視光通信システムはエネルギー漏れが大きいという弱点があるのである。
ならば、この漏れたエネルギーを集められれば、それを有効活用できるのではないだろうか? これがション教授らが考案した冴えたアイデアである。
人間アンテナでキャッチ性能が10倍にアップ
そこで教授らはまずは銅線でアンテナを作り、漏れた高周波信号をキャッチできないかどうか試してみた。さらにコイルの巻き方を工夫するなどして、アンテナの効率改善も図った。
そうこうするうちに、面白いことに気がついたのだ。それはアンテナが接触する物体にによって、効率が変わるということだ。
ならばとばかりに、プラスチック・段ボール・木材・鋼鉄など、さまざまな素材を試してみる。そして最終的にたどり着いたのが人体だったというわけだ。
ブレスレット型が最も効率よくエネルギーを回収する
驚いたことに、このアンテナを人体に触れさせておくと、漏れた高周波信号の収集性能がコイル単体だけの場合に比べて10倍にもアップする。
この発見から開発されたのが、「Bracelet+」というデバイスだ。これは腕にはめるブレスレットに銅線コイルを仕込んだもので、可視光通信から漏れるエネルギーを効率的に回収してくれる。
ちなみに、同じものを指輪・ベルト・アンクレット・ネックレスでも作れるが、性能と使用感のバランスの点で、ブレスレット型がベストだったとのこと。さらに安価で、50セント(今なら75円程度)足らずで作れるのも魅力であるそうだ。
Bracelet+はマイクロワットの電力まで扱えるので、体に着用する低消費電力型ヘルスセンサーなど、さまざまなデバイスを動作させられるとのこと。
ション教授の最終的な目標は、「あらゆるソースから廃棄エネルギーを集めて、未来の電力を供給すること」であるそうだ。
この研究[https://people.cs.umass.edu/~minhaocui/sensys22.pdf]は情報ネットワーク学の国際会議『ACM SenSys 2023』でBest Paper Awardを受賞した。
References: Next-generation Wireless Technology May Leverage the Human Body for Energy : UMass Amherst[https://www.umass.edu/news/article/next-generation-wireless-technology-may-leverage-human-body-energy]